第一章5 『初めての戦闘』
迷宮の道は枝分かれはあるが、そのどれもが元の大通りに戻ってきたり行き止まりだったりと、迷わないようきちんと整理されている。
道があり、数分歩くと広間があり、またそこから一本の道があり……といった具合だ。
今のところ魔物には遭遇していない。
まだ歩き始めて十分くらいだしな。そうエンカウント率が高かったらたまったもんじゃない。最初のウルフの群れは、確実に俺を狩りに来ていたからこそ、群れをなしていたのだろう。
いまは何もかもわからずテンパっていたあの時とはちがう。武器を手に入れ、心構えを手に入れた。もう無様な姿はさらさない。
あとは、どれだけ実践慣れをするか、だ。
「――おっと」
広間に出ようとすると、壁に身を寄せるウルフ一体を確認。壁に埋まる、微量に発光する鉱石がウルフの存在を強調している。
緊張する。
偉そうに心構えとは言ったが、やはり実物を見ると少し怯懦になってしまう。
「グルル……!」
隠れていたが、気配を察知したのかウルフが俺の方を睨んでいた。
当然と言えば当然だ。俺から見えていて、向こうから見えていないわけがない。
「くそっ」
即座に剣を引き抜いて広間に出た。俺に戦う意識があるのを見るとウルフが完全に戦闘態勢に入り、身を起こす。
身長は五十センチ程度。体調は一メートルといったところか。
「グアァウッッ!」
「おわっ!?」
さすが野生と言ったところか。俺の事情など考えずに、いきなりとびかかってきた。
それをステップで回避。すぐさま体勢を整える。
ウルフの動きは遅い。いや、遅いということは無いのだろうが、この体のおかげで簡単に避けられた。
それになんだか、戦闘に入ると心臓の鼓動が嘘のように静まり、スッと集中に入った。
ウルフがなんだか先ほどよりも小さく見える。
なんだろう。あれだ、虎の上にネズミが乗れば、そのネズミは落ち着いて辺りを見回すことができる、みたいな感覚。
ウルフは俺より弱い。直感的にそう悟った。
「ガアッ!」
もう、彼我の戦力差を理解した今となっては狼狽えるものはなかった。
目の前にいるのは、実力差もわからない獣一匹。
四足で駆けながら、ウルフが飛び上がって牙を光らせた。
「――ふっ!」
俺は瞬時に姿勢を低くして、ガラ空きの腹を軽く斬りつける。
決着は一瞬だった。ウルフは着地もできずに地面に転がりながら落下。腹からは血ではなく、瘴気のようなどす黒いキリを出して死んでいった。
コロン、とその場に小さな結晶が転がる。魔石だ。
俺は、勝ったのだ。
「おお、なんかあんま実感ねえな……」
剣をしまって、魔石を拾う。あらかじめ貰った麻袋に入れておいた。
デルタの話では、この一階層で出現するウルフやラージラットという魔物を四匹も倒せば、ボロ宿に一拍できるくらいだそうだ。
「あと三匹……!やべえな、俺本気で戦う才能あるじゃん!」
ガッツポーズして、喜びをかみしめる。
戦闘中の感想だが、なんだかあっけなかった。まるで体が覚えているかのように、自然と剣を振るっていたのだ。まるで第三者の肉体を動かしているようだった。
このまま経験を積んでいけば、これを自由に行えるようにもなる。
「よっしゃ、このままバンバン――」
やっていこうぜ、と続けようとして、やめた。奥の方から、二匹のウルフが俺を睨んでいたからだ。
俺は頬を吊り上げて、剣をもう一度構えた。
どうやら今日は、温かい布団の上で眠る事が出来そうだ。
***
基本、戦闘のプロセスは相手が仕掛けてきたときにカウンターを入れる、という方向で落ち着いた。無論状況が変わればこちらからも打って出るが、ウルフの動きは直線状なので読みやすい。カウンターで仕留めたほうが数倍効率がいい。
迷宮に潜ってすでに数時間が経過していた。
戦果は上々、魔石は現在二十個以上もある。最初は不慣れだった戦い方にも要領を覚えてきて、いまではサーチアンドデストロイ。見敵必殺だ。
あ、また一匹発見。
行き止まり道の奥、ウルフが狭い空間に寝転がっている。
俺はもう恐れずに堂々と歩いていく。すると慌てたようにウルフが構えた。
「カモン、五百円」
四匹でボロ宿一拍。つまり簡単に計算すれば1ウルフ約五百円という図式が成り立つのである。完全に舐め腐っていた。
俺の挑発を受けてか、ウルフが身を低くして噛みつこうとしてきた。
「シッ!」
間合いを見極め、領域に入った瞬間入れ違うように踏みこみ、胴体を切り払う。後にはもう、一度うめき声をあげて一粒の魔石が落ちているだけ。チョロイ。
もう戦闘もただの作業みたいになってきた。
明らかにここは俺のレベルと合っていない。
もう下層へ降りる階段は見つかっているし、二階層に降りようとも思ったが、ココは安全マージンを取って止めておいた。それに余裕が出てきたのが遅めだったからな。もうとっくに夕暮れは過ぎただろう。
そろそろ戻ろうか、と思ったとき、壁からネズミの鳴き声が聞こえてきた。
「おっ、最後に良いのがでてきたな」
顔をのぞかせたのは、なんだか妙に愛嬌のあるデカネズミ、ラージラットだ。
いいのが出てきたとは言ったが、こいつは少し倒すのが面倒くさい。
警戒心が強くてなかなか攻めてこないし、かなりすばしっこいのだ。俺の剣技ではまだ捉えきれていない。……まだ初めて一日目で剣技とかいってると勘違い君みたいだなあ。まあ、便宜上、剣技だ。
「ジ、ジジ」
鳴き声は見た目に反して可愛くない。器用に壁を走り、一気に近づいてきた。
「うおっ」
まだ戦ったのは二度目なので、行動パターンは読めているわけじゃない。倒したのは五匹だが。驚きつつも爪を避けて腕を『軽く』斬りつける。
「ジャギィッ!?」
うん、やっぱ可愛くないな。
軽傷を負ったラージラットは、俺を怯えたように見るや否や、すぐさま元の壁穴へと逃げて行ってしまった。
姿を見る確率も低く、戦闘も面倒くさいラージラットの旨味は、これだ。
瀕死まではいかない傷をつけると、すぐに撤退して仲間を呼んでくるのだ。
一度目は早くてたまたまかすり傷をつけたら仲間を呼んできたのでかなり焦ったが、純粋な戦闘力が違うのですぐに倒せた。だから一度の戦闘で五匹倒したということである。
普通に一階層をウロチョロする実力の冒険者ではラージラットは最悪の相手だろうが、俺みたいに余裕のある奴にとっては最高だ。
三十秒もたたないうちに、総勢四匹のラージラットが出てきた。数が増えるとなんか気持ち悪いな。
手傷を負ったやつは後方で見物。三匹が俺を取り囲む形となった。
多対一で同時に攻め込まれるとさすがに捌ききれないので、今回は俺から出る。
まず、思いきり踏みこみ、一匹の眼前に移動。
「お……らっ!」
剣の腹でアゴをかちあげてやると、ネズミは面白いように飛んでいった。決定打にはならないが、戻ってくるまで十秒はかかる。それまでに――
一匹が驚愕を解き、俺の前に走る。タイミングを見て剣を振り下ろしたが、俊敏な動きで横に回避された。しかしそこから、力任せに剣を横薙ぎする。
バカみたいな膂力で振られた剣は、完全に避けきったと油断していたラージラットを真っ二つに両断した。
残るはあと三匹。しかしそのうち二匹はケガと吹き飛ばされろくに戦闘準備も取っていない。
「ジィ!」
やっと体制を整えた一匹に向かってダッシュ。やはり一撃は避けられたが、爪攻撃の合間に脇腹を切り裂いてやると、もう立ち上がってこなかった。
向こうから最初に飛ばしたネズミが走ってくるのを確認したが、まだ余裕がある。怪我の回復に努めた個体へと距離を詰め、一閃。
「ふうっ」
戦闘が終わったかのように一息ついた。実際、一匹のラージラットなど全く脅威ではない。
仲間と合流して袋叩きにしてやると息を巻いて戻ってきたラージラットは、魔石と成り果てた三匹を見てすっとんきょうな鳴き声を上げた。
「……」
「……」
見つめ合う二人(?)。
ラージラットは冷や汗だらだら、俺はにんまりと笑っていた。
今更逃げようと背を向けたが、もう遅い。初速の違いで追いつき、無防備な背中を斬ってやる。ラージラットは傷口から黒いモヤを出して、魔石となった。
「ふう、今日はこれで上がりだな」
もともと帰る道中だったので、出口は近い。
その後は敵と会うこともなく、順調に迷宮を脱出した。
***
迷宮を出ると、兵士に冗談交じりに『ウルフは倒せたのか?』と聞かれたので、魔石を見せると大層驚かれた。そりゃそうだ、俺も驚いてる。
もうすでに太陽は完全に傾いていて、辺りは夜になっていた。
「異世界にも月ってあるんだ……」
太陽があれば、当たり前にあるか。
足早にギルドを目指す。もう空腹で倒れそうだ。早くこれを換金して、宿を取ってさっさと寝たい。今日は色々ありすぎて疲れた。
異世界に来ちゃったのを色々で済ませる俺もすごいな。いや、バカという意味で。
だが、来ちゃったものは仕方ない。騒ぎ立てて立ち止まっていれば、俺はいまだに迷宮から逃げ出すことすらできていなかったかもしれないのだ。
ポジティブにいこうぜ、ポジティブに。
しかしあれだな。俺の全財産が制服のポケットに入った麻袋の中にあるというのは、とても不用心な気がする。またポーチでも買おう。
街は昼とは違った賑わいを見せていた。
朝、街の外に狩りに行った冒険者たちが、今日の成果で酒を飲んで暴れているのだ。
開放的な酒場で、木のコップを打ち付けてやんややんやと騒いでいる。元気なもんだ。
そんな俺の目は、彼らの酒ではなく、料理にいっていた。
肉だ。それも、ニワトリを一匹丸ごと焼いたような豪勢なヤツ。
それは傍目から見てもとんでもなく美味そうで、街灯に焼けた脂が反射して、輝いて見えた。
じゅるり、と知らない間によだれが垂れていた。……いつか、稼げるようになったらあれを食べに行こう。それまでは絶対に死ねない。
「おっと、すいません」
肉の誘惑にほだされ、人にぶつかりそうになった。あぶねえあぶねえ。こんな涎まみれでぶつかったら絶対にひと悶着になる。
しかし、さっきの酒場を見てて思ったが、彼らは一人ではない。
一人ではないとは、ボッチっていう意味じゃないぞ。俺のボッチを強調したわけでもない。
つまり、皆パーティーを組んでいるのだ。タンクっぽい重戦士や軽装の剣士なんかを見ると、きちんと前衛中衛をわけて役割分担をして、戦闘の危険を下げているのだろう。
俺はまだソロでも十分に戦えるが、この先もずっと一人でどうかと言われると頷けない。きっと一人ではつまずくことがある。この世界では、それが死の瞬間かもしれない。
迷宮にも、罠なんかがあるのだろうか。あったら俺はその解除方法なんて知らないし、索敵の技術もない。ないない尽くしだ。
パーティーか。信用できる奴を探しておこう。
そんなこんなで歩いていると、ギルドについた。
つーか、うるせえな。まだ扉もあけてないのに、酔っ払いの叫び声が響いてくる。
こういうとこに入るのはやっぱりちょっとコワイ。俺はびびりな面が強かったから、力を持っていたとしてもそれが消えることは無い。
物理的にも酔っ払いたちには勝てないだろうからタチが悪い。
でも、入らなければ宿代も確保できないので、意を決して扉を開ける。やはり中は酔っ払いの集まりだった。
ウェイトレスが忙しそうに料理や酒を運んでいる。
カウンターにはデルタがいて、彼は既に俺に気づいていた。ぺこりと頭を下げると、気のいい笑顔で出迎えてくれた。
「よお、どうだった?」
「自分では、それなりに上手くできたと思います」
「おお、やっぱり俺の目に狂いはなかった!」
カウンターに魔石を広げる。すると、デルタは自分のことのように嬉しそうに笑った。いいね、こう気持ちよく笑ってもらえると、俺も嬉しくなる。笑顔スパイラルだ。
「うっわ……絶対逃げ帰ってくると思ってたのにニャ」
「ルカ!さぼるな!」
「ニャニャ!」
受付嬢は器用に肩や頭に料理を乗せ、運ぶ傍らにその様子を覗いていた。彼女は新人さんらしい。先輩らしき女の人に態度を叱られていた。ざまあみろ、お客様は神様なんでい。
「今日は何階層まで下りたんだ?」
「一階層止まりです。初日にあまり危険は踏みたくなかったんでね」
「……」
「どうしたんですか?」
デルタがぽかんとした顔で見てきた。
「いやなに、なんか若えのに妙に謙遜する奴だと思ってな」
どうやら謙遜というのは日本人の美徳というやつらしくてね。もう褒められたら否定するのが当たり前みたいなもんですよ。
「俺のころも含めて、みんな尖がってたからなあ。お前みたいに落ち着いてるのは魔術師くらいだった」
「もやしっ子なもんで」
見た目からして周りは血気盛んな人が多いようだ。俺も、舐められないように少しは威厳とか出した方が良いのかな。いやいや待て待て、ケンカに発展してボコボコにされたらそれこそバカみたいだ。威厳を出すにしても、他のやり方にしよう。
デルタが指を鳴らすと奥から女性が出てきた。女性とはいっても結構歳がいってる。おばさんだ。いったい何のために呼んだのだろう。
「これ、買い取りでいいんだよな?」
「ああ、なるほど……お願いします」
女性は一礼して、魔石を横で数え始めた。
数えてる間、ヒマだな。どうやって時間をつぶそう、と会話のネタになりそうなものを考えていると、ふと腰に差した剣のことを思い出した。
「そういえばこの剣、返した方が良いですかね?」
今日の稼ぎで、無駄遣いをしなかったらナイフくらいは買える金は残るはずだ。露店で見ていたが、樽の中に百本くらい入れてたたき売りされてたし。
「いんにゃ、大丈夫だって。その剣はもうお前のもんだ。いまさら落とした奴も諦めてるだろうし、なんかあったら俺が責任を取る。弁償すりゃ済むハナシだ」
「それは……ありがたいです。本の事といい優しくしてもらってすいません」
「いいってことよ。有望な新人に目をかけるのは、年寄りの生きがいだからな」
ここまで言われると、逆に断るのが失礼だ。剣はありがたくもらっておこう。
「ああ、そうだ。本のことなんだけどな」
「なにか不都合でもあったんですか?」
「いや、そういうわけじゃねえ。オレ個人としてお前に話があるから、できれば明日の都合のつくとき……俺の仕事が終わるころに俺ん家に来てほしいんだ」
「家、ですか」
ちょっと怪しいな。いや、でも本のこともあるし、変な態度はとれない。
「自慢じゃねえが、大通りに面した一等地だ。騒ぎなんて起こせねえし、お前にとっても悪い話をするわけじゃない。飯も用意しとく」
俺の無粋な猜疑心はとっくに見抜かれていた。バツが悪いので、苦笑しながら言う。
「ああ、そういうことなら。すみません、変に言警戒してしまって」
「ハッ、優しくあれこれして急に話があるって言われれば、勘ぐるのも当然だ。気にするこたあねえ」
気を害した様子はなさそうだ。というか、優しくしてる自覚はあるんだな。
「グレンは明日も迷宮に潜るのか?」
「いえ、明日は少し街を見て回って、生活用品を整えようかと。旅で色々無くなってしまったので。迷宮に潜るのは明後日ですね」
「そうか、まあがんばれ。死なないように気を付けりゃ、何度でもチャンスはあるさ。……って、左腕ない俺が言うのもなんだけどな」
本人は笑ってたが、笑っていいのかわからないから遠慮気味の笑みだけ作っておいた。この世界の笑いはブラックジョークすぎんよ……。
「グレン様、こちらが今回の買い取り金額です」
と、そこでタイミングを見計らっていたギルド職員がスッとお金を差し出してきた。貨幣価値を昼の間に教わっておいてよかった。今の忙しい時間帯では聞くに聞けない。
「んじゃ、気ぃつけてな」
「はい、色々とありがとうございます……そういえば、迷宮に罠とかってあります?」
罠があるのなら、早急に対策を取らなければなるまい。麻痺毒とかあったらその時点でお陀仏だからな。
「うーん、あるにはあるが、ここのは初心者用だからな。五階より上は無かったと思うが、知りたいなら調べとくか?記録も残ってるだろうし」
「迷惑じゃなければ、ぜひ」
「わかった、やっとく。もうそろそろ宿が客を集め終わる時間だから、急いだ方が良いぞ」
なに、マジでか。
そういうことは早く言ってほしい。
俺はダッシュでギルドを出た。温かいご飯、温かいベッドが俺を待ってるぜ。
***
「いやー、快勝だったな!」
ギルドでの換金を終え、本日の宿屋も確保。少々硬いベッドの上でお金を広げながらゲス顔で笑う。
銀貨四枚に、銅貨の中でも価値の低い小銅貨が数枚。これだけあれば、この宿屋に贅沢しても四泊はできる。
これで、当面の資金は心配ない。
金に余裕もできたことだし、明日は生活用品を買うために、街を散策することにする。
つまりショッピングだ。今日みたいに陳列された商品を傍から眺めるような貧乏人とはおさらばさ。冷やかしは睨まれるというのは今日のことで勉強した。
少しは金を溜めておこうかとも考えたが、いろいろ考えた結果使うことにした。金は天下の回り物というし、いうなれば今日の稼ぎは初のお給料だ。散在しちゃっても文句を言われる筋合いはない。
それに、新天地で荷物もなしともなれば、必要なものはたくさんある。貯金についてはそのあとでいいだろう。
やはりどの世界でも金はいくらあっても足りないな。
装備も整えなくてはだし、魔道具というのも欲しい。利便性が高いものはそれだけで高価だろうが、あれば便利だ。タワシはいらないけどな
装備が強くなれば、それに応じて冒険できる範囲も広がる。そうすれば、収益も順当に伸びていく。防具屋の店頭で並んでいた赤竜の盾とか、目が飛び出るほど高かったしな。金貨八十枚だっけか。
「パーティーとかも組んでみたいな」
前衛だけでは心もとないときもあるかもしれない。魔術師やヒーラーが欲しいな。
まだ立ち位置が決まらない俺は置いておいて、魔物と切った張ったの勝負をする前衛に、タイミングを見て魔獣で支援攻撃をする魔術師。傷を負えば即座に治癒術師による援護が入る。
素晴らしい、こういうのが本物の冒険者というやつだ。憧れる。
「ああ、いいな。スゲエ楽しい!」
興奮が冷めず、ベッドの上でジタバタと暴れる。どうしようもない感慨が熱を発して止まらない。
この世界の英雄たちも、最初はこうやって一人から始まったのだろうか。
やがて仲間が出来て、宿の同じ部屋でくっちゃべって騒いで笑って。
本などでは仰々しく書かれている人も、案外会ってみると普通の人なのかもしれない。
当たり前か、人なんだから。
地球ではボッチ気味であった俺だが、異世界に来たからには華々しくデビューしてやるぜ。
そんなことを考えつつ、俺は眠った。
明日からは、本格的に異世界を満喫しよう。