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猿真似演技序盤項目

作者: 愛石世界

君と向かい合って話すのはもしかしたら初めてかもしれないしそうじゃないかもしれない。

君との思い出なんて今は昔、とうに忘れてしまったよ。

ちっぽけで古ぼけた店内はとてもじゃないけど綺麗とは言えない。

そんな場所で君と私、二人きり。

なけなしのお金で注文した一杯のラーメンを間に置いて、湯気の狭間にお互いの瞳を見つめ合う。

不祥事は一度切り。

それも遊戯のような肌の寄せ合い。

あの頃はきっとお互いがお互いの運命を変えると信じ切っていたんじゃないだろうか。

忘れてしまったけど。

いや、嘘だよ。

全部ちゃーんと憶えてる。

でも忘れたことにしたっていいじゃない。

きっと君もそのつもり。

他愛もない話の中途に浮かぶ空白の沈黙。

刹那に終わるそれがとても私達の距離を物語っている。

私には愛しいと思える人ができた。

君にはいない。

君は探すこともしないし、諦めたと言う。

私は笑って否定も肯定もしない。

それが君と私の違いだと、分け合った小鉢のラーメンを啜って応える。

瞳の色も動きも向きも、とてもとても似ている。

それが唯一の私と君の共通点。

相手を見ている。

だけど

相手を視ていない。

私は見目を移さない瞳を、君は中身を移さない瞳を。

遠いようで近いその見え方。

私達は歪んでいる。

知りたいか。

識りたくないか。


選んだ答はきっと違う。


愛し方が分からない。

ならば私はそれを見つけたいし識りたい。

君はそんなもの知らなくてもいいと嗤う。


喧騒から離れた都会の路地裏君と私の肌は触れ合わない。

例え事故で触れたとしても謝るのだろう。

恋ではない。

愛でもない。

君と私は魂の分身。

世界の人体実験被験体。


ぞっとするね。

こんなに違うのに、こんなに似ているから。

私はあの子を愛する。

愛されたくて愛されなければ生きていけなくて、がむしゃらに求めたら見つかったのに

その時にはたくさんの人を巻き添えにしていた。

でもこの子だ、と決めたから、私は誰かの涙の上でこの恋をする。

愛を知るために。

君はまだ旅の途中。

誰かがいるかもしらないから、かつての私と同じことを繰り返してる。

でも君はその旅を終わらせる気は無いのでしょう。


きっと君も私も人間じゃない。

あるべき機能を持って生まれなかった。

その事を悲観するより先に

使命を識り、遂行すべく生きるのでしょう。

私とは違った生き方で。

君とは違った生き方で。

重なることの無いように。


演目は神様の飽きるまで続く。

毒煙を撒き散らし、肺に入れ、休憩しながら私達はその時を待つ。


結果は出ました、これにて終演。

その言葉をもらうまで。


くるくると踊り続けるのでしょう。


それでも私は君の幸せを願ってます。

君がきっと私の幸せを願うように。

君が私を守るなら私は君を守りましょう。


愛は形も色も無いけれど

どうか見つけてくださいと

私と君をこの空の間に生まれ落とした気まぐれに

終わりのそのカーテンコールが鳴るまでは

どうかどうか

渇いた笑顔ですら無くさずに

幸せであれと、願うのです。


君と私。

生きるべくして生きているのだから。


食べ終わった空のどんぶりに

少しの麺とネギを残して

多分美味しくもまずくもなかったこのちっぽけで古ぼけたラーメン屋。

まだ暗い世界の中の一つの国の細い道を。

手を繋ぐこともなく、私達は歩いていく。


大きな声で笑いながら。


さて、第二幕の始まり、と。

世界には自分に似た人が三人いると言いますね。

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