希望の光1
立見は一人で立ち尽くしていた。目の前には誰も座っていないベンチ。ここは、立見が純香に告白をされた公園前だ。立見はため息をつき、腕時計を見る。針は6時過ぎを指していた。
「何してんだろ……」
立見は風船の空気が抜けるように、力をなくした。ベンチに腰を落とす。立見がここに足を止めた理由は、あの女性、つまり純香がまた待っているのではないかと心配したからだ。けして、期待していたわけではない。それに、取り越し苦労だったようだ。
立見は、女性にもてあそばれているのではないかと考え始めた。そもそも、若い女性がこんな中年を好きになること自体がおかしい。自分は暇つぶしにされているのではと、不安になってきた。
それが本当なら、自分はなんと愚かなのだろう。立見は落胆し、そして期待した。これが茶番なら救われる。何も知らない女性に対し、頭を悩ますのは終わりだ。立見は空を見上げる。近くにある街灯のあかりが、希望の光に見えた。
しばらく黒い空を眺めてから、腰を上げる。電車の時間を確かめようと、ケータイを取り出した。画面の眩しい光が、立見の目を刺激する。
その時だった。立見の後ろから足音と荒い息が聞こえてきた。
「立見さん!?」
立見は聞き覚えのある声に振り向く。そこにいたのは、あの女性だった。マフラーがほどけているのも気にせず、真っ赤な顔で走ってくる。
「…立見さん……」
目の前の女性は、今にも泣きそうな顔をしている。立見の期待は大外れだった。嬉しさで泣き出しそうな女性が、自分のことをもてあそんでいるわけがない。女性の本気に、今更ながら心が痛くなった。