表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歳の恋  作者: 新庄
5/13

重い想い  立見吉喜


 立見はいつもより1時間遅く、マンションに帰った。暗い部屋に電気を点けていく。時刻は10時半。立見は壁時計を見て、ため息をつく。時計の下にある電話機の赤いランプに気がついた。押すと、母親からの留守電が入っていた。「かけなおしてほしい」とのこと。立見はスーツを着たまま、受話器を握った。コールの4回目で母親が出る。変わらない声に、立見は安心した。 


 「もしもし、吉喜。何か用事?」

『用事って…。あんたが自分から電話してこないからでしょ?』


 ため息をつく母親の後ろからは、テレビの音が聞こえてくる。母親は、父が最近耳が遠くなりだしたのだと、ぼやいてきた。日に日にテレビの音量が大きくなっているらしい。


 『正月よ。いつ帰ってくるの?』

「仕事があるから、分からない」

『また…。有休使いなさいよ。侑矢は、孫と千恵美さん連れて帰ってくるのよ』

「………」


 侑矢とは立見の2つ下の弟で、千恵美さんはその妻だ。2人の間には中1の娘がいる。立見は正直、この家族に会うのが嫌だった。子供が苦手というのもあるが、何よりも、自分の居心地の悪さを感じる。

 弟は仕事はそこそこなものの、家族を手に入れ幸せに暮らしている。一方の兄は、仕事は順調。しかし何もない。あるのは空虚感だけ。


 「考えとく……」


 立見の返事に、母親は何も言わなくなった。そして、「ほなな」と似合いもしない関西弁で電話を切ったのだ。

 

 立見はスーツを脱ぐと、小さな冷蔵庫から缶ビールを取り出した。テレビもつけずに静かに飲む。部屋には、ビールが喉を通る音が響いた。頭にはあの女性。名前すら思い出せなかった。覚えているのは、あの真っ直ぐ素直な目。


 「夏…何とかだったんだけどな……」


 立見は物覚えの悪さに嫌気がさした。20歳の女性には、まだまだ未来がある。他にいくらでも男なんて作れるし、これから夢に向かって勉強することもできる。

 しかし、立見には先がなかった。気が付けば、もう結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。だからと言って……。


 「だめだ……。頭が………」


 見ると、机には缶ビールが3本。酔いも回りはじめてきた。

 時刻は11時半。これからご飯を食べて、風呂に入らないといけない。立見は重い腰を上げ、台所へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ