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歳の恋  作者: 新庄
4/13

きっかけ3

 

 「………すまないけど、無理だ。好意を嬉しいとすら思わない」


 男はやっと言葉を口にする。もうグラスの水は残っていない。喉はカラカラで気持ちが悪い。店内のききすぎた暖房が、余計に喉を刺激する。正直喋りたくなかった。必死で唾を飲み込んでいく。

 

 「……歳の、せいですか」

「そうだね。ただ単に、君と俺とじゃ合わないってだけかも」

「憶測でモノは語らないことです。高校の担任だった先生の口癖…」


 女性はハハっと笑うと、自分のグラスを手に取った。まだ半分も水が残っている。男は何も言わず、その様子を眺めた。

 

 「でも、ちょっと悲しいな」

 

 女性はグラスを置き、背もたれにもたれた。水を飲んで潤ったせいか、先ほどより女性の声が鋭くなっていた。


 「好意すら伝わってないなんて」


 女性のグラスも空になった。注文したオムライスもきれいにさらえてある。意外に品が良い。

 男は椅子に掛けていたコートを着始めた。もう終わりにしようと思ったし、この話は終わったと思った。


 「あなたは、どんな人を好きになるんですか?」


 座ったまま、女性は聞く。


 「君みたいに、俺のことを何も知らない人のことは好きにならない。俺だって、何も知らない人のことなんて、好きになれない」

「なら、あなたのことを教えて? 私も教える」


 男はしばらく黙る。コートを着る間は女性の目を見なくて済むから、気が楽だった。


 「…名前だけでもいい。今日はそれで帰ります」

「……立見吉喜たつみよしき

「きれいな名前。私は夏生純香なつおすみか。近くの専門学校に通ってます。デザイン系」


 立見がレシートを持って歩く後を、純香はちょこちょことついていく。立見の手からレシートをスッと抜いた。

 

 「自分の分。払えます」

「ふっ…。払えます、か」



 外に出ると、二人は寒さに身震いした。吐いた白い息が自分にかかる。風も吹いていた。

 

 「俺は、自分のことを話すつもりはない」


 純香は余裕の笑みを浮かべた。


 「なら、立見さんが私のことを知ってください。『何も知らない人のことなんて、好きになれないよ』なら、私はその逆に賭けます」

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