表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歳の恋  作者: 新庄
2/13

きっかけ1

 

 男が選んだのは、大通りに並んだファミレス。女性に気を配りながら前を歩いた。

 ファミレスの中は子連れの親や、部活帰りの高校生などでにぎわっていた。男は席につくと、暑そうに黒いコートを脱ぐ。スーツになった男のシルエットは細く、女性は羨ましいのか驚いているのか、じっと見ていた。男はその視線をそらすように、店員が運んできた水をすかさず飲んだ。冷たい感覚が男の喉を刺激する。女性も水を飲んだ。口紅の鮮やかな赤色が、グラスに薄く残る。

 

 「注文は?する?」

 

 女性は遠慮をしながらも、男の手からメニューを受け取った。無理もない。長時間男のことを待っていたのだろうから。

 

 「・・・じゃあ、オムライス」


 女性は呟くと、呼び出しのボタンを押した。男はその指先に目をやる。女性の指先は寒さで赤いままだった。

 

 「いつから待ってたんだ?」


 店員への注文を終えた女性に男は尋ねた。


 「・・・5時、くらいから」

「何でそんなに・・・!?」

「だって、あなたがいつ仕事から帰ってくるかなんてわからなかったし・・・。だから、帰り道で待ってたんです」


 男は女性の発言に顔を歪ました。


 「何で俺の帰り道を?」


 男は疑った。ひょっとしたら、この女性は自分のストーカーなのかもしれないと。もう一度水を飲み、女性を凝視する。男の態度を感じ取ったのか、女性は目を見開いた。


 「別に、つけてたわけじゃないですよ!!私、あの公園の近くのカフェでバイトしてるんです。窓からあなたが通るのを見てただけ」

「見ますかね。普通・・・こんな男の通る姿なんて」

「す、好きだから、見ちゃうんですよ・・・!」

「何で好きなの」

 

 男は冷静に言葉を返していった。これがサラリーマンの大人の対応なのだろうか。女性は、少し浮かしてしまった腰を恥ずかしそうにおろした。


 「好きに理由なんていりますか?」

「俺が聞いてるのはそんなことじゃない。きっかけぐらいあるだろ」


 女性は顔をうつむけた。男は少し熱くなってしまった自分を責める。首を絞めつけているネクタイを緩め、息を吐いた。この女性が自分に好意を寄せていることが、熱くなってしまうほど信じられない。男はまた水を飲む。自分の乾きを潤すのに精一杯だった。


 「言ったでしょ?私、カフェでバイトしてるって。覚えてませんか?」


 女性は自分の髪を後ろで束ねてみせた。鋭く真剣な目で見つめてくる女性に、男は向き合ってみせたが、思い出すことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ