新たな朝
田仲は唖然とした。昨日まで長く茶色かった純香の髪が、首が丸見えになるほど短くなっていた。純香がマフラーを外した瞬間の、衝撃だった。田仲はゆっくりと近づく。
「好きなやつにでも、ふられたか?」
いつものように、皮肉から純香に話しかける。
「うん。すっきりした…」
純香は素直に答える。その反応に田仲は驚いた。すっきりしたとは髪のことか。それとも気持ちの面でか。いい返答が思いつかない。
「ははっ。そこは馬鹿にするとこでしょー!?」
純香は豪快な笑顔を見せる。ちらりと見える八重歯が、幼さを感じさせた。
「…まぁ、モテるんだし。他に男なんていくらでもいるしな」
田仲は、珍しく真面目に返した。
「…笑えよ。馬鹿」
「……ごめん」
「田仲が謝るの、初めて聞いたかも。あっ! 先生にはしょっちゅう怒られて、謝ってるかー」
「うるせっ!」
「ははっ。ジョーダンよ」
「佐藤、今日空いてるか?」
挨拶より先に、立見に誘われた佐藤。会社の入り口で立ち止まる。
「…っびっくりした」
「すまん」
「飲みに行きたいのか? お前の愚痴なら、喜んで聞いてやるよ」
「悪いな。夜中まで付き合わすかもしれん…。嫁さんは、大丈夫か?」
「立見と飲むんだったら、安心してオッケーくれるぞ。まったく……」
「そうか。助かる」
立見はおかしそうに笑う。
2人の新しい朝が始まった。