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歳の恋  作者: 新庄
11/13

過去


 純香の話を要約すると、こんな感じだった。

 一人目の男は、いい加減なやつだった。純香の派手な服装を見て、興味を持ち近づいてきた。性格が合わず、付き合って3か月で別れた。別れた後、しつこく付きまとわれ、警察に相談するまでになった。

 次は、頭の悪い男。世の中の愚痴をいつも聞かされた。純香が反論すると、暴力に走る男だった。

 次は、同じ大学の先輩。アニメオタクだった。



 「だから、今度は優しい人を自分が好きになろうと思いました」


 立見は、純香の話を相槌も忘れて聞いていた。見た目からは想像できない過去。純香に好意を持っていない自分に話されるのは、正直重たかった。

 しかし、立見は純香の顔から目をそらさなかった。


 「焦ることないじゃないか。君は今までろくな男に出会えなかったから、焦ってるんだよ。だから、少し優しさを感じた男にすがっているだけだ」

「ち、違います…!」

「君はまだ若い。俺に執着する必要もない」


 純香は、今の自分をすべて否定された気持ちになった。真剣に自分の話を聞いている、立見の姿勢が嬉しい。同時に怖かった。


 「立見さんには、好きな人がいるんですか?」


 純香は逃げ道を作りたかった。立見がこんなにも拒むのは、他に好きな人がいるからだと。叶わない恋と分かれば、気持ちが楽になる。しかし、立見は「いない」と短く答え、ビールを飲んだ。


 「たぶん、これからも好きな人はできない。45年間そうだったんだ。これからも……」

「好きな人、できたことないんですか…?」

「女性を好きになれないんだよ」

「えっ……。それって…」


 純香は息をのむ。


 「ゲイって…こと、ですか?」

「……違うね」


 立見は苦笑いする。


 「何だろうな。今まで何人かと付き合ったことはあるけど、好きになれなかった。女性のことは可愛いと思う。でも、好きになれなかった。友人には、理想が高いと言われた」

「どんな人がタイプなんですか?」

「ほっといてくれる人」


 純香は目を見開く。タイプが『ほっといてくれる人』と言った男性は初めてだった。男友達は、料理が上手だとか、可愛くて優しい人だとか、芸能人に例えて答えるのが普通だった。色気のある女性がいいと言う男もいた。

 立見との間に、今更ながら歳の差を感じてしまう。ほっといてくれる女性がいいと言う、大人の余裕。純香は、ほっとかれることに不安しか抱けない。立見には、それが安心になってしまうらしい。


 「私、努力します…」

「ほらな。そうやって君は、自分の人生を他人に預けてしまう」

「何が、いけないんですか…! それが好きってことでしょ!?」

「重いよ。まだまだ先のある、君の人生を預けられるのは。俺は、人にあと半分ともわからない人生を預けるなんてできない」


 純香は何も言えなかった。体の中に悲しさが溜まっていく。先ほどから飲んでいるチューハイが、急に胃を刺激し始めた。お腹がキリキリと痛い。怒りまでが込み上げてきた。自分の好意を、重いと言う立見。自分の人生を他人に預けられないのは、立見の弱さだと思った。


 「やっぱり、君と俺とじゃ歳が違いすぎる。…俺の言ってること、理解できないだろ?」

「歳なんて関係ないですよ。私が聞きたいのは、好きか嫌いか。ただ…それだけ……。はっきり言ってください」

 

 純香は下を向き、込み上げてくる感情を抑えようとする。かわりに、あふれてきた涙が膝に落ちた。

 

 「下について働いていると、人にはっきりと意見を言うことすら、怖くなるんだ…」

「意味わかんない…!!」


 

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