再会
午後6時過ぎ。立見と純香は再会した。してしまった。立見は息を整える純香を無言で見る。純香は、マフラーを巻き直すと口を開いた。
「待っててくれたんですか…?」
「そんなわけないだろ」
純香の大きな瞳から、素早く目を背ける立見。なぜか、とても冷たい言葉を吐いてしまった。
「…すまない。今のは、嘘だ……。君が来ているかもしれないと、足を止めていた。でも、もう帰るつもりだった」
「時間とってくれませんか?」
純香は、そっと立見の袖を握る。
「あぁ。ちゃんと話をつけよう」
純香はこの時確信する。立見が自分の好意を受け取る気がないことを。しかし、立見と話せる嬉しさが勝り、小さく頷いた。握っていた袖を離す。
「君、どこか個室のある店を知ってる? 仕切りでもいいが…」
「前のファミレスじゃダメなんですか?」
「あぁ…。まぁ」
立見は、変に気にしすぎる性分だった。同じファミレスに2人が姿を見せるのは、2人の関係性を証明してしまうリスクが伴うかもしれない。純香は何か感じ取ったのか、立見の少しを前を歩き出した。
案内されたのは、落ち着いた雰囲気の店だった。純香のセンスの良さに、立見は内心興奮する。早く入りたいとすら思った。
入ってみると、内装もやはり落ち着いていて、オレンジの照明が柔らかな雰囲気を演出していた。個室に入り席につくと、純香は大きな声を漏らした。
「よかったぁ~。もう会えないかと思った~」
店員にチューハイを注文する。立見もビールを注文した。すでに店の雰囲気に心が浮かれていた。
「そんなに心配だったなら、何で連絡先を聞かなかったんだ?」
立見は疑問をぶつけた。自分に好意を寄せながら、変に距離をとる純香が不思議だったのだ。純香が顔を上げると、そこには真剣な目があった。
「……私、告白された好きでもない人に、メアドだけ教えたことがあるんです。そしたら毎日メールがきて、正直しんどかった。相手に何か期待をさせてるんじゃないかって、辛かったです。立見さんは優しい人だから、そうなるんじゃないかと思って…。私、メアド聞いたら絶対しちゃうし」
立見は、純香が男慣れしていると知った。男受けのいい店に案内したり、重すぎない女を演じたり、男に告白されたことがあったり。立見は疑問を増やす。
「…何で、俺なんだ?」
「何でって、どういう意味ですか」
「君は、初恋に溺れてるってわけでもなさそうだ。恋愛経験も豊富だろう。なのに、何で45歳のサラリーマンを選ぶんだ」
「立見さんは優しい人だから。今だって、私を無理に拒絶したりしてないでしょ? 普通なら嫌がる。こんな女…。同い年に、こんなに落ち着いて話せる人はいません……。私、初めて会った時より立見さんを好きになってる」
純香は、薄いピンクのチューハイを飲んだ。
「これからも好きになっていくと思う。それが、立見さんを選ぶ理由です」
純香は真っ直ぐ立見を見た。やはり視線をそらされる。
「…正直、嬉しいよ。こんな男にそんな告白。俺も男なんだな…。ははっ…」
「その言い方嫌です。嬉しいなんて言葉で誤魔化さないでください。私、告白してるんですよ…!」
純香の口数は増え、強くなっていた。緊張のせいで、自分が酔いやすい体質だということを忘れていた。好きなはずの立見の落ち着きが、もどかしく思えてきた。
「君は、自分を好きになってくれる人と付き合うべきだ。俺は、君を恋愛対象としては見れない」
立見もビールを飲む。味を感じなかった。ただ、冷たいものが喉を通っていく。
「私を好きになる人は、みんなろくでもない人でした」
純香の口から過去が語られ始めた。