The snow will come? ユキフル?
ひさびさの投稿です。よろしくお願いします。
「じゃあ、お前コクれよ」
教室の片隅で男子たちが群がって話している。よく同じメンバーで固まっている。窓の外では枯れ葉が木枯らしによって宙を待っている。
「コクるだぁ?アホ言ってんじゃねーよ。そんなんできるかよ」ムキになって言い返す。
「おまえさ、一年の頃からあいつのことがどうのこうのいってたじゃんか。しかもよ、クラスが違ってもちゃっかり同じ委員会に入ってさ。やっぱ気があるんだろ」別の男子が冷やかしている口調でそう言った。
「ちげーよ。あれは単なる偶然だ。俺もそんなんなるとは思ってなかったんだよ」今回は、後半になるにつれ声の張り合いがなくなった。
「ほーれ見ろ、やっぱり照れてんじゃね―か。しかもいまは委員長と副委員長だとよ。お前らいい加減付き合ってもいいんじゃないか?」3人目の男子もやはりからかい口調で言う。
「お前ら少しうるせーぞ。それ以上…」
「北上くん。これ、後で配っておいてくれないかい?」会話の途中で、話題の中心となっていた彼は教師に呼ばれた。残された男子たちは、どのようにして北上に告白を成功させるかを話し出した
しばらくして授業開始のチャイムが鳴った。
眠気との戦いを制した北上は、永戸達にまた先ほどの話題に強制的に連行された。
「じゃあ北上。賭けをしないか?残念ながらバレンタインデーは過ぎてしまった。ならばここで狙うべきはもちろん卒業式だろ。お前が賭けに勝ったらコクらなくてもいいが、まけたらちゃんとコクって来いよ。いいチャンスだろ」永戸がそういった。北上は少し考えた。彼自身も何かきっかけがほしくなかったと言えば、それはウソになる。
「賭けの内容にもよるな。あいにく受験はすでに終わり、俺はあいつとはてんで違う高校に行くことになってるから」
「じゃあ決まりだな。賭けの内容は…何がいいかな。三隅、漆瀬、お前らはなんかいい案とかあるか?」
三隅も、漆瀬も首を横に振る。大事な様で、大事じゃない、なんともグレーゾンド真ん中の事柄を決めるため数人は頭を悩ました。
しばらくして漆瀬がポンと手を叩いた。
「じゃあさ、ここはシンプルに卒業式の日に雪が降るかどうかを賭けるってのはどうだ?」
「いや、それってシンプルなのか」という北上の些細な抵抗は完全に無視され、全会一致の快諾となった。賭けの内容は決まった。
「忘れないのと、万が一北上がばっくれねーように証明書作っとくからよ。俺らは、雪が降るほうにかけるぜ。雪中での告白。来るもんがあるね」三隅も汚名返上とばかりに提案を持ちかける。それを聞いたリーダー永戸は満足そうにうなずいた。
「よーし。じゃあ北上。期待してんぞ」
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学校が終わり、北上は図書館に寄ることにした。文庫本コーナーを物色する。彼はハードカバーで大判の作品はかさばるから普段は読まないことが、多いのだが不幸なことに北上が好きな著者の最新刊はたいていハードカバー大判の形で出版される。今回の新作は、とある叙事詩を題材にヨーロッパ全土を駆け巡る長編ミステリーだ。宣伝で見た限り、かなり期待できそうな作品なのだ。彼は、その上下本をわきに抱え文庫本コーナーを後にし、科学系統の書物が置いてある棚へと向かった。ここはふだんあまり使わないので、目的の本が何所にあるかわからない。書架検索でヒットしたが正確な位置まではわからなかった。要は自力で探せということだ。面倒だなとため息をつきながら左上から探す。様々な類似の本が次々とみつかるなか、目的の本は遂に見当たらなかった。物探しには定評のある北上なので見落としという確率はない。探すのも面倒なので、本を借りてかえることにした。貸し出しの際はカウンターで行う。
「おっ 北上じゃん。相変わらず難しそうな本読むなー」喋りつつ華麗な手さばきで貸し出し手続きをこなしていくのは、図書委員長の野分だ。
「帰り際にもう一度書架検索をすることをお勧めするぜ。このPCでな」そう言って野分はカウンター用のPCを示した。北上は意味が分からず首をひねっていた。しかし野分はいいから、いいからという風にノートパソコンを北上のほうへと向けた。しかたなく北上はそれを使い検索をかけた。たいして変わらないだろうと思っていたらそこにある名前に一瞬ドキリとした。そして野分のほうへ目をやる。彼はいたずらっ子の顔で笑って見せた。
「何が言いたかったかというと、こういう事だよ。それじゃ、帰った帰った」そういうと野分は、ポケットからルービックキューブをとりだしいじりだした。
北上が借りたかった、本を北上が文庫本コーナーを物色している間に借りていったのは、ほかでもない名執 美雪。同じ委員会に所属する北上がひそかに思いを寄せている人物だった。
しかし、たかがこんな偶然で舞い上がる程軽率ではないと北上は自負していた。冷静に考えてみる。永戸、三隅、漆瀬。この三人の中に姉もしくは妹を持つ者がいたかどうか。永戸に姉がいる。そして永戸姉は美雪と同じ部活に所属していた。ならば… と頭の中で各人の名札を付けた棒人形が忙しく動き回る。道行く人々は、ぶつぶつ何か呟いている北上を急いで避ける。
家に着くころには大体仮説とも言えないような簡単な想像が出来ていた。台所から、食料を漁り自室に持ち込みベットに寝転がりさっそく今日借りた本を読み始めた。読み進めているうち、ふとした拍子にカレンダーに目がいった。今日の日付が2月27日。そろそろ2月も終わろうとしている。北上はあと1日残した2月のカレンダーをめくった。真新しい3月のカレンダーが出てくる。そして7日のところに目立つように赤丸をつけた。そして、長く息を吐いた。
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「みーゆーきーぃ」びよーんという効果音が聞こえてきそうなくらいにほほが引っ張られ伸びる。
「ひょっふぉ、いふぁいふぁらふぁふぁふぃて」引っ張られた状態で話しているため宇宙人語になっている。
「わかった、わかったごめん。美雪に恨みを買うと怖いからね」美雪と話しているのは彼女の大親友である初春だ。二人はいま、馴染みのカフェで放課後の時間を有意義に過ごしている。
「美雪と同じ高校いけなくて残念だなー でも方向は一緒だから朝は一緒に行こうね!」初春とは小学校からの付き合いでもう10年近くになる。
「でもさ、あたしがいなきゃ美雪誘拐されちゃわない?こーんなに綺麗なんだもん」初春のいいところは何ときかれたら、それは思ったことをズバッと口にすることだろう。それはいいことも悪いこともお構いなしにだ。
「そんなことないよ。あたしだって、伊達に弓道部を2年やってきたわけじゃないのよ」
「まぁそんなことは後回しで。最近北上君とどうよ?早くくっつかないと、ほかの娘にとられちゃうよ~ だって北上君、かっこいいし成績も申し分ない殿方であるからな。間もなく卒業というのに。卒業式と行ったら巷では、告白シーズンじゃない!あんたたち結構前から腐れ縁的なので、良い雰囲気だけど一向にくっつかないじゃない… 見てるこっちがやきもきするのよねー」唐突に初春がその話題を美雪にふっかけたのは、北上が永戸たちと賭けを決めた3日後だった。
「ではでは、美雪さん。ここでひといらやっちゃいますか?」
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商店街にて。
「あ、永戸くーん」
「どもゴーヤ先輩 ごぶさたしてます」
「ゴーヤじゃないよ!五夜だよ、五夜!五夜 皐月!」そういいながら長身の永戸の周りをぴょんぴょん跳ねながら、彼の目線まで入ろうとしているのは二つほど上の、五夜先輩だ。なぜ「ゴーヤ」と呼ばれるかというと、普段は髪をおろしているのだが、数年前の文化祭でクラス発表の際、劇をやることになりそのときにツインテールにしたらしく、そのとき不幸にも舞台セッティングで使っていた緑色の塗料が彼女のツインテールの片方にかかってしまい、その緑色の代物が誰かにより「ゴーヤ」、いやもしくは「五夜」だったのかも知れないが、事実はすでに歴史の闇に葬り去られたし、何よりそんなことはどうでもいい。何者かがそれを「ご」と「や」のつく名詞で言い表したことによりこの伝説は始まった。
「まぁ、あたしがゴーヤなのはさておき。永戸クン。そろそろ卒業なんじゃないかな?」突然改まった口調でしゃべり始めるゴーヤ…ではなく五夜。
「そうですが、なにか?まさか先輩、お別れ会に乱入するつもりじゃないですよね。そしたら俺、この命を賭けて阻止します!」
「その通りさ…、食材にゴーヤを仕込んで… ってちがーう そいう言う話じゃない!あたしが言いたいのはね、永戸君。卒業シーズンといえば、別れ。別れといえばイベント。イベントいえば! こ!く!は!く! なのだよ永戸クン」右手でガッツポーズを作り力説する五夜。
「すいません、その時折見せるエアメガネクイッってのやめてもらえますか」そこに冷静に突っ込みを入れる永戸。
「そこでだな永戸君!(クイッ)君には彼女はいるかね? え、いない? ならば是非、自分に合う人を見つけたまえ 私からの命令だ(キリッ)」決めポーズをとる五夜。
「完全無視かよ!! え?カノジョ?何それ美味しいのレベルですよ。てか勝手に居ない設定にしないでください。実際いないですが!」
「そうかね君ならいると思ったのに。 まぁ君なら必ずできるよ。これは予言ではない。決定だ!(クイッ)」
「はー あなたといると体力の消耗が激し過ぎます。 先輩、鯛焼きおごりますよ」かすかな頭痛に永戸はこめかみを押さえた。
「ほんとーぉっ!さっすが、あたしの後輩!よし、ではあの鯛焼きに向かって走れ!」
永戸と五夜が偶然再会したのは、美雪と初春のカフェの対談から2日後だった。
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父に、アンティークものを集める趣味があってよかったと思えるのは数えるほどしかなく、今回はそのうちの一つだ。北上父の買ってきた、振り子時計が8時をつげる鐘の音を8回鳴らしたおかげで、リアルタイムの天気予報が見れる。アニメを見ている妹と姉が守護神のごとく、守っているリモコンには目もくれずに北上は一直線にテレビへと向かい、直接チャンネル変更を行った。リモコンに気をとられ過ぎて隙を突かれた二人は、不意打ちに声も出ない様子だった。天気予報など、ネットで見ればいいものと思うかもしれないが、この曲の予報はほぼ百発百中といっても過言ではないのだ。
「おい、弟よ。何故、明日の天気を気にする。未来のことなぞ誰にも分らぬのだぞ。天気予報なんぞみてどうする。早くチャンネルを戻したまえ」姉の妙な口調とともに、前文無視をする。こういう場合、姉が撃破されたら妹は大人しく降参する。完全無視を決め込まれた姉は、あきらめてしばしの天気予報に付き合う。
…明日のお天気は、全国的にカラッと晴れすがすがしい青空が見える事でしょう。…
北上は、しばし呆然としていた。そして記憶の奥底をひっぱりだし、自分の賭けの内容を思い出した。「雪が降らない」のほうに彼は(強制的に)賭け(させられ)た。ということは、告白はしなくてもいいという事である。北上は、安堵したような、何所か期待外れで残念なのかよくわからない気持ちでほわほわ浮いてる感じで自室へと戻っていった。その姿を北上姉が少し気味悪く、北上妹が心配そうな眼差しで見ていた。北上が自室に行った後もチャンネルは変わらず、天気予報のままだった。
北上がポカン状態になったのが、永戸と五夜が偶然再会した、これまた2日後だった。
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―――卒業証書。貴君は、中学課程3年間を無事収め、この学園の歴史を形作り、自らの理念のもと多くの困難に立ち向かったことをここにたたえる。
校長が一人一人に、銀色の賞状を渡している。北上はその時のことをあまりよく覚えていない。緊張のせいもあったが、原因はもっとほかにあった。学校に来る途中、空は雲ひとつない綺麗な青空だった。風もあまりない、穏やかな天気だった。
卒業証書の授与が終了し、謝恩会が始まった。後輩たちによる送る言葉や、各部活のパフォーマンスなど様々な出し物があり会場全体が盛り上がった。まるで学園祭のようだ。演技中の暗がりに北上は、ひとりで寂しそうに舞台を見つめている美雪を見つけた。
永戸達(もちろんその中に初春もいる)は北上を尾行し続けていた。
北上は、一瞬迷ったものの彼女のものさびしそうな雰囲気にいたたまれなくなり、薄暗いなか彼女の手をとって走り出した。暗闇の中でいきなり手を掴まれたのにびっくりした上、とっさのことだったので無抵抗についてきた。北上は彼女を中庭まで引っ張った。全員が体育館にいるため、校舎には人の気配が全くなかった。体育館の籠った空気で火照った体に当たるそよ風が心地よい。
「あ、あの 北上君。何でここに連れてきたの?」美雪はわけがわからないという表情でおろおろしている。永戸達は、中庭へと続く曲がり角の所で盗み見ている。
「やっぱあいつ、賭けに負けてもないのにコクろうとしてるぜ」と三隅。
「そりゃ、俺らのあれはお飾りみたいなもんであいつを本気にさせるのが目的なんだから当たり前だろ」と漆瀬。
「おい、お前らもうちょいひっこめばれたらどうすんだよ!」永戸が注意をする。
「あ!ちょっとあんた達、あれ!」と初春が中庭のほうを指さす。
「えーと まぁちょこっと話がしたくてさ」北上は恥ずかしさと、緊張で美雪のことをまっすぐ見れない、視線をそらしたままで話す。
「話って?」首を少しがかしげると、サラサラした髪の毛が肩から滑り落ちる。
しばらく無言の状態が続き、二人の間を風が通ってゆく。
「お、俺さチョコレートが大好きなんだ。もうめちゃくちゃ好きなんだ。許されるんなら、いつでも食べていたいくらいだ。まぁ、それで、なにが、言いたいかというとな…」
ここでまたしばしの沈黙。こんどは二人の間に風は吹かなかった。
「俺がチョコレートを好きなのと一緒で、名執が好きなんだ!名執美雪っていう人が好きなんだ。俺の、チョコ好きはこれからも変わることがないと思う、なにより変わるきっかけがない。それとおんなじで、おれは美雪!お前のことが好きだ」力説したのち、北上は自分の行ってることが心の中でリピートされてるのに気付き、そのセリフの品のなさに死にたくなった。そして告白された美雪はというと、ポカン状態で北上の事を見ていた。唐突のことで、状況整理を行っているのだろう。しばらくして、美雪の顔がカァァァァと真っ赤になった。そしてぶるぶるしだした。その姿を見て、北上は怒らせてしまったと思いあたふたするばかりだった。
美雪はゆっくりと北上のほうへと歩き出し、彼にそっと軽く抱きついた。
今度は北上の顔が真っ赤になる番だった。北上には耳元のちょっとしたのあたりで「ありがとう」という小さな、だけど綺麗な声を聞いた。
北上はそっと両手を美雪の背中にまわした。その姿を見守っていた永戸御一行様は、大満足でもあり、悔しさもありながら二人を遠くから祝福した。
ふと、北上が空を見上げると何か白いものがチロチロと空から落ちてきていた。
最初は数粒だったそれは、次第に増えていった。
「みゆ…、いや名執。雪だ」
「うん。寒いね。呼び方は、美雪でいいよ」北上はその言葉にうなずいた。
空から降ってくる雪が優しく街全体を包んでいった。
-Fin-
-後日談-
この後、二人は高校生になっても忙しい間を縫いながらちょくちょく遊びに行きます。その後の発展は読者の皆様の想像力のお任せ致します。あと、ほかの登場人物に関して。永戸君は難なく彼女が出来ました。初春さんもですね。(もちろん彼氏が)漆瀬は高校に入ってから。三隅は勉強に専念するぜと言って、二次元に傾きかけてます。
こういった短編を書くのは初めてなので、どうすればいいかわからなかったんですが、とりあえず書き上げられてよかったです。また、投稿を再開するのでよろしくお願いします。