勇者と勇者達
「ま、魔王様! 勇者が……勇者がぁぁぁぁ!?」
王の広間。
皮肉にも、人間の世界と同じような広間があり、歪とも言える装飾を施された玉座に……肌が赤黒く、目が深紅の男のような存在が尊大に座っていた。
広間は広く、周りには少なくない魔物がいた。
それら全ての魔物は間違いなく最強クラスの存在だった。
だがそれでも……中央に座る存在にはとうてい叶わなかった。
そして広間に入って悲鳴を上げた、一匹の魔物の後に続いて入ってきたのが……ひのきの棒(?)を手にした勇者だった。
「……来たか」
広間中央……その玉座へと座った存在が、厳かでありながらも、嬉々とした高揚が抑え切れていない声を上げる。
その声に殺意を感じて、周りの魔物達が怯えていた。
のっそりと、怠慢とでもいうべき動作で起き上がりながら、脇に置いてあったカオスブレイドを手に取った。
これほど心躍るのは……いつぶりだろうな!
隠しきれない高揚感が口から漏れて……
「ク、クククククククク」
魔王様は低く笑っている。
そして剣を手にした腕を勇者へと差し向けた。
「よくぞ来た! 勇者よ!」
高らかに、そして尊大に、尊厳的にそう告げる。
実際それだけの威圧感があった。
そしてそれ以上に強さを持っていた。
「死の山を越え、魔大陸を歩み、魔王城のこの広間までたどり着いたのは貴様だけだ! その勇気と実力は評価に値する!」
「……」
「だが、それだけだ。貴様がどれだけすごかろうと、勝てぬ道理がある。思い知るがいい……私の力を!」
その言葉を最後に、二人は互いに向かって突進した。
そして……
数分後
「どりゃぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!」
そんな怒声と共に……王の広間がある魔王城の塔から壁をぶち抜いて吹っ飛んでいく、赤黒い肌をした男らしい存在がいた。
テレレテッテテ~
魔王討伐完了
エピローグ……
にはまだ早い!
「あいつ魔王倒しやがったぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!」
絶叫。
悲鳴。
喚き声。
金切り声。
etcetc
様々な人間の、様々な要職の、さまざまな年齢の人々が、様々な言葉を大声で発していた。
要するに……王様は誇張抜きで驚愕し、絶望していた。
「え、嘘でしょ? 嘘だよね? 嘘だと言って!?」
「ギャグにしたってギャグになってねえ、洒落にもならねぇ」
王の広間……人間の方。
つまりはボーデン国の広間は、冗談抜きで阿鼻叫喚の地獄絵図へと化していた。
何せついに勇者が魔王を討ち取ってしまったのだ。
しかも……二週間というハイスピードでだ。
神速……といって何ら差し支えないだろう。
「……それで……。魔王を討ち取った後勇者はどうしているのだ?」
かろうじて冷静な態度を取っている王様がそう声を発した。
しかし、不安……というよりも恐怖を隠し切れていないのだろう。
組んでいる腕が……ぶるぶると震えていた。
「家に……帰っているのだよな?」
それは一縷の望みを掛けた言葉だった。
しかし報告官はそれをあっさりと……裏切った。
「いえ……。まっすぐこちらに向かってきているみたいです」
「……なんで?」
「……そこまではわかりません。魔……魔王討伐を終えての報告とかでしょうか?」
報告官なりに気を遣っての言葉だったのだが……それは完全に逆効果であり、火に油を注ぐ行為にしかならなかった。
「報告ぅぅぅぅぅ~~~~!? そんなのいらね~~~~よ! 帰って! お願いだから帰ってくれよぉぉぉぉ!?」
魂の慟哭といって差し支えなかった。
ここまで危なげな王様も珍しい。
命がかかっているのだからそれも当然かも知れないが。
「な、何とかせねば!」
「軍備の増強はどうなってる!?」
「多少は増えましたが……まだ調練の段階には至っておりません……」
「武器の配備は!?」
「二週間では……さすがに劇的には増えません」
「なんとかしてぇぇぇぇ!?」
王が勇者にぶっ飛ばされるのは人ごとではないため、大臣達も何とか対抗しようと奔走する。
国軍あげて勇者の対策をしていた。
曰く……
「勇者が魔王を倒して、大魔王となって国へと攻め込もうとしている!」
「勇者としての意義を忘れて国を滅ぼそうとしているのだ!」
と、勇者を悪者にして対策を取っているのだ。
しかし無駄なことなのだ。
彼らは知らない。
大魔王からは逃げられない!
ということを。
そして……その勇者(兼大魔王)が魔王城を後にして、ボーデン国へと帰っている最中。
誰もが予想だにしなかった信じられない事が起こっていた。
……なんだこいつらは?
魔王をわずか数分で討伐した勇者は、行きと同じでまっすぐに、ボーデン国へと向かっていた。
しかしその帰り際……トイフェル山脈を過ぎた森の中での出来事だ。
少し開けたその場所に……数十人の人間がいて、勇者を待ちかまえていたのだ。
それを私は影から見られないように注意しつつ、見守っていた。
勇者が化け物じみているのはわかっているので万に一つもないだろうが、待ちかまえていた人たちが何をしたいのかわからないからだ。
……いろんな人間がいるな
老若男女……といっても女の数は圧倒的に少ない。
中には手足が一部なかったり、大きな傷跡を持っている人間もいた。
というよりも私は気付いた。
長年勇者の監視役兼報告者としていろんな勇者を見てきた私には。
「あなたが今代の勇者か」
「そうだけど……あんたたちは誰?」
「我らはボーデンに選ばれた生け贄達……。過去の勇者だ」
やっぱりか……
見覚えがあるはずであり、わかったのも納得だった。
彼らはボーデンより授かった、勇者という役割をして、捨てられた存在達。
そのとき強いと言われていた存在の人間を勇者として選び、魔王討伐へと駆り立てたのだ。
しかし今回の勇者が旅立つまで、誰もトイフェル山脈にたどり着くことすらも出来なかった。
その後どうしていたのかは知らなかったが……
生きていたとは……
しかも相当恨みを重ねてきているようだった。
今も勇者に対して怨念のこもった声と顔で語りかけていた。
「我らが受けたのは無理難題だった」
「しかも失敗したらそれで全てが終わった」
「我らはただの生け贄でしかなかったのだ」
「体の一部を失った者もいた」
「そんな中、新たに生まれた勇者であるお前さんが我らの希望だった」
と、口々に元勇者達が勇者にそう言っている。
それを勇者はうんうんとうなずきながら聞いていた。
そこそこ観察してきたので……今勇者がうなずいているのはただの形だけなのだと言うことがよくわかった。
だってこいつ、あほだしな
今度はどんなことをやらかしてくれるのだろう。
わくわくして酒を飲む手が止まらない。
「我らにはもうどうすることもできない。だから勇者よ! 我らの恨みをはらして欲しい!」
最後にそう締めくくった。
一瞬だけ沈黙する勇者達。
最後まで聞いた勇者は……さっぱりな笑顔でこう答えていた。
「要するに、王様殴ればいいんでしょ?」
その言葉に、全員がぽかんとしてしまった。
それに驚かなかったのはおそらく私だけだろう。
というか笑っているのに忙しくて驚いている場合じゃなかった。
ヒ~~ヒ~~!!!! は、腹が痛い!
笑いすぎて体中の筋肉が悲鳴を上げている。
特に腹筋は崩壊寸前だった。
あまりのおもしろさで酸素が足りない。
そして、笑うと同時に一つの心理にたどり着く。
確信したわ……。こいつ、天然だ……
それですましていいレベルでない気がするが……それしか説明できない。
少しの間、勇者の言葉に呆然としていたが、元勇者達もどうにか冷静さを取り戻したらしい。
「そ、それはそうなんだが……」
「恨んでるんでしょ? なら一緒に行こうよ」
「え? いや、我々では……」
「え、一緒に来ないの? ならどうする?」
「そ……それはだな」
……きっつ~
勇者が持っている武器が怨念で強くなっているのは何となく察しがつく。
故に、
『我らの血を吸ってよりその武器を強化し、我らの恨みを晴らしてくれ!』
と言いたかったのだろう。
それを完全に挫く勇者。
こいつひどいわ~~~
それはもう……いろんな意味で。
だがおもしろいのでそれもまたよし。
「あ、要するに殺せばいいのね?」
「……よ、よろしく頼む」
「オッケー!」
すごく軽いやりとりで……勇者は歴代勇者達を撲殺し始めた。
止めた方がいい? って考えなくもなかったが……まぁ当人達の間で決めたことなのだからしょうがないだろう。
私はこれも報告書として書き上げて、王国へと送ることにした。
だってそっちの方がおもしろいでしょ?
↑の報告書を読み上げた王室広間にて
「なんで!? なんで歴代の勇者達殺したの!?」
「歴代の連中が我らを恨んでいるのは知っていたが……何故勇者の元に集まったのだ!?」
「しかも殺されたって言うし……」
「ちなみに勇者はやはりまっすぐこちらへと向かってきているそうです」
「もういやぁぁぁぁぁ!? 今代の勇者わけわからないぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
王様の悲鳴が木霊した今日この頃。
であったそうな。
怨念が怨念を呼び、勇者はさらに強大になって……いかない!
だって必要ないしw