勇者の歩み
○月×日
勇者が国を出た後は脇目もふらずと言うか……一直線に魔王城へと進行していく。
進撃速度は異常でなんと、たったの二日で歴代勇者が一週間掛けてたどり着いた場所まで踏破してしまった。
しかも街にもよらず村にもよらない。
ほとんど野宿とかですませている。
魔物との戦闘も一瞬である。
ほとんど一撃で倒してしまっている。
オークなどの近衛兵ですら倒すのに苦労する相手も一撃……しかもひのきの棒でだ。
この戦闘力はもはや異常と言っていい。
返り血を相当数浴びたひのきの棒はもはや真っ黒だ。
さらに驚くべき点は勇者が倒した魔物を食していることだ。
喰うべきものは選別しているものの、そもそも魔物を食べるということが衝撃的で、最初気が狂ったのかと思ったがそうでもないらしい。
実に興味深い勇者である。
ちなみに彼の魔物討伐数は以下に記すとおりである。
スライム 80匹
オーク 75匹
ガーゴイル 42匹
サソリアーマー 67匹
おおにわとり 89匹
ゴーレム 59体
ケンタウロス 31匹
etc
etc
etc
計……463匹である。
ちなみにこれは二日間の総数である。
「……うそだろ?」
「いえ、報告書にはそう……」
報告書を読みあげる執務官。
そしてそれを聞いている王様と各大臣達。
その顔は……一様に青ざめていた。
「だって……おかしいだろ!? たった二日でそこまでいった? 魔物を食べた? さらには魔物の討伐数が400越えって……頭おかしいだろ!?」
「お、落ち着いてください王様。誤報と言うことも」
「しかし彼は優秀な報告官だ。ミスをしたとは」
「じゃあなんで二日で踏破!? なんでひのきの棒で400も魔物を倒せるの!? なんで魔物を食べるの!? 」
「あ、あの……」
「なんだ!?」
まだ残っていたのか?
そう想いながら報告書を読み上げてた報告者へと視線を投じた。
「最後に非常に気になる一文が……」
「なんと書いているのだ?」
もう悪い予感しかしない。
というよりも果たして何をしたのか……?
そう内心でびくびくしながら放たれた言葉は……
王を心底震え上がらせた。
「何でも……絶対にぶん殴ってやると、言っていたらしいです」
それを聞いて……先ほどよりも重く、深い戦慄が全員に走った。
「………………だれを?」
「それは書いてませんが……」
全員が一斉に王を見た。
「え!? 私なの!? 私がぶん殴られるの!? だってオーク一撃だろ!? 私そんなに耐久力あったか!? なぁ大臣!?」
「え……えっと」
「あるわけないだろ!? ねーよ! い、いかん! すぐに軍備を整えなければ! 最悪勇者が来るかもしれん! 大臣! 魔王討伐軍の編成は!?」
「え、そうはおっしゃいましても……まだ三日しか経ってないので何とも」
「急ぐんだ!? 私が殴られる前にぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?」
王の絶叫が響き渡る。
それに伴って各員がばたばたと動いていた。
そして……ばたばた動いていたのは何もボーデンだけではなかった。
「なに!? 四天王の一角が倒れただと!?」
「はい! しかも報告を上げてきた魔物の話では……数発殴られて勝負は決まったと」
「なん……だとっ!?!?」
報告を上げてきた魔物からの言葉に、魔王は驚愕の声を上げる。
魔物が生存し、そして人間界に食物を求めて地上へと出てきて以来数百年が経過するが、未だかつて四天王を破った人間はいなかったのだ。
勇者というのは確かに以前から存在した。
だが人間の仲では強くとも、魔物から見れば貧弱でしかない人だ。
それがただの囮だとわかっていながらも、魔物達はそれにわざと乗ってきた。
だが……今回はそうはいかないようだった。
というよりももはや異常と言っていい……。
「今回の勇者はおかしいだろう!!!!」
「ど、どうしましょう魔王様!?」
「うろたえるな」
ずしりと……威圧感が浮き足立っていた魔物達の動きを止める。
それは魔王が少し力を解放しただけだった。
だが……それでも魔物達は動けなくなっていた。
「確かに今回の勇者は違うようだ。だが我々がやることは今までと代わりはない。生かさず殺さず……。その上でくるというのならば喜んで相手をしよう」
うわぁお。相変わらずこいつ頭おかしい(笑)
私はその光景を影から見て……密かに笑っていた。
余り声を出してしまうと勇者に気取られるからだ。
だが私は今大爆笑を必死にこらえるので大変だった。
何せ勇者の行動があまりにも規格外すぎるからだ(笑)
森へと入った勇者は、そこら一帯にいた魔物を軒並み倒してしまった。
それだけならばまだまぁ騎士とかでも何とかなる。
数は別にしてもだ。
しかし勇者は全ての魔物を……一撃で倒したのだ……。
あいつ何者?
何者も何も、勇者という存在でしかないのだが、それでもそう思わずにはいられず、私は笑いをこらえながら影で勇者を見守っていた。
この勇者を観察して数日が経過したが興味が尽きない。
というかおもしろすぎて目が離せない。
勇者もそうだが、一番すごいのは何よりもその棒だ……。
返り血を浴びすぎたそのひのきの棒は、赤やら青やら緑やら……いろいろな液体を浴びて原型の色をとどめていなかった。
しかも気のせいでなければ……
なんかオーラでるよね~?
ひのきの棒から黒いオーラのようなものが立ち上っている気がしてならない……っていうかでてるよ~。
こえ~
まじこえ~と思いつつも……目が離せない私がいた。
だって……見ていてとても痛快なのだ。
何せあの魔物をたった一撃で倒すのだ。
目が離せなくなるのも当然といえる。
どこまで行くんだ!?
以前から勇者の監視官として王国に報告をしていたが、体外の勇者が数日で死んでいた状況を考えると、今度の勇者は期待できそうだった。
何をするのか……楽しみでしょうがない。
さらにいえば
「あ~疲れた。北はあっちだからあっちに魔王城があるんだな!」
確かに最短で行けば北をまっすぐ行けば魔王城があると言われている。
しかし最短の北をまっすぐ行くと……トイフェル山脈へとたどり着く。
誰もが迂回することを選択するほどに、見た目険しい山。
更に言えば魔物の巣窟。
更に山頂には恐るべき存在がいる。
だというのに……
「んじゃいくかぁ……。ふぅ~やれやれ」
仕方がないなぁ、そんな感じのある程度炙った魔物の血肉を食べた腹をさすりながら勇者は北へと……トイフェル山脈へと向かっていく。
ん? こいつまっすぐ行っちゃうんだ!?
腹がねじれそうになる。
普通ならただ死にに行くような物だが、この勇者ならばそれが出来てしまいそうだからおもしろい。
いや~見てて飽きないなぁ
当分暇をしなくてすみそうだ。
そう考えながら私は勇者の後をつけていく。
その際……
「あ~それにしてもどうやってぶっ飛ばせばいいかなぁ……」
などと言っているのが聞こえてくる物だから更におもしろい。
本日のぶっ飛ばし発言回数。
四回。
↑なおおもしろいので報告書には記載しないこととする。
一話じゃなんだかわからんかったでしょうが、こんな感じの作品ですw
とりあえず勇者がキチガイじみている強さを持っていると考えてください
そんな勇者の快進撃はあっちゅうまに終わりますw
王様がどうなるかって?
さぁw