そして人はいなくなっちゃいました [19]
聖魔光闇様が主催されているリレー小説の19話です。
1話目:聖魔光闇様 http://ncode.syosetu.com/n3089r/
2話目:真野優様 http://ncode.syosetu.com/n3101r/
3話目:日下部良介様 http://ncode.syosetu.com/n3133r/
4話目:大塚紗也様 http://ncode.syosetu.com/n3372r/
5話目:ふぇにもーる http://ncode.syosetu.com/n3460r/
6話目:円藤様 http://ncode.syosetu.com/n3494r/
7話目:Miyuki様 http://ncode.syosetu.com/n3718r/
8話目:MOW様 http://ncode.syosetu.com/n4404r/
9話目:ゆらら様 http://ncode.syosetu.com/n4553r/
10話目:雪人様 http://ncode.syosetu.com/n4736r/
11話目:ゆらら様 http://ncode.syosetu.com/n0506s/
12話目:日下部良介様 http://ncode.syosetu.com/n0789s/
13話目:ココロ様 http://ncode.syosetu.com/n1071s/
14話目:聖魔光闇様 http://ncode.syosetu.com/n1154s/
15話目:千嶋桂華様 http://ncode.syosetu.com/n1931s/
16話目:鳩麦様 http://ncode.syosetu.com/n2001s/
17話目:Miyuki様 http://ncode.syosetu.com/n2165s/
18話目:真野 優様 http://ncode.syosetu.com/n2795s/
19話目:ふぇにもーる
最終話:まだ
自らの子を殺された事実は、琉球の心に重く圧し掛かった。得体の知れない力で、沙羅の遺体は宙に浮かんでいる。全ての元凶たる悠斗のせい。そんなものは分かっていた。何の力も無い自らを恨んだ。
「沙羅っ」
ゆっくりと、沙羅の身体は降下してきた。力無くぐったりとした様子で首を垂らし、琉球の腕の中に収められた。その小さな身体は既に体温を失いつつあり、口の端から流れた血が琉球の腕を伝い、シャツを染めていった。
その流れ出るものが、娘が生きていたのだと証明できる唯一の色だと実感した。不思議と目頭は熱くなり、膝を着いた。娘の身体を力の限りに抱擁すると父は一心不乱に蹲った。過ぎ去りし思い出が、脳裏に過ぎっては流れてゆく。
娘がこの世に生を受け、病院で顔を合わせたあの夏の日。汗まみれの頬を一心不乱に小さな顔に擦り付けた。
三歳の七五三の日、千歳飴を買いすぎて妻にも怒られた。こんなに甘いもの食べさせたら太ると言われ。それでも無我夢中で娘の写真を撮って回った。
幼稚園のお遊戯会。近くの体育館を借り切った。クラスで一番の美人だと先生に言われ、娘はシンデレラの役を一生懸命に演じた。前日に緊張で体調を崩していたのに。本当なら寝てなければならない発熱の中、フラフラになりながら一番の主役を演じ切った。あの時のガラスの靴は、今でもちゃんと捨てずに置いてあったのに。
小学校に入ってからの運動会。足が速かった沙羅は、低学年からリレーの選手に選ばれた。三年生だというのに、前の子が転んで周回遅れになったせいで高学年の児童相手に走らなければならなかった。けれども、沙羅は決して諦めなかった。五年生の男の子と張り合って、周回では負けていたけれども速さでは勝った。あの時の映像だって、ちゃんとビデオに残ってる。
「沙羅、どうして。畜生、俺のせいだ。ごめんよ……」
数々の思い出は両手でもすくい切れず、指の間からぼろぼろと零れ落ちていった。大事なものが音を立ててどこかへと崩れ去ってゆく。どんなに懺悔をしようとも、目の前の瞳が再び開く事は無かった。
そんな琉球を嘲笑うかのように、悠斗は目の前で下賎な笑いを浮かべたまま佇んでいる。愛娘を殺されたという、現実を突きつけられた琉球に、既に立ち上がる力は残っていなかった。
「無様だな」
ゲーム、つまり電子世界。その電子世界と現実世界の狭間。琉球はそこへ落とされてしまった。電源を切れば済む話ではない。切ったら存在自体が危うくなる。ゲームへも現実へも永遠に戻れず、異空間で死ぬまで沙羅の遺体と共に彷徨う事になる。
それはある意味、死ぬより辛い事だった。食糧も何も無い世界と呼べるかどうかも怪しい空間で、人間の身体が限界を迎えてもがき苦しんで死ぬその時まで、孤独と戦わねばならなくなる。
「どうだ、俺に許しを請う気は起きないのか。お前をこの空間から出してやれるのは俺だけなんだぞ」
琉球の目に力強さは全く残っていなかった。
「沙羅。もしかしたら、この子には兄が居たかもしれないのに」
「そうだ。だが俺を殺したのはお前」
「履き違えるなよ」
弱々しくも、確かな敵意を声に載せる。意表を突かれたかのように、悠斗は目を点にした。
「お前を殺したのはバイクの運転手だ。俺はちゃんと説明しているじゃないか。妻を助けようとしたが、バイクの運転手が直前でハンドルを切ったために妻を轢いてしまったのだと。何故、理解できない。お前の頭脳は赤ちゃんのままで成長が止まっているのか。お前のしている事は、行き場を失った恨み辛みをただ俺や沙羅に対して理不尽にぶつけているだけだ」
「何だと」
琉球のしている事は、相手を逆上させる事に他ならない。普通に考えて悠斗のしている事は、稚拙かつ短絡的な行動。そして面白いようにその通りになった。
「まだ分からないみたいだな。この空間の支配者は俺だぞ。俺を怒らせて、お前はどうなるか」
先ほどまで沙羅を腕に抱いたまま男泣きを続けていた琉球だが、いつの間にか口元には笑みが浮かんでいる。思惑通りといったところか。
「俺か。あぁ、このままだったら俺はお前のご機嫌を取れずに永遠にこの空間に彷徨う事になるんだろうな。でも俺だってそんな末路を辿るのはごめんだ。そこで、だ。一つ取引をしないか」
「俺が今この場でお前を放置して行けば取引は成り立たないな」
悠斗が意地悪そうに背を向けかけたが、琉球は構わずに口を動かす。
「それじゃあ俺が困る。お前だって、恨み辛みが晴れないまま幽霊みたいにしてずっと苦しい思いしてていいのか。俺だってそんな事は望んじゃいない。そこで一つ提案があるんだ。俺を現実世界に帰してくれれば、お前は人間として生まれる事が出来る方法がある。苦しみは消えるんだ」
悠斗の目付きが変わった。先ほどまでの鋭いものは一瞬にして消え、話を聞くようなものへと。琉球はここぞとばかりに話し続けた。
「要するにお前は、人間として生まれたかったわけだろう。だからこうして今も苦しんでいる。俺はお前の親だった。その気持ちはとても良く分かっているつもりだ。本当に、すまなかった。確かにお前を殺したのはバイクの運転手だ。だがあの日買い物にさえ出なければ事故が起きる事も無かった。お前が死ぬ事も無かった。
だが、俺が現実世界にさえ戻れればお前は再び人間として生を受ける事が出来る方法があるんだ。どうだ、この取引に応じるつもりは無いか」
「その方法とは何だ」
食い付いた。ここまで来て取り逃がすつもりはなかった。こう見えて琉球は現実では営業マン。美味しそうな餌を垂らしておいて、掛かれば極太の釣り針を突き刺して決して逃がさない。逃げようともがけばもがくほど、棘だらけの返しに引っかかって傷口が広がる。
「また、俺の子供として生まれてくればいい」
「ふざけるな……」
それを聞いた瞬間、悠斗の瞳はまさに子供の癇癪を起こした。相手が悪かった。現実に生まれてもいない子供の理性だというのを頭に入れていなかった琉球の負け。それが分かった時には、既に遅かった。
これはリレー小説です。
続きが気になる方は、好きに作っちゃってください!
続きがどうなるのか、読みたいので、聖魔光闇までご一報ください。(ここだけ、毎回あとがきに入れてください)
※ちなみに書かれる方はもう最終話まで決まっています