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【完結まで執筆済み】1500万円で異世界を買い叩く 〜ブラック企業出身の俺、最底辺から経済を支配し、月面着陸を目指す〜  作者: 高山 虎
第二章 新大陸航路編

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第24話 嗜好品はブランドを、香辛料は現金を創る

港湾都市シーリンの高台に設けられた、港を一望するサージョ・コメルツォ商館。


その最上階の執務室では、サージョ・タブレットでもたらされた新大陸航路の「優先枠」で運び込まれたばかりの四つのサンプル、そして山積みの香辛料の目録が並んでいた。


確かな技術をもって焙煎され芳醇な香りを放つ珈琲豆、丁寧且つ均一な発酵を終えた煙草の葉、現代で売っているような滑らかさを持つカカオ、そして鮮烈な香りを放つ紅茶の茶葉だ。


「サトシ様、これらを商品にするのは香水よりもよほど骨が折れましたわね」


エレナが、完成したばかりのシガリロを片手に持って感慨深く呟く。 これらの新大陸産商品はサトシが現代の製造工程を調べ上げてそこから逆算し、現地職人を徹底的に指導することで一年をかけてようやく作り上げた「作品」だった。



一年前、商品開発は難航していた。 煙草、紅茶は商品化において適切な発酵過程が不可欠で、珈琲は職人の手による焙煎、そしてカカオには精錬(コンチング)が必要だったからだ。そうした工程をこなすには経験豊富な熟練の職人技が必要であった。


発酵と精錬には特に困難な点があった。 発酵ではタバコの葉や茶葉を積み上げて行うが、そのとき中心部の温度が上がりすぎると容易に焦げ、あるいは腐敗してしまい使い物にならなくなった。逆に温度が低いと、発酵は全体の一部でしか進まず、煙草などはおおよそただの「干し草」の味しかしくなくなる。


発酵の程度も重要だ。 紅茶は緑茶、烏龍茶と同じ茶葉から作られるが、発酵度合いによってその種類が変わる。発酵が浅ければ烏龍茶になり、かえって深すぎれば腐ってぐずぐずのゴミになってしまった。


発酵室の床には、かつて数えきれないほどの『腐った泥』のような茶葉が積み上がっていた。サトシは自ら温度計を手に、数日間一睡もせず発酵室に籠もったこともある。


カカオの精錬では、熱を加えながら数日かけてカカオマスを練り続ける必要がある。 数日間休みなしで、かつ一定の温度を保ちながらカカオマスを練り続ける技術はこの世界には存在していなかった。


特注であつらえた精錬に必要な機械を動かす水車が壊れた夜、サトシは自らハンドルを握り続け、夜明けまでカカオを練り続けた……その手の豆が潰れた跡が、今もまだその手には残っている。


これらの課題はサトシとエレナの知恵をもってしても一朝一夕に出来上がるものではなく、結局こうした地道な研究を一年も続けてやっとのことで完成にこぎつけたのだった。


完成された煙草は、酒精と蜂蜜で二次発酵させ、不純な雑味を完全に飛ばした「吸う香水」として。 紅茶と珈琲は特注の焙煎機を用意し、焙煎温度を分刻みで指定したマニュアルによって圧倒的な「深みと芳香」を醸し出している。


これらの商品が、貴族、富裕層の社交界でその話題の中心となることは誰が見ても明らかであった。



しかし、まだ珈琲や煙草、紅茶そしてカカオのいずれも国内で一般的な市民権を手に入れたとは言えなかった。なぜなら、ほとんどの人間がその商品の存在すら知らないからだ。


人は新しい商品には敏感に反応するが、見たことも聞いたこともないものに興味を示すはずもない。 そこでサトシは既存の高級香水の顧客リストを活用し、香水の購入と同時に試供品として提供することで社交界への認知度を高めた。


煙草は「英知と平穏を司る神秘の香り」 珈琲を「思索を研ぎ澄ませる知性の露」 紅茶を「社交を彩る黄金の雫」 として、これらをブランディングしたのだ。


キャッチフレーズは「身に纏う『香り』は貴方の外を、『紫煙』と『黒い雫』は内を気高く満たす」。


現代であれば見向きもされないような宣伝だが、こうした広告戦略がほとんど見られなかったこの時代の顧客は狂喜乱舞した。


初めてシガリロを口にしたある貴族は、その煙が肺を満たした瞬間、目を見開いて硬直したという。酒精と蜂蜜が織りなす官能的なまでの芳醇さ。彼にとってそれは、ただの煙ではなく『静寂を買うための鍵』となった。


また、サトシの用意したティーサロンでは、磁器のカップに注がれた紅茶の『紅い鏡面』に、貴婦人たちが自身の美貌を映し込み、その一口で日々の退屈を洗い流したのだ。


こうしたイメージ戦略により、開発した嗜好品群は社交界を席捲し、今では五百グラムで金貨七〜十枚の価値を持つ超高付加価値商品へと変貌を遂げたのであった。


サトシは執務室のソファに座り、優雅にくつろいでいる。


「いいかエレナ。人は『必要なもの』には渋々金を払う。しかしな、『憧れを具現化したもの』には自ら進んで惜しみなく金を出すんだ。香辛料は彼らの舌を捕らえたが、この嗜好品は彼らの魂を捕らえた。捕らわれた人間は、もう二度とそれがない生活には戻れない。俺たちが売っているのはただの嗜好品なんかじゃない。逃れられない『習慣』という商品を売っているんだ」


手の中にある琥珀色の紅茶を揺らした。


「香水で外見を支配した。飲み物で生活を、そして香辛料で台所を支配する。煙草では習慣を、物流を制した俺たちが次に制するのは、人々の『日常』そのものだ」



当然、そうした研究開発に全精力を注いでいたわけではない。 サトシは研究費を消費している間にも、盤石なる「香辛料」の収益基盤を整えていた。


新大陸航路全船舶の10%に及ぶ「優先枠」の七割を使って、胡椒やシナモン、クローブといった既存の香辛料も確実に運び込ませていた。


「嗜好品はブランドを創るが、香辛料は現金を創る」


そういって他社が莫大な運賃を払って新大陸から輸入する香辛料を、サトシは「運賃無料の10%枠」で持ち込んだ。 当然、サトシはこの圧倒的なコスト優位性を利用した。それによって市場価格よりわずかに安く卸しても、他社の倍の純利益を叩きだしていたのだ。


一社で香辛料市場の7%を獲得しているサージョ・コメルツォは最大のシェアを持ち、国内市場の価格決定者となっていた。


【第24話 収支内訳】


収入項目:


優先枠・香辛料売却益: +金貨 15,000枚 (運賃無料の10%枠で持ち込んだ胡椒・クローブ等の確実な売却益)


嗜好品(紅茶・珈琲・タバコ)初回販売: +金貨 8,000枚 (独占的ブランド価格による高利得)


既存事業: +金貨 6,000枚


支出項目:


ブランド構築・宣伝費: ▲金貨 2,100枚


現地加工指導・品質管理官派遣: ▲金貨 1,800枚


パッケージ開発・資材費: ▲金貨 1,400枚


【第24話終了時 総資産】


金貨 49,367枚相当(11億8,480万ルピ)

最後までお読みいただきありがとうございます。


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