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世界線アービトラージ 〜ブラック企業鬱病退職の俺が始める異世界経済侵略〜  作者: 高山 虎
第一章 立志・商権確立編

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第2話 中古車より安い少女の値段

メンタルクリニックを出た俺は、自宅のワンルームマンションへと戻った。 テーブルの上には、今朝の食事の残りが冷えてそのままになっている。 その横に、例の「タブレット端末」を置いた。


「……まずは、これが現実かどうかだ」


あの「異世界」で3時間過ごしたが、まだ現実だと確信がもてなかった。 為替レートをタッチするとBID/ASKの文字が表示される。 FXの取引と同じならBIDは売り、ASKは買いを表すのだろう。 通貨ペアはRUP/JPYのみ。 間違いなくRUPがルピなのだろう。


ASKをタッチし財布から一万円札を抜き取り、画面に触れさせる。 為替両替の実行確認に「はい」を選択すると、一万円札が消え、ルピ残高が『125,000』へと更新された。


どうやって引き出すのか少々迷ったがインベントリを見ると『Rupi 125,000』となっている。 ここから引き出せるのだろう。 タッチすると金貨、銀貨、銅貨を好きな枚数で引き出せることが分かった。


まず1枚インベントリから「金貨」を取り出すと、表示が『Rupi 101000』に変わる。 手のひらにずっしりとした黄金の重みを感じた。 あれは現実だった。 冷たい金属のその感触さっきまでの光景は現実だ、とに語り掛けていた。



一度金貨をインベントリに戻し、今度はルピを円に戻して1万円を取り出せることを確かめた俺は銀行のATMへ走った。


まず残高を確認する。 15年の間、ただひたすらに自分の肉体と精神、時間を削り取って積み上げてきた、血と涙の結晶だ。 社畜時代の俺にとって、この数字は「いつか辞めても死なないための保険」でしかなかった。


だが、今の俺にとって、これは異世界に叩き付ける「資本(キャピタル)」だ。 しかし一度に動かしすぎて異世界の市場を崩壊や混乱を招くのは得策じゃない。 まずは段階的にかつ慎重に利用しなければならない。 できることならあちらの世界での資金はあちらの世界だけで循環できるようにするべきなのだ。


100万円の札束をカバンに押し込み、自宅に戻った俺はタブレットを開いた。 『1,000,000 JPY を 12,500,000 RUP に両替しますか?』 指先で「はい」をタップする。


次の瞬間、手の中にあった札束が霧のように消え、100万円分の日本円がデータに変換される。 インベントリを見ると間違いなく金貨が520枚と銀貨16枚、銅貨8枚と表示されている。 12,500,000ルピ丁度だ、そういえばスプレッドもなければ手数料を取られることもない。 超優良業者だな、とそんなセリフが頭をよぎる。


これだけで、あの街の一般市民が二十年弱は働かずに暮らせる額になる。 もう一度インベントリから金貨『リンド』を1枚取り出してみる。 小さいがずっしりくる重さ、輝き、冷たさ、金属であることは間違いない。


つづけて俺はさらに金貨を九枚取り出した。 この金貨が間違いなく現代の金と同じものか確かめる必要があった。



俺が住むのは首都圏にあるものの都会とは言い切れない微妙な街、いわゆる「とかいなか」に存在してい。 自宅の周辺、車で10分以内の距離に大型のショッピングセンターやホームセンター、スーパーが立ち並んでいる。


スマホで貴金属買取店を検索すると近くのショッピングセンター内を含め意外にも複数店舗存在することが分かった。 車に乗り込み最寄りのショッピングセンター内にある貴金属買取専門店へ向かう。


思ったよりこじんまりとした店内では男女2人の店員がカウンターの向こうに座っており、女性店員が婆さんの接客をしていた。


「いらっしゃいませ」


同年代の男が担当者のようだ。


「すいません。アンティークコインの買取をお願いしたいのですが。」


「かしこまりました。まずは鑑定をさせていただきますのでこちらでお待ちください。」


金貨を手渡し椅子に座ると男は金貨をもって別室に向かう。 奥の部屋に鑑定の機器があるのだろうか?


手持無沙汰になって隣を見ると鑑定結果に文句でもあるのかばあさんがケチをつけているようだ。 やれ、これは誰それの形見だやら、これは夫に銀婚式でもらったなどといっている。


なんだ、別にケチをつけているわけではなく名残惜しいのか売るか売るまいか迷っているだけのようだ。


10分程ばあさんの話に耳を澄ませていると男は盆の上に金貨を載せて戻ってきた。


「申し訳ありません。こちらのコインはうちのデータベースにございませんので地金としての買取になってしまいますがよろしいでしょうか?」


このセリフを聞いて俺は安堵のため息が漏れた。 少なくとも未知の金属などではなく地金として価値のあるものだと分かったからだ。


「はい、それで構いません。これって純金だったんですか?」


「純度は92%、…ほぼ22K相当の金に間違いありません。本日の買取相場が純金1g21000円となりまして、一枚3.5gですから現在の買い取り相場なら、一枚あたり67,620円でお買い取りさせていただきます」


「……67,620円?」


思わず計算が頭を駆け巡る。 異世界では金貨一枚が24,000ルピ、為替レート通りなら約1,920円。それが現代で「金」として売るだけで、約35倍もの価値に跳ね上がる。


「こちらで買取させていただいてよろしいでしょうか?」


男が差し出してきた電卓には「676,200円」の文字。


「もちろんです。それでお願いします。」


本人確認と簡単な書類の記入など手続きを終え店を出る。 空を見上げると時間はもう夕暮れ時だった。


そこで封筒に入った現金を握った俺はふと立ち止まった。


「……待てよ。今回は十枚だからいいが多用しすぎると税務署に目をつけられる。現代での換金は、最小限に留めておくべきか?」


一回の取引額が大きければ支払調書が税務署に行くはずだ。 出所不明のアンティークコインが毎月のように換金されればすぐに足は付く。


しかし日本円での収入のめどがない俺にとっては金貨の売却は命綱にも等しい。 複数の店舗に分散して換金すれば生活費くらいは賄えるだろうか。 だがもし今後金貨を数千、数万枚取り扱うとなればほかの方法が必要だろう。


「すぐには対策が浮かばないか…」


解決策が浮かばない以上この問題はひとまず後回しにするしかないだろう。


次に、周囲を見渡しショッピングモールを物色して回る。 あちらの世界に持ち込む価値のあるものを見つけ出さなくてはいけない。


しかしあまりに技術格差の大きい家電製品などは現地人の目に入らないよう自重する必要があるだろう。 没収されるだけならまだしも、異端認定されようものなら向こうで生きていくことはできないからだ。


数千円の合成宝石、百均のビー玉、大手家具チェーン店の精巧な陶器。 さらに大量の徳用マッチとシガリロを購入してはインベントリに詰め込んだ。 マッチとシガリロは向こうで売らなくてもどうせいつかは使うものだ、いくらあっても困ることはない。


奴隷市場の看板に書かれていた銀髪の少女の価格は、金貨150枚(360万ルピ)。 日本円に直せば、わずか28万8千円だ。 金貨5枚を日本で換金しただけで、少女一人の身柄を買い取ってもお釣りが来る。


ひとりの命の値段が程度の良い中古車よりも低い。 俺はそのあまりに歪んだ、だが圧倒的な「投資効率」に興奮が隠せなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になる!」「サトシの経済侵略を応援したい!」と思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると執筆の大きな励みになります!


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