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【完結まで執筆済み】世界線アービトラージ 〜ブラック企業を辞めた俺が、現代知識で異世界を買い叩くまで〜  作者: 高山 虎
第一章 立志・商権確立編

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13話 これは酒ではない、医療資材だ

デカルト商会の会議室では、商会長のヴィクトール・デカルトが激昂していた。


「……何だと? 薬種商ギルドが、我々との次期酒精納品契約を保留にしただと!?」


「はい、調べたところ『サージョ・コメルツォ』が精製に成功した高純度酒精に切り替えるのだと」


ヴィクトールにとって、これは単なる競合の出現ではない。


「うちの蒸留釜にどれだけの投資をしたと思っている!」


彼が恐れているのは、商会の保有する巨大な蒸留設備への投資が回収できないリスクと、そしてそこから得られる利権が根底から覆される恐怖だった。


「その『サージョ・コメルツォ』を潰せ。奴の所にはうちとは違って大型の蒸留設備がない。……息のかかった評議員がいただろう。評議会を動かして新しい規則を制定させろ。設備の不足を理由に、奴の原材料購入権を剥奪するんだ」



数日後、評議会から「公衆衛生の保護」を名目にした新たな布告が出た。


「都市内で流通する『飲料用酒精(安酒・蒸留酒)』を扱う業者は、醸造ギルドの認める『認可済み大型蒸留設備』を所有しなければならない。これを持たぬ者の飲料用酒精製造は密造とみなし、原材料の買い付けを禁ずる」


それはサトシのコンパクトな濾過システムを「設備不備」として狙い撃ちし、兵糧攻めにする法的な包囲網だった。


「サトシ様、酒問屋が安酒の卸しを拒否してきました! 評議会の布告に従うとのことです!」


焦った様子のエレナから報告を受け、サトシは不敵に笑った。


「笑っている場合ですか! 原料の納入ができなければ薬種商ギルドへの納入も白ユリの雫の製造も止まってしまうんですよ!?」


「なに、そう焦ることはない。ヴィンセントとの会談をセッティングしてくれ」


サトシはアポイントが取れると直ちにヴィンセントとの会談を行ったのだった。



「どうすればいい!? せっかく新しい薬の調合が始まったばかりだというのに!」


「ヴィンセント殿、焦る必要はありません。まずはこちらを」


焦るヴィンセントに対し、サトシは薬種商ギルドとの提携契約書を差し出した。


「救済策はあります。先日結んだ契約書の第6条を見てください。『乙(薬種商ギルド)は、サージョ・コメルツォが酒精を安定供給するために、その原材料の調達において可能な限り協力することを保障するものとする』……」


サトシは、すでにこの展開を読んでいたのだ。


「評議会の布告はあくまで『飲料用』の酒精を対象としています。ならば、私の工房を『薬種商ギルド公認の医薬品専用・酒精精製所』として認可していただきたい。私が仕入れる酒は飲むためではなく、薬を溶かすための『溶剤』……つまり『医療用資材』だと定義すればいい」


「……! 飲料でなければ、醸造ギルドの釜の縛りを受ける必要はないということか!」


「ええ。これで法的には『酒』ではなく『薬品の原材料』として、買い付けを行うことができます。我々は評議会の布告を守り、堂々とその網を潜り抜けることができる」


ヴィンセントは、サトシの「法の穴」を見抜く力に戦慄していた。


「わかった。すぐにギルドから『医薬品専用・酒精精製所』の認可を発行しよう。サトシ殿、これで新薬の生産に遅れが出ずにすみそうだ」


評議会は飲料用酒精のみをその規制の対象とした。 彼らには医療用や工業用の酒精を規制するわけにはいかない理由があったからだ。


その理由は複数あった。 第一に、酒精は飲用以外にも、革製品の加工、染料の定着、精密器具の洗浄など都市の各職人ギルドたちの重要な原材料の一つだからだ。すべての酒精を対象とすれば、都市を支えるあらゆるギルドから一斉に突き上げを食らう。評議会にとって、それはデカルト一人のわがままを聞くよりも遥かに恐ろしい「都市機能の停止」を意味していた。


加えて、膨大な量が流通し莫大な酒税を生み出す飲料用と異なり、医療・工業用酒精の流通量は、酒精全体の割合から見れば誤差のようなものであった。当然、たいして税金の取れないこれらのために一つ一つ検品し、認可設備で作られたか監視する役人を配置することなどできるはずがなかった。


評議会はこうした問題を避けるためには、飲料用以外の酒精は「放っておく」ことしかできなかったのだ。


ブラック企業時代、無茶な要求を押し通す現場を知らない上役と、実際に作業する現場の人間の板挟みになっていた中間管理職を何人も見てきた。彼らは自らが生き残るために上役の要求を通したように見せつつ、現場から突き上げを食らわない塩梅を見極めて実行に移す。必ず評議会も同じように動くとサトシは確信していた。


サトシは、評議会のような政治家の最優先事項は正解を選ぶことではなく「自らの地位の保全」であり、次点が「都市の安定」であることを完璧に見抜いていたのだ。


結局のところ、彼らがおこなった「飲料用のみ規制」という判断は、デカルト商会に便宜を図ったうえで自分たちに批判の矛先が向かない、都合の良い「政治的妥協の産物」だった。



「おい、この『医薬品専用・酒精精製所』から提出された購入許可は決裁していいのか? この前、新しい酒精取扱規則の布告が出てたよな?」


「おい、もしかしてそれ却下するつもりか? 馬鹿、やめろ」


市庁舎の奥、規制の許認可を扱う部署にいる小太りと痩身の二人の役人が決裁作業を進めていた。


「なんだよ、そんなに慌てて」


「新規制は飲料用だろ? こっちは医療用。もし差し止めなんかして俺たちが医薬品の製造を止めたとわかったらどうなると思う? 首が飛ぶだけじゃない、この街にはいられなくなるぞ。木っ端役人の俺たちは、規則に書いてあることを文字通りにやっておけばいいんだよ」


痩身の役人がいかに責任を回避するか語っていた。


「いいか、もし神殿や他のギルドに回す薬が止まってみろ、暴動もんだぞ」


小太りの男も納得したように書類に強く決裁印を押した。


「……そうだな、これは『酒』じゃない。あくまで『医療資材』だものな。評議会には『飲料用は完璧に止めた』と報告しておくさ」


彼らににとっての最優先事項は、有力者の顔を立てつつ、都市全体の機能を麻痺させない「落とし所」を見つけること。 サトシが提示した『溶剤』という逃げ道は、役人たちにとっても渡りに船の救済策だったのだ。


【異世界 資金の内訳(取引後)】


前話残高:金貨3,131枚相当


支出:▲金貨120枚


人件費:金貨5枚


原材料:金貨105枚(安酒、香料)


維持費:金貨10枚


収入:+金貨340枚(現金)


高級香水『白ユリの雫』:金貨100枚


薬種商ギルドへの初回酒精納品:金貨240枚


現在の総資産:金貨3,351枚相当(約8,042万ルピ)

最後までお読みいただきありがとうございます。


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