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【完結まで執筆済み】世界線アービトラージ 〜ブラック企業を辞めた俺が、現代知識で異世界を支配するまで〜  作者: 高山 虎
第一章 立志・商権確立編

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幕間・カエサル商会の落日

「……カエサル商会の名は、あの海に消えたのです」


エレナは、日が沈んだ港湾都市の海を眺めていた。


鉄製品を卸す商人として確かな基盤を築いてきたカエサル商会。 エレナはそのたった一人の令嬢として、あらゆる教育を受けて育った。 厳しい両親ではあったが、そこには娘の将来を思う確かな愛情が籠っていた。


しかし数年前、隣の領地で大規模な鉄鉱山が開発されると、その業績は一変することとなる。 鉄の価格が下がり、保有していた在庫が多額の損失を生む負債となったからだった。


カエサル商会は損失を飲み込んで在庫をさばき資金を作り、起死回生をかけて新大陸航路に全財産を投じた。


しかし、帰ってきたのは今にも沈みそうなボロボロの船と、たった6人まで減った船員だけだった。 当時、新大陸航海は目的を達成して帰還できる確率は5~6割ほどだったといわれている。 さらに言えば、それは船の話であり、船員においては2/3が航海途中で命を落とすことが半ば当たり前のことであった。


そうして親戚たちは手のひらを返し、屋敷を奪い、家財を剥ぎ取った。 最後に残った「資産」であるエレナに対し、叔父は冷酷に言い放った。


「カエサルの娘として高潔に死ぬか、泥を舐めてでも生き延びるか。どちらかを選べ」


エレナは震える拳を握りしめた。 誇りを捨てて死ぬのは容易い。 けれど、両親が愛した「カエサル」という名が、無能な親戚たちの笑い草にされることだけは許せなかった。


彼女は自ら足枷を求め、奴隷市へと引かれていった。


しかし、現実は過酷だった。 読み書きができ、算術に長けていても、奴隷市の男たちは彼女の「体」しか見ていない。 絶望の泥に沈み、心が磨り減っていく中――一人の男が、彼女の前に立った。


バニラの香りがした。


「……あれは『ボロ株』じゃない。一時的に価値を暴落させているだけの『ディープ・バリュー株』だ」


その男、サトシは、彼女を「女」としてではなく、その「知性と精神」を欲していた。


買い取られた後、サトシはエレナに自由都市の市民権を与え、かつての令嬢時代よりも遥かに高度な経営のタクトを預けた。


「エレナ、これは慈善じゃない。君の知性が、俺の資産を何倍にも増やすと確信したからこその『投資』だ」


その言葉に、エレナは救われた気がした。 彼は没落した彼女に、哀れみではなく「役割」を、施しではなく「対等な契約」を与えてくれたのだ。


今、窓の外に広がる暗い海を見つめながら、エレナは静かに誓う。


あの海は、かつての私からすべてを奪った絶望の世界。 けれど、この人の隣にいる限り、あの海は恐怖の対象ではなく、私たちが征服すべき「市場」に過ぎない。


(サトシ様……。貴方が私を信じて投資してくださった以上に、私は貴方の智恵を、その背中を信じていますわ)


エレナの瞳に宿るのは、没落した令嬢の悲しみではない。


信頼する主と共に、かつて自分を滅ぼした運命を買い叩こうとする、強き商人の輝きだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になる!」「サトシの経済侵略を応援したい!」と思っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価いただけると執筆の大きな励みになります!


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