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はだかの勇者 ~転生者相手に、馬鹿には見えない鎧で全裸無双~

作者: まぴ56
掲載日:2026/01/30

 現代世界における西暦2026年。

 わずか十年で、異世界は転生者であふれかえった。


 当初こそ、彼らの多くは“異世界のため”と真面目に尽力していた。だが年月とともに転生者の質は低下し、いつしか徒党を組み、略奪し、殺し、犯し――悪逆非道の限りを尽くす者ばかりとなった。

 そんな転生者たちを束ねる最強の転生者がいる。転生者だけの国を打ち立て、世界の半分を手に入れた男、勇者王。


 異世界人は、畏怖と憎悪を込めて彼をこう呼ぶ。――魔王、と。


    ◆


 とある王国の大通り。

 露店の香辛料の匂いと、パンを焼く甘い匂い。馬の汗、石畳の埃。昼の活気。


 その中心で――空気だけが、冷えた。


 白昼堂々。若い少女の手首を無理やり掴み、馬車の中へ引きずり込もうとする太った大柄の男がいる。

 周囲の人々は、見ている。だが、見ないふりをしている。目を逸らし、歩幅を速め、息を殺す。


 ――転生者。

 それだけで、刃物より鋭い“沈黙”が街を縛る。


「や、やめてください! お願いします!!」


 少女の母親らしき女が、石畳に膝をついて縋りついた。

 髪は乱れ、手のひらは擦りむけ、声は裏返っているのに――それでも必死に言葉を紡ぐ。


「お願いです!! 娘は……まだ十代になって間もないんです!

 お相手なら、私が致します!! どんな辱めでも受け入れます! ですから娘だけは!!」


 しかし、誰も止められない。

 “止めた人間がどうなるか”を、この街は知っている。昨日見た。先週も見た。墓地が増えた。


「うるっせえババアだな!」


 バチン!!


 平手一発。

 母親は風船みたいに吹き飛び、石畳に叩きつけられて転がった。


「俺は“慣れた女”には興味ねえんだよ。こういう、まだ顔が青いのが一番いい。

 国まで持って帰って、たくさん使ってやるよ。な? 嬉しいだろ? 勇者様のおもちゃになれるんだからよ……」


 掴まれた手首が、ぎり、と締まる。

 少女の喉がひきつり、目が揺れた。視線の先には、倒れた母親。


「わか……りまし……た……。お願いだから……貴方の言うこと……聞くから……ママに乱暴しないで……」


 少女は、力なく膝をついた。

 唇が震えているのに、声は出ない。涙は出るのに、助けは来ない。


 男の顔に、いやらしい笑みが浮かぶ。


「なんだぁ? 聞こえねえなぁ。もっとデカい声で言ってみろ。

 ――“連れて行ってください”って。お前の口で言え」


 少女の目の光が、じわじわと削れていく。

 通りの誰もが、それを見ているのに、見ないふりをした。


 その時だった。


「そこまでだ! これ以上の狼藉は私が許さん!!」


 通りを裂く声。

 金色の影が疾走する。腰まで伸びた太い三つ編みが、尻尾のように風を引いた。

 重そうな鎧の音が、やけに軽い。


「私はこの国、タリズ王国騎士団副団長――フェイン!

 この国での狼藉は、天が許そうが私が許さん!」


 薄汚れた直剣を抜いたフェインは、殴り飛ばされた母と娘の間に立ち、男へ剣先を向けた。


 睨みつけるフェインに、男は面倒くさそうにため息をつく。


「……ったく。これで何度目だろうなぁ。お前みたいな“勘違い”をぶっ殺すのは」


 にやり。気持ちの悪い笑み。


「へえ……でも身体だけはいいな。俺は興味ねえが……おい! レイト!

 巨乳のツンデレ女騎士だぜ! お前好きだろ!」


「マジかよ!?」


 馬車の中から、細身で高身長の黒髪の男が飛び出してきた。

 舌なめずりしながら、フェインを足先から頭頂まで舐めるように眺める。


「……外道が」


 フェインの眼に、明確な殺意が芽生える。


 ドンッ!!


 その瞬間、フェインは地面を蹴った。

 狙いは女の首を掴んでいた太った男。武器も構えず、中二病じみた黒コートを羽織っているだけ――今なら、一撃で屠れる。そう計算した。


 カキン!!


 一撃目、右上から斜めの斬撃。

 だが、腕一本でガードされる。鉄を叩いたような重い音が響いた。


(……硬い。鎧を着ていないのに?)


 しかし狙いは、それだ。

 左手はガード中、右手は女を掴んでいる。胴は隙だらけ――フェインは剣を捨て、内側に潜り込む。


 内股に足を通し、体当たり。


 太った男は、でかい身体のまま――見事にすっ転んだ。


「キャッ!?」


「こっち!」


 フェインは転びかけた少女を腕の中へ引き込み、宙を舞う剣の柄を掴み取る。踏み込み一つで間合いを切り、二人まとめて後ろへ退いた。


「もう大丈夫。私がいる。……君は、お母さんのところへ」


「あ……ありがとう! 騎士様!!」


 涙でぐしゃぐしゃの顔なのに、笑った。

 少女は駆け出し、母親も這うように起き上がって抱き寄せる。――ひとまず、守れた。


 問題は。


 フェインの前には、二人の転生者。

 太った方は黄金に輝く二本の剣。背の高い方は巨大な鎌。


「……来い!!」


 啖呵を切った。

 だが、そこからは戦闘と呼べるものではなく、一方的な蹂躙だった。


 速い。重い。痛い。

 フェインの剣は届かない。身体能力の“格”が違う。

 斬られ、蹴られ、殴られ、転がされ――弄ぶように、二人はフェインの鎧を剥いでいく。


 金具が外れ、肩当てが落ち、胸当てが浮き、背中が露出する。

 周囲の視線が、怖い。


「クソ……もう見てられねえよ……」


 通りすがりの男が一歩出る。だが、足が止まる。

 恐怖と現実が、足首を掴む。


「やめろ……お前にも……家族がいるだろ。次、狙われるなら、そうなる……犠牲なんて……一人でいいんだ」


 地面に倒れるフェインは、それでも止めた。

 剣を石畳に突き刺し、それを支えに――ゆっくり、立ち上がる。


「なあレイト。次はどこ削る?」


「そろそろ、見せ場だろ。

 皆、そうだよな? 我関せずで見てるけどよ。どうせお前らも男だろ?

 ……良いぜ、見せてやるよ。でも、食うのは――俺だ」


 鎌男が、地面を蹴った。

 一瞬で距離が詰まる。フェインは反応できない。諦めるように片膝をついた。


 鎌が胸元へ迫る――その瞬間。


「いや俺、純愛過激派なんだよなあ」


 ガッキィィィイン!!


 鎌が止まった。

 豆粒を摘むみたいに、たった二本の指で。


「う、うわあああ!? な、ななな、なんだよこいつううう!?」


 そこにいたのは――変態だった。


 全裸の男。

 頭には嫌がらせとしか思えない、荘厳な装飾の施された王冠。


 まさに、その姿は――


「裸の……王様?」


「いやいやこらこら! 紳士って言ってくれよ!」


 フェインの零した言葉に、全裸王冠の男は即ツッコミ。

 次の瞬間、ぎろりと鎌男を睨む。


 鎌男の体が震えた。顔が青ざめ、鳥肌が立ち、反射的に後ろへ下がる。


「おい!? あいつ……まさか……」


 太った男も青ざめ、ポケットからくしゃくしゃの紙を引っ張り出す。

 手配書――“はだかの勇者”の特徴が書いてある。


「そうだ、そこの勇者……」


 二人の男が全裸を見る。


「いや、お前らじゃねえよ。本物の勇者、お前さ」


「わ、私……か?」


 フェインが疑うように尋ねると、全裸王冠は胸を張る。


「お前以外に誰がいる。悪漢を前に、少女を救うために、わが身を顧みず立ち向かった。

 この場で“勇者”と呼べるのは――お前だけだ」


 フェインの眼に光が宿る。

 いや、光を反射する。男の股間が発するまばゆい光を反射して。


「俺は真優マヒロ……真に優しき紳士と書いてマヒロだ」


 マヒロは片膝をつき、フェインへ手を差し伸べた。


 一瞬、フェインは手を伸ばしかけ――しかし自分を戒めるように首を振る。


「私は騎士だ……女では……」


 フェインは差し出された手を取れず、反射で引っ込めかける。

 しかし、その手首を――マヒロががっしり掴んだ。


「違う! 騎士として、共に戦う者としての握手だ!」


 ぐい、と引き上げる。力任せなのに妙に優しい手つきだ。


「さっきトイレで手を洗うのは忘れたけど、それは許してくれ!」


「最悪だなお前は!」


 ツッコミながらも、フェインの足が地面を捉える。すとん、と着地。

 立ち上がっても、なお目線は合わない。マヒロが――高すぎる。

 それでも、握られた手の熱だけは、対等だと錯覚させた。


「……できれば綺麗な手で握手はしたかったな……全裸の勇者!!」


 その瞬間――


 ガキン!!


 フェインの剣が火花を散らし、マヒロへの背後からの一撃を弾き返した。

 小太りの男が舌打ちする。黄金の剣を、もう一本構え直した。


「こっちには、もう一本、剣があるんだよ!!」


「マヒロ! 危ない!!」


 ガキン!!


 太った男の剣が、マヒロの背中を裂いた――ように見えた。

 だが、剣は途中で止まって動かない。


「お、おまえ、フザッケンナ、きたねえだろ!! これは聖剣だぞ!?」


「汚い? ケツで真剣白刃取りするのと、背後からの奇襲なら、若干ケツの方が綺麗だと思うが……」


 マヒロが真顔で言う。

 フェインが引く。


「いや、助けてもらった手前すまないが。流石に汚いと思うぞ……それは……」


 マヒロが力を抜くと、太った男は飛び退く。


(この女騎士でも倒せそうなのは……鎌持ってるノッポの方か)


「おい、女騎士!」


「フェインだ」


「なら、フェイン。あの大鎌の男は任せた。他全ては――俺がやる」


「他全て?」


 次の瞬間。

 馬車の中から一人、空から二人。中二病コートを羽織った男たちが増援として飛び出した。

 全員、荘厳な装飾の武器を構え、マヒロを睨む。


「我ら勇者軍! 貴様の狼藉は万死に値するぞ、裸の勇者!!」


「さあ、死にてえ野郎からかかってきな……あ、女の子は先に自己申告してね。めっちゃ手加減するから、そしたら連絡先とか……」


 刹那。


 ガシャアン!!


 二刀流の太った男が斬りかかるが、マヒロのデコピン一発で弾け飛ぶ。

 次の瞬間、マヒロの姿が消える。


「後ろだよ」


 振り返ろうとした瞬間、上段回し蹴りが顔面へ――

 太った男は吹き飛び、民家の壁を突き破った。


「な、なにをした!?」


「何って、めっちゃ急いで後ろに回って蹴り飛ばしただけだっての。ほら、お前の後ろにも……」


 大剣男が反射で後ろを見る。


 ドゴオ!!


「ばあか。戦ってる最中に後ろ見るとか、殴ってくださいって言ってるようなもんだからな」


 腹に拳が突き刺さり、男は白目を剥いて崩れ落ちた。


「めんどくせえ……纏めてかかって来いよ」


 勇者軍が一斉に襲う。

 だが、誰もマヒロの速度に追いつけない。背後を取られ、殴られ、武器ごと投げ飛ばされ――瞬く間に壊滅。


 そして最後の一人。


「クソ……クソォ!! この全裸の変態がああ!!」


「お! 女の子じゃん!!」


 杖から放たれる光弾を手で払うと、マヒロは音もなく一瞬で距離を詰めた。


「ひえ……いつ……のまに……」


「好きな男のタイプは……?」


「は?」


「好きな男のタイプは!?」


 女勇者は恐怖で固まる。杖が手から滑り落ちる。


「好きな男のぉおお! タイプはぁぁあああああああ?」


 理解できない恐怖で涙が滲んだ、その時。


 ドォォォォオオン!!


 空から巨大な影が落ち、砂埃が巻き上がる。

 煙が晴れると――漆黒の鎧に身を包み、禍々しい黒の大剣を担いだ美青年が立っていた。


「アリサちゃん、涙目じゃん。どしたん……話しきこか?」


「ソウマさま!!」


 アリサの眼が輝く。

 そしてマヒロを突き飛ばし距離を取る。


「あなた、終わりよ。こちらは我々勇者軍四天王の一人、漆黒の勇者ソウマ様!!

 かの魔王の左腕とも呼ばれるお方よ!!」


 ……グサッ。


「……へ?」


 アリサの胸を、剣が貫いた。

 後ろから――ソウマが。


「……どう……して?」


「雑魚は死ね。口だけ達者の雑魚が一番嫌いなんよ、僕。それに、お前ブスだし」


 シュッ、と剣を引き抜き、血を払うように振る。

 アリサは崩れ落ちた。


「おい……仲間なんだろ……」


 ブンッ。今度はマヒロに大剣が振り下ろされる。

 マヒロは身を沈め、踏み込み、殴る――だが、鎧が“勝手に”形を変えてガードした。


 そこからは攻防一体。

 剣が振られるたび、建物が砕け、石が飛び、人々が悲鳴を上げる。


 マヒロは守りながら戦うしかない。

 守るものが多すぎて、動きが鈍る。


「女騎士!!」


「フェインよ!!」


 血だらけのフェインが、鎌男を倒し終えて立っていた。


「すまねえ、回復ポーションは持ってるか? あそこでぶっ倒れてる女に使ってくれ。あのままだと死んじまう」


「……待って、あいつは敵」


「敵味方言ってられるか、人命優先。それが変態紳士の矜持ってもんだ」


「私は淑女であっても、変態ではないのだが……まあいい。その考えには賛同だ。しかし……」


 フェインの顔が歪む。

 倒壊した建物。怯える人々。血の匂い。


「任せろ」


 マヒロは小さく呟き――地面を蹴った。石畳が凹み、砂塵が舞う。


「来いよ、変態」


 キイィィィィィン!!


 マヒロの蹴りと、ソウマの大剣が正面衝突する。

 火花が散り、金属が噛み合うような音が響く。


 均衡。

 だが、その瞬間――


「テイク……オフ!!!」


 マヒロが叫んだ。

 黒い円形の影が広がり、収縮し、二人を包み込む。


 次の瞬間。

 世界は真っ暗な空間へと切り替わった。音も匂いも、遠い。


「……なにをした」


「テイクオフ……脱いだんだよ。この世界そのものを。

 これなら周りに被害を出さねえ。俺も、お前も存分に力を出せる」


 ソウマが小さく笑う。馬鹿にするように。


「……俺は勇者四天王。最強の破壊力を持つ。所詮、身体能力が高いだけのお前が勝てるわけないだろう。

 さっきのが俺の本気だと思ったか? あれは“手加減”してやってたんだよ。デザートを楽しむためにな!!」


「お前も女目当てかよ。どいつもこいつも、純愛イチャラブセ〇〇〇が至高だって、なんで分かんねえんだ」


 キュィィィイィン!!


 ソウマが大剣を掲げると、赤いオーラが渦を巻く。

 国ひとつ消せそうな魔力が、肌を刺した。


「なら逆に聞くが、何でお前は好き勝手にしない!

 この世界で僕たちは神に等しい!!」


 赤いオーラは天を貫くほどに肥大化する。


「決まってんだろ……」


 マヒロは仁王立ちし、目を閉じた。

 そして――ゆっくり腰を突き出す。


「モテたいんだ……正義の味方になって、モテて、モテて、モテまくって……」


 股間の光が強くなる。黄金に輝き、天へ伸びる“黄金の聖剣”。


「俺は! 俺による! 俺の為の! 俺だけの異世界ハーレムを築くんだ!!」


 熱で手が焼けるのに、マヒロは聖剣を握りしめる。


「そのために! 異世界を壊すお前らは絶対に許さない!

 そしてお前ら魔王軍のかわいい女の子は全員俺が貰う!!」


 視線がぶつかる。青と黒。


「レーヴァテイン!!」


 ソウマが大剣を振り下ろすと、赤い巨剣の嵐が降り落ちる。


「エクス……カリバアアアアアアアアア!!!!!」


 腰を振り下ろす刹那、黄金が天を裂き、赤と衝突。稲妻が弾け、衝撃で身体が吹き飛びそうになる。


 それでも――


「おい、ドシタン野郎! お前、彼女はいるのか!?」


「十三人!!」


「死ねやああああああ!!」


 黄金の聖剣がさらに肥大化し――


 ズガアアアン!!


 赤い巨剣すら叩き切った。

 黄金の光がソウマを包む。


「ぐ……があああああああ!!」


「イケメンは……死ねええええええ!!」


 絶叫が、無の空間に響く。

 ――これは単なる私怨である。


    ◆


 戦いは終わった。


 フェインが回復ポーションを使ったことで、アリサは一命を取り留めた。

 他の連中も怪我はすれど、命に別状はない。


 主犯格――ソウマとアリサ、そして何故だかマヒロまで。

 騎士団の取調室に拘置されていた。目の前には男の王国騎士。


「いや、なんで俺まで!? 俺、救いのヒーローだぞ!!」


「普通にわいせつ物陳列罪だ……」


「おかっしいだろ!! あの女騎士……えっと……フェインの野郎を呼べ!!」


「きさま副団長様を!?」


 騎士団員は怒鳴り、ソウマとアリサは黙り、マヒロだけが吠える。

 そんな最中、扉がガチャリと開いた。


「すまない、待たせた……っておい、何やってる!?」


 フェインが入るなり、マヒロの手枷を見て目を見開いた。


「え!? いやだって副団長、男一人と女一人に手枷をかけておけって……」


「……そうか……すまん。それは悪かった」


 フェインは鍵を奪い取り、マヒロの手枷を外す。


 そして床に座り込む――ソウマだった“美少女”を見た。


「……マヒロ。今の無礼は私から詫びよう、すまなかった。

 しかしそれはそれとして、どうしてあの男はあんな姿に? 元からあの姿だったのを幻術で変えていた、とかか?」


「あ~、あれか。あれはこれのせいだよ……グボア!?」


「バカモノ! そんなもの近づけるな!」


 マヒロが椅子の上に立って股間を近づけた瞬間、フェインが足を引く。

 マヒロは椅子から転がり落ち、後頭部を石畳に打ちつけた。


「す、すまん!? つい条件反射で……」


 マヒロは、駆け寄ってきたフェインを目だけで追い、見上げた。


(クソッ……パンツは見えねえか。まあスカートで戦う馬鹿なんて――)


 マヒロの目線が部屋隅のアリサへ向く。


(白か……黒い中二じみたコートとのコントラストが、まあ美し――)


 頬を掴まれ、強制的にフェインへ向けられた。

 そこにあるのは、ゴミを見る目。


「こいつは地下牢にぶち込んどけ」


「イエスマム!!」


「誤解だ!!!!!!!!」


 マヒロが叫ぶ。


「……で、早く説明しろ」


 フェインは椅子にどかっと座り、脚を組む。


「あれは、俺の必殺技――エクスカリバーだ。

 股間から伸びた剣で貫かれた相手は、どんな醜いおっさんでも激かわ美少女になる。

 ついでにギフトも剥がれる。転生者はただの美少女になる。……そのせいで、ああなった」


 ソウマがビクッとして視線を逸らす。

 逸らした目がアリサと合う。アリサが低く呟く。


「許さねえからなカス」


 ソウマの顔が青ざめ、俯いた。


(俺は知らん。少しは懲りろや、クソイケメン野郎)


 マヒロが鼻を鳴らす。


「ちなみにだが……その……貴殿のその恰好はなんとかならんのか?」


「別に元には戻れるぜ」


 マヒロが王冠を外すと、王冠が一瞬で形を変え、真っ白なブリーフになった。


 そして――


「ぎゃああああああ!!!!!」


 もちろん下半身の光も消える。


 ゴン!!


「うぎゅう……いや、理不尽……だ……ろ……」


 フェインの蹴りが股間に直撃。

 マヒロは倒れて気絶した。


    ◆


 気が付くと、知らない天井があった。

 木目の梁。白い布の天蓋。窓の隙間から差し込む月明かりが、薄く部屋を撫でている。


「……起きたか」


 声の方へ視線を向ける。

 机の前で椅子に座り、フェインが本を片手にこちらを見ていた。鎧は脱いでいるが、背筋だけは騎士のままだ。


「ここは……?」


「私の自室だ」


 身体を起こすと、ベッドが柔らかく沈んだ。

 視線を落とせば、服も着せられている。――最低限の“人権”は守られているらしい。


「何度もすまん……その……恥ずかしい話、慣れておらんのだ。男の体というのは……」


 フェインは深々と頭を下げた。

 真面目すぎて、こっちが困るタイプだ。


「いや、別にいいって。頭上げてくれ。俺、そういうののほうが苦手なんだよ」


 それでも頭は上がらない。


「私は王国騎士副団長。だというのに、国民を守れず、流れ者の貴殿に助けられた。

 あまつさえ助けられたというのに、こんな仕打ち……」


(あー……こういうの、面倒だな)


 マヒロは頭を掻き、ため息を吐いた。


「顔上げろ。そこまで謝るなら、救国の勇者として要求がある」


 フェインが、ゆっくり顔を上げる。頬が赤い。


「分かっている……男が望むことなど……これ……だろ?」


 フェインは胸元のボタンに指をかけ、ゆっくり外し始めた。


「こんな傷物では満足してもらえないだろうが……王国騎士副団長の初めてなら、少しは価値が――」


「いや、いやいやいや!!!!!! ちょおおおおおっと待てええええええ!!!!!」


「へ?」


 マヒロは顔を覆い、後ろを向いて腕を伸ばす。


「いや、そういうんじゃねえよ! 俺は純愛過激派だから!!」


 フェインがこてんと首をかしげる。


「純愛というなら……間違ってはいな……」


「違う違う! そういうのは結婚してからって決めてるの!! それが俺の純愛道なの!!」


 フェインが不貞腐れたように頬を膨らませる。


「貴殿……モテないだろう……」


「うるっせえ!!」


 振り返りかけて、マヒロは慌てて視線を逸らす。


「とりあえずボタン戻せ! ちゃんと要求はあるから!」


「……仕方のない奴だ」


 フェインが身支度を整えるのを確認し、マヒロはようやく向き直った。


「要求は一つ。例の魔王軍の連中は、騎士団で匿ってやってくれ。

 じゃなきゃ、あいつらどうせ殺されちまうんだろ?」


 フェインの目が鋭くなる。副団長の目だ。


「……約束しよう。騎士団副団長として」


 こくり。頷く。


「最後に、副団長じゃなくフェインに……」


 フェインが息を呑む。


「俺は、いちゃいちゃ純愛ハーレムを作りたいと思っている。だからこそ、お前もそのハーレムに――」


「はあ?」


 どすの効いた一言。

 殺気。鋭い目。


 マヒロ、固まる。


「貴殿……やはりクズだな……でも嫌いではない。

 ならば世界を救ってくれ。勇者王を名乗る魔王を打倒し、転生者に侵されるこの世界を救ってくれ。

 そしたら――お前のものになってやる」


 フェインが、ふっと笑って肩肘をつく。

 マヒロも笑った。


「言ったな。それじゃ待ってろ。自称・勇者王――ぶっとばしてやんよ」


 マヒロは木の窓を開ける。夜風が差し込み、月光が床に落ちた。

 地面は三階分、遠い。


「……もう、行ってしまうのか?」


「もちろん。この世界には救いの手を待つ野郎どもがたくさんいる」


「それは知っているが……今晩くらいは……」


「やだね。大事な初夜は、その時のために取っておかねえとな」


 フェインの笑みが柔らかくなる。


「最後に。どうして貴殿は……転生者だというのに、我々に味方するんだ?」


 窓枠に足をかけた時、最後に投げられた問いだった。

 純粋な疑問――そして、理解できないものへの恐怖。


「……俺は、勇者ゆうしゃじゃないからだ」


 そう言って、マヒロは飛び降りた。

 街の闇の中へ、一瞬で姿を消す。


 フェインは窓枠に肘を置き、空を見上げた。

 月が綺麗だ。


「……行ってしまった。勇者ではないから……では貴殿は……そうだな」


 小さく呟く。


「……裸の勇者ふしんしゃだな」

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