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嗤う泥泪  作者: 雪車町地蔵
第四部 絶望に向かい咲けよ立華~ジオサイド~

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第四十四話 布都御魂剣 (加藤視点)

「急げ急げ! 機材を運び込め……! 発動機、回せ!」


 永崎の街中を走り回り、最後の予定地である場所。

 ネクスト永崎タワーと街の両方を一望できる丘に陣取った保は、大急ぎで準備を進めていた。


 永崎の街すべてを、プロジェクションマッピングとARの合わせ技で鹿島神宮の境内に変える。

 そんな絵空事、少し前なら一笑に付していただろう。

 それでも、いまは本気で行動している。


「加藤さん! 自分のほうは準備完了ッス! いつでもいけるッス!」

「でかした! あんたはどうだ、女菟さん!」


 急ごしらえの舞殿。

 材木を組んだだけの舞台の上で、赤き霊能力者は目を閉じていた。

 心頭は滅却され、精神は統一される。

 背中から立ち上る気迫は、可視化するほどの圧力に満ち、保でさえ息を呑む。


「正直に言えば……オレは、誰が死のうが知った事じゃないんだ。死ねば命は、天獄か、地獄にいくだけだし。それだけなんだよ」


 ぶつぶつと、周囲が見えていないかのように、女菟は独白する。


「けどなぁ、理不尽って奴だけはダメだ。愛しい子らの涙を見るのだけは、どうにも辛い。オレは、誰より悲劇を憎むから」

「あんた、まさか……」

「誤解するなよ、加藤保」


 ククッと喉の奥で笑って、女菟が顔を上げた。

 その双眸は虚ろでありながら、炎のように燃えている。


「オレは、このために喚ばれたんだ。やるさ、神堕とし。それで、あんたらは?」

「お、おう! 俺たちだってやれることは全部やったぞ。あとは、センセたちからの指示を待つだけだが……おい田所! 動画配信はどうなってやがる!?」

「こっちでモニターしてるッス」


 所在が操作する、嘉嶋禮子のノートPCの横。

 立てかけられたスマートホンには、風太が撮影する映像が映っていた。

 しかし、


「ぶれっぶれじゃねぇか……」

「所詮は素人ッスから……あー、やっぱ自分で撮りたかったッス……」


 いまさら言ってもしゃーねぇと保は割り切るが、プロ根性の塊である所在には難しそうだった。


「そうだ再生数、再生数はどうだ」

「まだ低いッス。でも、SNSとかで拡散されて徐々に増え──うわぁ、アンチコメ酷い……」

「黛を応援しろよボンクラども! だが、あれだな。これだけの大事だから、世界中からアクセスが集まってきてやがる」


 そうこうしているうちに、希歌の様子が変わる。

 金泥虞泪が、勝ち誇ったように笑いだし、


「お、おい!」


 保は、空を指差した。

 先ほどまで凪いでいた空の赤い海が、荒天の兆しを見せたからだ。

 逆巻き、白波を上げる赤い海。

 画面の中では、結巳が虞泪に語りかけ。


「コメント欄、かわらずに酷いッスね。再生数は爆発的に伸び始めたッス」

「それよか、予定通りなら──」


 保が、固唾を飲んだときだった。

 希歌が、パッと虞泪に組み付いた。

 押し倒し、

『未来の大女優……ナメんな!』

 叫び、

 そして──


『いまです──加藤さん!』


 風太が、叫んだ。


「や、やるぞ? 一発勝負、本当にやるからな? 女菟さんもいいんだな!?」

「わざわざ確認するな。やれ」

「よし……田所、やっちまえ!」

「承知ッス! ポチッとな!」


 禮子のPCが操作されると同時に、すべてが有機的な結合を見せる。


 これから起こるのは、人の手による必然だった。


 永崎中に設置された投影機から、無数の光が多角的に街並みに照射される。

 保が投資したプロジェクションマッピング技術が永崎を覆い尽くし。

 そこに、立体的に保存された、ある種の異界を形成する。

 四百平方キロメートルの、超々巨大結界。


 それなるは、鹿島神宮。


 嘉嶋禮子が用意した、〝水〟の力を制御するための社。

 ネクスト永崎タワーを中心に、街中に拡張された境内。

 そしてその最奥に位置する場所。

 本殿である場所こそが、いま朽酒女菟が立つステージであり──


「こ、これでよかったのかよ、女菟さん!?」

「十分だ……っ」


 カッと目を見開いた女菟が。

 両手を拳の形に変えて、左の腰に当てる。

 まるで武士が刀に手をかけるように。


「鹿島神宮の祭神、その御名をタケミカヅチと云い。一振りの刃を、神体として納めるものなり。その剣の名は──布都(ふつの)御魂剣(みたまのつるぎ)といいにけり。即ち──」


 ぞろりと。

 彼女が拳を──腰に()いた夢想のツルギを抜き放つ。


「かつて神を殺した刃の()なり」


 連動するのは、背後の本殿。

 拝殿の彼方、本殿の奥深くに安置された大長物。

 巨大な、長大なご神体。

 布都御魂剣が、いまこそ抜き放たれる。


「  (ひと) (ふた) () () (いつ) () (なな) () (ここの) (たり)  」


 ゆらりと自ら動き出したご神体が、天に向かって屹立する。

 それはネクスト永崎タワーを超える威容を持ってそびえ立ち。

 赤い海の光を受けて、真紅に煌めき天を衝く。



 ──霊験(れいげん)(あらた)か──



「 布留部(ふるべ)  由良由良止(ゆらゆらと) 布留部(ふるべ)! 由良止(ゆらと) 布留布留(ふるふる) 由良布留部(ゆらふるべ)! 」


 裂帛の気合いとともに、成層圏まで届く巨大な剣が振り抜かれた。


「対シン概念法ひふみ秀真──『〝(きん)〟』!!! 天寿を帯びて、零落(オチ)ろ神々!!!」




 ──天地が/

     /両断される──




 空が。

 赤い海が。

 大地が。

 境内となった永崎の街並みが。


 すべてが真っ二つに両断され。

 赤い海が、決壊する前に雪崩となって降り注ぐ。


 同時に斬り破られた大地の裂け目が、巨大な奈落──黄泉比良坂(よもつひらさか)へと変貌し、降り注ぐ瀑布のすべてを飲み込んでいく。

 境内のすべては穴──地獄への路行となって、荒れ狂う水を余さず飲み込み続ける。


 ただ降り注いだのならば、世界の破滅。

 ただ開いたのなら、死者の氾濫。

 どちらも人類史の終演を意味したであろう災厄の相克が、神の降臨を瀬戸際で堰き止めていた。

 神社という領域が、神奈備が、天と地を繋ぐ絶界と化す。


『お──おのれぇえええええええ、朽酒女菟ぅぅぅぅ!! ドゥーム・ワン! 愚かしい最初の死めぇええええ!! そんなに我が子が愛おしいのかぁ!?』


 奇跡的に続けられる撮影の中、配信される生中継の中で、金泥虞泪が絶叫した。

 女菟は、かすかに微笑み。


「そうだ、オレは朽酒女菟! 神さびた恩讐の彼方から、神々に昏き死を馳走しにまいった原初の死。悲しみ、不条理、理不尽を呪う、人類の始祖だ!」


 叫ぶ。


「十全に味わえよ神ぃ、これが生きるということだ! 加藤保。いまこそ風太の望みを叶えろ! 星の屑を呼べ!」

「あ、ああ……! わかってるよ! 田所!」

「こうなりゃ自棄(やけ)ッス! 自棄のバーゲンセールッス! 受け取ってくださいね、センセー!」


 そして、もう一つの光が。

 今度は地ではなく。街でもなく。

 空を──照らした。


 赤い海に、無数の光点が照射されて──


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