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嗤う泥泪  作者: 雪車町地蔵
第二部 泥泪サマはそこにいる ~エンデミック~

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第二十五話 川屋華子の帰還

「──私が眠っている間に、大変な目に遭いましたね……申し訳なく思います」


 病床の華子は、希歌たちに向かって頭を下げた。

 希歌たち、というのは、保、所在だけでなく、箱屋敷から着いてきた黒子がひとり、影のように従っているからだ。

 室内にはこの五人の他に雪鎮がいて、落ち着きもなく歩き回っている。


 しかし、希歌は別のことが気になって仕方がなかった。

 病室の様子が、明らかにおかしいのである。


 窓という窓が、アルミ箔のようなもので覆われ、扉にはお札が何枚も貼られており、四隅には盛り塩がされている。

 ベッドの横には祭壇のようなものが作られ、鏡やら餅やらが奉られていた。


 あまりにあんまりなので、自分の置かれている状況すら忘れて、


「よく許可されましたね」


 などと訊ねてしまった。

 すると、華子は苦笑を浮かべて。


「ああ、やはり奇異に映りますか。しかし、病院の理事長さんは理解のある方で。波動を(さえぎ)る気休めですが許可を……それよりも黛希歌さん、よくお顔を見せてください」


 言われるがまま、華子のベッドの横に腰掛ける。

 華子は希歌の顔の前に手を突き出し。

 目をジッと閉じて、なにかを探るような仕草をした。

 それから、


「たしかに、こちらの御二方」


 保、所在を順番に指し示し、言う。


「彼らと比べると、希歌さんは重傷です。なにか、ここに来るまでもありませんでしたか?」

「……正直に言えば、ええ。お風呂の水が、泥になって」

「なるほど」


 小さく頷く華子。

 彼女はしばらく考えると、傍に控えていた弟子を呼びつけた。


「雪鎮。私が不在の間、よく頑張ってくれました。しかし、どうやらこれは、私たちの手には余る事柄のようです」

「そんな!? 冗談じゃないぜ川屋先生!」


 悲鳴を上げたのは、保だった。

 彼はやけに必死に、華子へと訴える。


「俺が先生のルールを曲げて、あのTAKASHIを現場にいれちまったことなら謝る。この通りだ! だから、こんなところで手を引くなんていわねぇでくれ! こいつを──」


 ちらりと、彼は希歌を見て。


「うちの女優を、見捨てないでやってくれ! たのむ……っ!」


 ベッドにめり込む勢いで、頭を下げた。


 これは、希歌にしても意外なことだった。

 もとから横暴を絵に描いたような上司である。

 いかに人情味のある古い人間とは言え、いざとなれば切り捨てられると思っていた。


 けれど、実際にはこうして必死になってくれている。

 寄る辺のなさに不安を抱えていた希歌は、思わず心が揺れてしまうほどだった。


 華子は、そんな保の様子をしばらく眺めて。

 やがて、力無く微笑んだ。


「希歌さん、あなたは以前、私に訊ねましたね。なにが専門なのかと」

「あ、はい」

「あのときは答えられませんでしたが……私の専門は、すべてです。陰陽師。それが私の仕事なのです。神道、密教、十字教、拝火教……神仏悪魔に妖怪変化……利用できるものはすべて利用して、陰と陽の調和を保つ。ひとに害なす悪意を除き、ひとの悪意が怪異を蝕むのを阻む──そんな何でも屋が、私です」


 だからこそと、華子は言う。


「もちろん、手を引くなどとは言いません。私は、最後まで皆さんを守れるよう頑張ります。目的のために手段を選ばず、節操なく全力を尽くす。それが、陰陽師ですから」

「じゃあ!」

「……ですが、私が無力なのも事実です。なので、助っ人を呼びたいと思います」


 これに、希歌たちの誰もがいい顔をしなかった。

 これまで雪鎮が仲介してきた霊能力者は、全員が除霊に失敗しており、期待薄であったからだ。

 それを各々の表情から読み取ってだろう、華子は安心させるように慎重に言葉を選び、口にする。


「助っ人、という表現は少し違うかもしれませんね。来ていただくのは、比類なき力を持つ御方です。言いましたよね、節操なく力を借りると。相手がたとえ、格上で、おそろしいひとでもです」

「それは……簡単にいうと」

「最強の霊能力者って、ことッスか?」


 保と所在の問いかけに、華子は曖昧な表情で頷く。


「強さ……というステージにいないという意味では、違います。たとえば……」


 彼女は黒子を指差し。


「ただの強さなら、〝箱屋敷の黒子〟は最上位に値します。全員が、話に聞く狗鳴躯劾よりも強い力を有している、と言うことになるでしょう。ですがその御方は、格が違うのです」

「格……」

「どれほど困難な依頼でも、どれほど強大な怪異であったとしても、なんとかしてくれる救い主。人間が最後に頼るべき寄る辺。そういった、すごい方です。ただ、一つだけ問題があって」


 アポイトメントが、なかなかとれないのだと、彼女はいう。


「その御方──女菟(めう)師には、私が目を覚ました段階で、既に詳しい話は連絡してあります。ですが、先に言ったとおり私とは格が違います。一蹴、門前払いされても不思議ではありませんし、いつ会えるとも私には御約束できません。気がつけば助けられていた、なんてこともザラにある方なのです」

「そんな……」

「嘆かないでください、黛希歌さん。あなたは、できるだけ心強いひとの傍にいるといいでしょう。きっとそれが、あなたの命を助けます。そして、私も全力を尽くします。可能な限り、敵──泥泪サマの正体を探ってみましょう。それから、これは気休めなのですが」


 そう言って、彼女は懐から三つの紙包みを取り出した。

 五芒星が表面に刻まれている。


「これは?」

「いわゆる依り代、お守りです。一度か二度、身代わりになってくれるでしょう。ないよりはマシ、程度ですが」

「頼りねぇ先生だなぁ……でも、貰っとくぜ。ほら、お前らも持っとけ」


 保に渡され、ふたりもそれを身につける。

 そこまで話したところで、華子は疲れたように病床に身体を横たえた。


「すみません。疲れてしまって」

「ああ、長居したな」

「……最後に、一つだけ。これは皆さんにですが」


 わずかに言いよどむようにしてから。

 華子は、全員に訊ねた。


「この祟りの本質は、なんだと思いますか?」


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