兄から見たセドリック
弟は、昔からどこかおかしかった。
買い与えた玩具よりも、ネブラ教の教典を喜んで読む三歳児なんて、この世に他にいるだろうか?
俺にはその光景が、どうにも不可解で、不気味で仕方なかった。
物心ついた頃には、すでにセドリックは隣にいた。
俺の方が二つ年上で、当然ながら、あいつは弟だった。
普通の兄弟ってやつは、もっと仲良く遊ぶものらしい。
実際、貴族の子弟たちの家を挨拶回りで訪れると、兄弟姉妹が笑いながら庭を駆け回っていたのを覚えている。
だけど俺は、セドリックと仲良くしたいと思ったことがない。
気味が悪かった。あまりにも異質だったんだ。
だから自然と距離を取ったし、たぶん向こうも俺を遠ざけていたんだと思う。
……けれど、ある時ふと、こんな考えが頭をよぎった。
――もしかして俺の勝手な思い込みで、本当はセドリックは俺と遊びたかったんじゃないか?
いつからそんな考えが湧いたのかはわからない。
ただ、そう思ってからというもの、妙にあいつが可哀想に思えてきたんだ。
玩具も使わず、ひたすら教典を読んでるだけの“変な子供”が、少しだけ愛おしく思えた。
それからは、時間があればセドリックを外に連れ出すようになった。
もちろん、すぐに気づいたよ――やっぱりこいつはおかしい。
一緒にいると、こっちまで頭がおかしくなりそうな感覚に陥るくらいには、異質だった。
でも、それでも俺にとっては弟だった。
俺なりに、やれることはやったつもりだ。
おかしな思想を持てば正そうとしたし、教典を曲解しないよう、俺自身も読んで、一緒に音読したこともある。
誤解のないよう、できる限り丁寧に、根気強く。
……だけど駄目だった。
あいつは生まれついての異常者だった。
異常な信仰心と、理屈の通じない偏執さを併せ持った――どうしようもない存在だった。
正直、いつかやらかすだろうとは思っていた。
でも、まさかここまでの惨劇を起こすなんて……。
セドリック、お前はきっと、人類の脅威だ。
頼むから――大人しく捕まって、裁きをその身で受けてくれ