兄と僕の問答
「なぁセドリック、昨日の夜どこに行ってたんだ?」
ふいに、僕の心臓を突き刺すような言葉が飛んできた。
「これは兄様。どうして昨夜のことが気になるのですか?」
落ち着け、セドリック・アーム。昨夜の“焼殺”が常人に理解されるはずもない――その覚悟を持って僕は出ていったはずだ。
「いや、なんというか……昨日、お前に同行した従者って、全員が武闘派で熱狂的なネブラ教徒だったろ?あんな連中を連れて、どこへ行ったのか気になってな」
兄は確信こそ持っていないが、僕が何か後ろ暗いことをしたと踏んでいるのだろう。
もちろん、僕自身も“世間的に”見れば悪事であることは理解している。だからといって、正直に話すつもりなどない。
「昨夜は、ネブラ様の素晴らしさを民に伝えに行ったのです。ただ、僕の身に何かあっては困りますから、あの三人を連れて行きました。確かに、父上や兄上に何の相談もなく出かけたのは軽率でした。そこは謝罪いたします。でも、僕には、ネブラ様のご加護を信じず、理解しようともしない愚民の存在がどうしても許せなかったのです」
我ながら完璧な説明だったと思う。事実、僕は嘘を一言も口にしていない。兄もこれなら納得するはずだ。
彼の様子をうかがうと、特に疑うそぶりもなく、いつものように“理解できないもの”を見る目で僕を見ている。
「あぁ〜悪かったよ……確かに、お前ならやりそうだしな」
そう言いながら、兄は僕の肩を軽く叩いた。
「わかった。お前の熱意は……いつもながら、十分伝わったよ」
その言葉を残し、彼はわずかに顔を歪めながら、部屋を出て行った。
――その直後、僕の部屋に衛兵が踏み込んできた。
気づけば、僕は完全に包囲されていた。