帰宅
まさか、デリックさんがここまで警戒されているとは思わなかった。
僕の見立てでは、この男は自身の保身のためであれば味方を簡単に裏切るクズだと思っていたが……どうやら衛兵の立場として、独自のラインを持っているらしい。
ただ、これで確信した。
やはりネブラ様は、モーランを殺せと僕に言っていることを。
「出してやったんだから、もう面倒を起こすなよ。俺がモーランさんに怒られちまう」
と、彼は言い残して第二出口の方へと歩き始めた。
「どこに行くんですか?」
「モーランさんの援護に決まってるだろ。この怪我じゃあまり役に立てないかもだが、出来ることはあるからな」
当たり前のように、彼はそう言い放った。
おかしい。
僕の読みでは、彼は死ぬ可能性がある場所に行くはずがないのに。
「命欲しさに僕たちを出したはずなのになぜ死地に赴くんですか? グランツさん」
「ん? モーランさんがいるんだから、俺が死ぬはずないだろ」
キッパリと、そう言い切る。
グランツがそれほどまでにモーランの武力を信じ切っている事に、僕は驚愕した。
同時に、彼ほど命を大事にしている男が「死ぬリスクが無い」と言い切れるモーランの武力に、背筋に冷たい汗が流れた。
ガロスやルシアンは無事だろうか。
今すぐ確認に行きたいが、彼がモーランの援護に行くと言っていたのを思い出し、僕は僕の役割を認識した。
僕は、こいつをモーランの元へ送ってはならない、と。
なぜなら彼の怪我であっても、おそらくクロスボウなどの投擲物は使えるからだ。
向こうがどうなっているかは分からないが、まだ戦いが続いていた場合、彼の到着で戦況が一気に不利になる可能性すらある。
何が何でも、彼をモーランから引き剥がさなければならない。
「そうですか。では僕たちは僕たちで楽しむので、モーランさんへの加勢、頑張ってくださいね」
と言い、僕はラグと共に馬小屋の方へ歩き出した。
「待て。なんでそっちに馬小屋があることを知ってやがる。まさか牢屋内だけじゃ無くて、周辺の地形もバレてるのか」
やはり止めてきた。
こいつはモーランと共にデリックさん達を最速で仕留め、すぐにモーランを連れて自分の家族の保護に向かうつもりだったのだろう。
その甘い考えは、真っ向から潰す。
「ええ、知ってますよ勿論。やはり行くなら早い方がいいので、馬は必要かと思いまして」
「ちなみに……どこに行くつもりか、俺に教える気はあるか?」
「わざわざ言わなくても、あなたなら分かってるんじゃないですか?」
彼は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「分かった。このタイミングで言ってきたという事は、モーランさんへの加勢を阻止したいって意味だろ。……俺は、家に帰ることにする」
僕が今1番聞きたかったセリフを彼が口からこぼして、馬小屋の方に向かった。
「だが、一つだけ言わせてくれ。これだけの怪我を負った俺と戦いたくないって事は、ラグも本調子じゃないって事だろ? この状態の俺に負ける可能性を考慮する程度の戦力なら、モーランさんへの加勢に行ったところで無駄足だぞ」
捨て台詞のように僕らに言い放ち、グランツは彼の家の方に馬を走らせた。
片手でお腹を抑えながら、空いた手で手綱を握る姿を見て、おそらく戻ってこないだろうと考え心の中でガッツポーズをとった。
「あとは、モーランを殺せば全員晴れて脱出できるぞ、ラグ」
「そうっすねセドリックさん!」
すでに全滅している可能性もあるが、それは口には出さなかった。
身内が死んだ時、ラグがどんな変化を起こすのか僕には予想ができなかったというのもあるが。
何よりも、その可能性を僕が考えたく無かったからだ。




