天啓
うそだうそだうそだうそだうそだうそだ――。
僕の眼前に広がる光景を、僕は信じられなかった。
うつ伏せになり、血の池の真ん中で倒れている人物に心当たりはある。
しかし、僕の知っている人物がこんな姿を晒すなど、想像ができなかった。
だからお願いだ、どうか別人であってくれ。
そう願い、僕は彼に近付くと――案の定そいつは僕が想像していた人物、ラグであった。
視界が黒く染まりそうだ。
ラグも可哀想な人々を救済していたのに、なぜこんな最後を迎えなければ行けないのか……いや、逆に考えよう。
本来ならラグはここで死んでいるがネブラ様が見守っている以上は加護があるため、僕らが死ぬことはないはずだ。そう結論付けて、ラグの首筋に手を当てる。
想定通り!
ドクドクとゆっくりだが、確かに脈打っているのがわかる。
ネブラ様が見捨てていないという確たる証拠を掴んで安心したが、同時に、僕がなんとかしなければこのままラグが死んでしまうというのも理解している。
しかし困った事に、医療知識もなければそれといった器具も無い。
しばらく自分の記憶で使えそうなものを探っていると、戦場では傷口を焼いて延命させていた、ということを思い出した。
しかし、軽傷者に対する措置であり、重傷者にはさほど意味を為さないらしいが……試す価値はある。
僕はライターを取り出し、ラグの肩口からの切り傷を炙っていく。
「あっちぃぃぃ!!」
ラグが叫びながら上体を起こすが、その反動で、さっきまで炙って塞いだはずの傷口がまた開いてしまった。
「いってぇぇぇぇぇ!!」
痛みが襲ってきたのか、そのままラグは倒れた。
「あれ、俺……まだ生きてる?」
「ネブラ様によって生かされたんだよ、ラグ。ネブラ様に感謝しておけ」
「あ、セドリックさんが助けてくれたんすか。ありがとうございます」
「僕へもそうだが、ネブラ様への感謝も忘れるなよ」
そうこう会話しているうちに、ラグの傷を炙って、薄い膜のようなもので傷が覆われ始めた。
大体塞がったあたりで、僕は炙るのを止める。
「一体、ここで何があったんだ?」
「なんかクッソ強いおっさんにやられたんすよ」
「それじゃなにも分からない……」
僕が頭を抱えると、出口扉の隅に小さく折り畳まれた紙を見つけた。
近付き、開いてみると――
「お仕事頑張ってね 悪党を捕まえてね パパ」
下手くそな絵も添えられた、子供からの手紙だということがわかった。
「これの持ち主が誰だか分かるか? ラグ」
「なんすかこれ? そもそも俺、字が読めないんで分からないんすよ」
「分かった、質問を変えよう。お前の戦ったというおっさんは、子供がいそうな人物だったか?」
「それも分かんないっすけど……いてもおかしく無いと思いますよ」
それを聞いた時。
僕は、天啓が降ったように感じた。
「セドリックさん……ゾクゾクしちまうんで、その笑顔ちょっとやめて欲しいっす」
「無理な相談だ。ネブラ様に天啓を下していただいてね。悪いけど、この微笑みを止めることはできないよ」
「何かエグいこと、思いついたんですか?」
何かを期待するようなキラキラとした眼差しが、僕を貫く。
「ああ、少しだけ行けない事を考えてしまったが、ネブラ様が授けてくれた案だからね。大事に使うとしよう」




