脱獄開始
命の取り合いは、これまで何度も見てきた。
僕の指示で奪われた命も、決して少なくはない。
だが、自分自身が殺し合いの只中に身を置いた経験はなかった。
そのせいか、ガロスやラグの猛々しい動きとは程遠い自分の姿を皆に晒してしまい、多少の羞恥心を覚える。
「気にするなよ、セドリック君。初陣なんて、みんなそんなもんさ」
先ほどまでの不機嫌さが嘘のように、武器の回収を終えたデリックが肩を叩いて慰めてくる。
周囲を見渡せば、他の囚人たちも似たような有様だ。説得力はある。
だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。返す言葉に詰まってしまう。
「え、じゃあガロスさんの初陣も、こんな感じだったってことっすか?」
ラグが軽い調子で問いかける。
「スラム育ちでな。物心つく前からナイフを握ってた。……初めての殺し合いは、覚えていない」
その返答を聞き、ラグはつまらなさそうに死体の頭部を蹴った。
「セドは、そもそも戦いに向いていない可能性もある。やはり、いつモーランと遭遇するか分からない四班より、一班に来るべきだ」
「何度も言ってるだろ、ルシアン。危険だとしても、僕はみんなと対等な仲間でいたいんだ」
「……分かったから。そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
引き下がるルシアンの様子を、僕は少し愉快に眺める。
もっとも、その感情を悟られぬよう表情は抑えた。
するとガロスがルシアンの胸を軽く叩き、直後に彼の表情が和らぐ。
そこには、ガロスの武力に対する確かな信頼が垣間見えた。
「さて、思ったより死んじまって大変だが……作戦通り行くぞ。クルスが死んだ以上、予備の鍵開け作戦は使えねえ。だが構わない。武力で脱出する」
デリックが声を張り、作戦続行の意思を周囲に示す。
「楽しみだなぁ。モーランって、そんなに強いんすか?」
「そうだな。少なくとも、お前の数十倍は強いな、ラグ」
好戦的な会話や情けない愚痴が飛び交う中、僕たちは列を作り、班ごとに人数を報告していく。
「一班九人、二班十人、三班四人、四班五人か」
元は四十九人いた。
つまり、先ほどの戦闘だけで二十一人が死んだことになる。
「三班が少なすぎるな。俺の班から一人、二班から二人、三班に回せ」
その指示に、真っ先に噛みついたのはルシアンだった。
「待て! 四班が五人のままじゃないか! 四班の危険度を分かっているのか!?」
デリックはその声を、まるで聞こえなかったかのように無視し、僕の前に歩み寄る。
「これをライターで炙ると、真っ白な煙が出る。三つ渡す。これで何とか逃げろ」
渡された球はひどくボロボロで、いかにも手作りだった。
好奇心旺盛なラグだけでなく、ガロスや他の囚人たちも覗き込んでくる。
「これで文句ないだろ?」
「……そういうことなら、な」
舌打ち混じりではあったが、ルシアンは不承不承ながら納得したようだ。
「列を組め! 俺の合図で、一斉に走るぞ! いいな!」
号令と共に班ごとの列が完成し、牢の出口へと向かう。
それぞれが自分の目的地の方向へ足を向け、待つこと十秒。
「走れぇぇ!!」
デリックの叫びと同時に、僕たちは四方へ散っていった。




