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宗狂の教え  作者: 真水
プロローグ
2/19

いつもの家庭

コツコツと扉をノックする音が聞こえた。

その瞬間、僕の意識がゆっくりと身体に引き戻されてくるのがわかる。


「セドリック様、朝食の準備が整いました。食堂までお越しくださいませ」

「すぐに行くと、父様に伝えてくれ」


「かしこまりました」と言い残し、メイドの足音が遠ざかる。

僕は寝巻きを脱いで礼装へと着替え、寝癖を整えた後、ネブラ様への挨拶を忘れずに済ませてから、食堂へと向かった。


「父上、おはようございます」

「ああ、おはよう、セドリック」


彼は我が父、ヴァレスタイン国の公爵家・アーム家の当主、クリレオ・アームである。

見事な髭と、立派な腹を蓄え、額は随分と後退している。

その生え際が僕に将来の不安をちらつかせることはあるが――

父は、生きる上で一切の不安を与えない、非常に優秀な貴族だ。


民のために率先して動く慈愛に満ちた心を持ち、

戦となれば常に勝利を掴む、恐るべき軍略家でもある。

加えて経済の采配にも長け、我がアーム家の領土アイルーは、ヴァレスタインの首都・ヴァレスに次ぐ繁栄を誇っている。


見た目以外、父には何一つ欠点がない。

だからこそ、僕はネブラ様の次に彼を尊敬している。


「アランはまだ起きてこないのか?」


アランは僕の兄だ。

やる時はやるのだが、基本的には怠け者で、ネブラ様への信仰もそこまで深くはないように見える。

まったく、許しがたい堕落だ――とは思うが、

一応信徒ではあるし、最低限の規律は守っている。

ダメな兄だがそれでも信頼できる兄なのは確かだ。


「父さん、おはよー」


気の抜けた声が食堂に響いた。噂をすれば何とやら、とはこのことか。

「“父さん”ではなく“父上”だ。それに、“おはようございます”だろう」

父はいつものように注意するが、もはや半ば諦めている節もある。


まあ、兄はいつもこの調子だ。

逆に、もし敬語で話してきたら――偽物を疑ってしまうかもしれない。


「よぉ、セドリック。今日も眠そうなツラしてんな」

「おはようございます、兄上。それと、この顔は生まれつきです」


少しヒヤリとした。

けれど、兄はいつもいい加減な口調なので、深く気にする必要はないのかもしれない。


「では、皆が揃ったな。朝食をとるとしよう」


父の言葉を合図に、僕たちは食事を始めた。

僕は昨夜の光景を思い返す。

火に包まれた彼らの叫び声が、今も耳の奥に残っている。


――彼らは無事、ネブラ様の御許に行けただろうか。


確か、教典にはこうあったはずだ。

「死した者は、焼かれねばならぬ」。


ならば、生きたまま焼かれた者は――

なおさら、確実に救われるはずだ。

きっと、ネブラ様は彼らを御導きくださる。


そう結論づけた僕は、食後すぐに席を立ち、ネブラ様への祈りを捧げに聖堂へと向かう。


――どうか、悪魔に魅了された彼らにも救いを。


僕は手を組み、心から、祈った。


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