作戦会議2
「流石に冗談きついって、セドリックくーん。」
苦笑いを浮かべながら、デリックが僕の方へ歩み寄ってくる。
「僕は真剣に言っているんです。この作戦を容認したら……今までの僕を否定してしまう気がするんです。」
僕はこれまで、一人でも多くの人がネブラ様の祝福を受け、幸せになることを望んできた。
そのために、ヴァイルに魅入られた人々を救いに行き、危険な目にも遭ってきた。
だからこそ、ネブラ様の信徒を“死ぬこと前提”で送り出したくない。
「セド、あいつは本当に危険なんだ。モーランはアイルー領最強の戦士として名高い。戦場ではクレリオ様の右腕として戦い抜き、単身で小隊を潰す化け物だ。」
ルシアンが、必死に僕を引き止めようとする。
だが、次に響いたのはラグの気の抜けた声だった。
「俺はセドリックさんの意見に賛成っすけどー。俺がそいつぶっ殺して最強の座を手にできる絶好の機会だし〜。」
その軽薄さに、ルシアンは怒りを爆発させた。
「ラグ!! 今回はいつもと違って余裕が無いんだ! お前の勝手な道楽でセドを誘導するのはやめろ!」
ラグはバツが悪そうに視線を逸らし、僕に助けを求めるように目を向けてくる。
「セドリック様、私もアイルー領の兵士として戦場に出たことが幾度かありますが……モーランは別格です。私とラグが二人がかりで襲いかかっても、絶対に勝てないでしょう。」
ガロスが僕に告げてくる。カルトやエルマンも同様な事を言っていた。
――ラグを除いた全員が、戦いを避けようとしているのがはっきりと分かる。
「これで分かっただろ? セドリック君、これは君のわがままなんだよ。」
デリックが冷ややかに告げると同時に、ルシアンが僕の肩を叩いた。
その瞳は「余計なことを言うな」と訴えている。
だが、僕は空気を切り裂くように言葉を放った。
「ならば――他の囚人も全て含めて。この牢にいる49人、みんなで戦いましょうよ。」
言葉を聞いた仲間たちは、目頭を押さえる者、笑みをこらえられない者……反応は十人十色だった。
「なんでそこまでしてモーランを殺したいのかい? セドリック君。」
案の定、僕の意思を拒んだのはデリックだった。
しかし彼の目は驚くほど真っ直ぐで――まるで僕を通して、誰かを見ているかのようだった。
嘘は言えない。言ってはならないと、直感が告げる。
「僕と直接的な知り合いじゃなかったとしても……僕は、ヴァイルと戦ってきた仲間を見捨てたくないんです。」
否定されるかもしれない。拒まれるかもしれない。
それでも口にした次の瞬間――僕は自分の耳を疑った。
「じゃあ計画変更で行こうか。セドリック君の言う通り、他の囚人も含めてモーランをぶっ殺そう!」
……デリックの声が、少し弾んでいるように聞こえた。
「ふざけるな!! あんな化け物と戦うくらいなら、俺はこの作戦に参加しないぞ!」
カルトが真っ先に声を荒げ、続いてエルマンも反対を叫ぶ。
ガロスは渋い顔をして黙り込み、ルシアンは顔を真っ赤にして怒りをぶつけてきた。
「セド!! それにデリック!! お前ら、何をイかれたこと言い出してるんだ! あいつがどれほど危険か、まだ分からないのか!?」
「ごめん、ルシアン。だけど僕の意思は変わらない。危険なのは分かってる……それでも、ネブラ様の信徒を見捨てたくないんだ。」
言い切った瞬間、僕は腰を90度ほど曲げた。
視界には、薄汚れた石造りの床が広がっている。
今ルシアンはどんな顔をしているのだろうか。
頭を上げて確かめたい――だが、必死に堪えて彼の返事を待つ。
「ルシアン、苛立つ気持ちも分かるが……この牢で一番の統率力は、あの黒人にある。あれを説得された以上、ここでの言い争いは無意味だ。それに、セドリック様が自ら頭を下げている。これで納得できぬのなら、従者なんてやめてしまえ。」
ガロスが、ルシアンを諭すように言った。
最初はガロスと口論しかけたルシアンだったが、ラグが割って入ったこともあり、やがて大きなため息と共に渋々計画に同意する。
その様子を見届けた僕は、デリックに視線を移す。
彼は軽薄な言葉を並べながらも、カルトやエルマンを巧みに説得していた。
――なぜだろう。僕は高揚感に包まれていた。
答えは簡単だ。
デリックが完全に僕の味方となったからだ。
どうやら僕は、思っている以上にデリックを高く評価していたらしい。
まだ何も始まっていないのに、生まれて初めて感じる強い達成感を、僕は噛み締めていた。
アイルー領→セドリックの実家が保有する領土
クレリオ→セドリックの父




