僕らの和解
「セド、この男はこの牢獄内で最も権力を持っている者だ。下手に殺せば、この中は阿鼻叫喚になるぞ。だから――」
「お前喋れるのか、金髪ロン毛。大人しいやつだと思ってたら、そんな偉いところの人だったのか?」
デリックが続けて何か言おうとした矢先、ルシアンの顔が豹変した。
「私の話を遮るな!!!」
その声は尋常ではない大きさで、耳を塞いでも鼓膜が痛むほどだった。
チラリとガロスを見ると、太い指で必死に耳を塞ぎ、耐えている。
デリックは半ば涙目になりながら耳を押さえていた。可哀想に。
ルシアンは口を動かしているが、僕の耳もやられて聞き取れない。少し睡魔も襲ってきた。
――どうやら僕はここまでらしい。
「すみません、ネブラ様。すぐそちらに向かいます……」
意識が闇に沈む。
⸻
目を覚ますと、従者2人、デリック、取り巻きの筋肉4人が僕の視界を埋めていた。
なんでむさ苦しい男7人の顔が目覚めの最初の光景なのだろうか……。
やはり、背徳者たるデリックをあの場で殺すことを一瞬でも躊躇った僕への罰だろうか。
くだらないことを考えながら、身体を起こす。
「セド、ごめんな? 頭の方は大丈夫か?」
「言いたいことは色々あるけど保留にしておく。まずはデリックさんに聞かなければならないことがある」
もしデリックが僕の予想通り、悪魔に憑かれた者なら殺すのは確定だ。
だが、この広い牢内で問題を起こした場合の影響も考えなければならない。
そして、もし悪魔憑きであれば、頭が正常に動く悪魔憑きも存在する。
これは早急に確認すべき案件だ。
もしかしたら兄も頭が正常に動く悪魔憑きかもしれないからだ。
「経典第42条6項には、何と書いてありますか?」
僕の予想では、デリックは「適当に答えるか、正確に当てるか」の二択だ。
様子を見た感じでは、ネブラ様をなんとなく信仰しているだけのように思える。つまり、僕が見てきた通りのデリックはこの質問に対して「分からない」と答えるのが自然なのだ。
「悪魔に憑かれて罪を認められない者がする行為、だったかな?」
そう来たか。
ネブラ教に潜り込んだスパイか、生粋のネブラ教徒か――絶対に見極めてやる。
「待ってくれよ、セドリック君。経典に書いてあること、もう少しちゃんと解釈しようぜ?」
「お前はまた僕をコケにするのか?」
「違うっての。脱獄とは〝罪を認められない者″がする行為だ」
「セドは悪魔に憑かれた村人たちを解放してあげただけだろ? そもそも罪なんか犯してないのに、私たちは捕まっている。これは不当逮捕であり、経典に書かれた脱獄とは異なるんだ」
言われてみればその通りだ。
僕は脱獄という単語に反応してデリックを悪魔扱いしたが、間違っていたのは僕の方だった。
「ごめんなさい、デリックさん。僕が間違っていました」
「良いってことよ。しかしルシの補足が無かったら、まだ俺とセドリック君はバチバチだったかもしれないな。助かったぜ!」
デリックは上機嫌にルシアンを褒めるが、ルシアンの顔は再び豹変する。
「次、その変な名前で呼んだら殺すぞ」




