悪魔に憑かれた村
この国ではネブラ教とヴァイル教の二大宗教が広く布教している
パチパチと焚き火が心地よく音を立て、僕の掌に熱がじんわりと染みていく。
このくらいの温度なら、悪魔に取り憑かれた彼らの魂もきっと救える。そう確信しながら、僕は微笑んで口を開いた。
「一応、聞いておこうか。この中に――ヴァイルを否定する者は、いるかな?」
期待はしていない。けれど、まれに自力で呪縛を断ち切る者がいるから、儀礼として尋ねておく。
「ネブラの悪魔に魂を売った、穢れた売国奴の分際で偉そうな口を叩くなッ!」
村に響き渡る叫びは、空気を震わせるほど鋭かった。思考より先に、僕の手が動いていた。
鈍い音が響き彼は肉塊となった。1人の尊い命が無くなり救えなかった事を悔やむ。けれど、こんなのにはもう慣れてしまった。
「訂正させてくれ。僕は君たちを“殺しに”来たんじゃない。“救いに”来たんだ。……死してなお、悪魔に憑かれたいのか?」
僕の問いかけに、悲鳴は大きくなる。
「せめて子供だけでも!」
「助けて……!」
懇願の声が混ざるたび、僕の胸には慈悲の炎が灯る。
――なんて可哀想な人々なのだろう。
だが安心してほしい。すぐに、ネブラ様の御許に行ける。
確かに禊は苦しい。だがこれは、救済の痛みだ。
この場に彼らを導ける者が他にいないのなら、僕がその役目を果たすだけだ。
僕は一人ずつ、丁寧に火にかけていく。
ああ……心優しきネブラ様。
どうかお赦しください。
彼らがいま上げているこの悲鳴は、罪を悔いる祈りなのです……。
肉の焼ける匂いを嗅ぎながら、僕は最後のひとりの声が消えるまで耳を傾けた。
すべてが終わったあと、僕は三人の従者を連れて、静かに村を後にした。