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第五話 レッツ トライ!

 向かうのは建物とは言っても木造の昔の屋敷みたいなところだ。最近建てられたのだろうか、柱は綺麗で障子も破けていない。中は仕切りがいくつかあって奥には個室もあるみたいだ。


 風車の格さんは個室の方へ歩いていく。舞湖はそれについていった。いつの間にか後ろにはイケメンの弥七が付いてきていた。


「いつから後ろにいたのですか?」


「さっき中村の旦那にお前も付いてくようにと言われやして。水野様をお護りするようにと」


 護衛ってことかな?この服は流石に目立つしどこかで着替えたいけど、あんな浴衣みたいなの着れるかなあ?江戸時代に女子中学生の制服は危険かも。スカートの丈はそんなに短くはないけど足出してる女性は今まで見ていない。すれ違う男に好奇の目線で見られていたのは感じていたから護衛がいるのは助かる。しかも岡っ引きって警察官みたいなものでしょ。


 格さんが個室の部屋の前で止まった。舞湖達も横に立って立ち止まる。


「妙高先生、格でっさあ。診ていただきたいお人を連れて参りました。開けていいですかい?」


「おう、いいぞ。どんなって、こりゃ珍しい。南蛮の方かね?」


 舞湖の服を見て南蛮ときたもんだ。格は驚いて、


「先生は南蛮人を見た事があるんですかい?この人は水野舞湖様です。あっしにはどう見ても日の本の人間にしか見えないのですがね。水野様は記憶が定かでないというので先生に診ていただきたくて連れて参りやした」


 舞湖は黙っているわけにもいかないので挨拶をした。


「水野舞湖と申します。南蛮の人ではないです。日本人です。ただ名前は覚えているのですがどこから来たのかがわからなくて」


「南蛮でないと申すのか。うーむ、その服は西洋の水兵の服と聞いた事があったのでな。そうか、日本人か」


 もしかしてセーラー服と間違えた?これ、ブレザーなんだけど。西洋の服に見えるのはまあその通りだけど、西洋ってわかるんだこのお医者さん。知識はありそうね。


 診察が始まり格は外へ出た。この先生は妙高と呼ばれているが本名ではないそうだ。出身が越後の妙高で上杉家の遠い親戚だが武芸でパッとしなかったので医者になったという。年は50過ぎくらいに見える。妙高先生の話を聞きながら診察は進んでいく。


「脈は正常、肌艶はすこぶるいいな。どう見ても健康そのものだ。普段の食事がいいのだろう。記憶がないというが、どこかぶつけたりした記憶はないかね?」


 記憶がないのに記憶があるかってなんか試されている気がする。でも、この先生なら正直に話しても良さそうだ。ちゃんとしたお医者さんだし、上杉謙信の縁者って言ってたし。いくら舞湖でも流石に信玄と謙信くらいはわかります。父親が大河ドラマ好きなので。本物の岡っ引き見たら何て言うのだろう、あのお父さん。


「実は、私は日本人には間違いありませんが違う日本から来たみたいなんです」


「西国とかかね、もしかして蝦夷とか?」


 そう来るか。ちょっとコケそうになったが冷静に考えればまともな反応だ。いくら教養があっても江戸時代、いや大江戸時代か。どっちでもいいけど異世界転生とかタイプスリップとかわかるはずがない。


 舞湖は何があったかを話し始めた。




 あの日、舞湖は中学校の帰り道に前からの夢を実行すべく神田川へ向かった。この事を知っているのは協力者の芽衣ちゃんだけだ。


「そんな事を考えるなんて。舞湖ちゃん以外いないね」


「だって、御茶ノ水だよ。お茶飲みたくならない?」


「ならない!」


 きっちり否定されました。ただ、芽衣ちゃんは両親とキャンプに行く事があって水を飲む方法を真剣に考えてくれました。


「流石に汚いでしょ。お腹絶対に壊すから濾過はしないと」


「濾過って理科の授業でやった紙かなんか使うやつだ」


「そうだけどあれだと飲み水は厳しいから、ちょっと待ってね。来週までに作ってくる」


 そう言って芽衣ちゃんは自家製の濾過装置を作ってくれた。


「じゃじゃじゃーん!」


「これ、何?」


 ペットボトルに石やら布やら黒い炭みたいなのが積層されている。何じゃこりゃ?


「これが芽衣ちゃん特性濾過装置でございますわよ、オホホホホ」


「そうでございますの、オホホホホ」


 仲良し女子中学生のおふざけ会話の後に芽衣ちゃんは使い方を説明してくれた。布の方から水を入れると綺麗な飲み水が下から出てくるのだそうだ。そういえば浄水場って川や地下の水を飲めるように消毒してくれてるんだっけ。それの簡易版ってことね。


 そして特殊アイテム、芽衣ちゃん特性濾過装置を手にした舞湖は今神田川の辺りに来ている。場所は御茶ノ水と水道橋の中間辺り、釣り竿のような枝にペットボトルをつけて川に放り投げ神田川の水を少しずつ採取していく。何度か繰り返すとお茶一杯分位の水が回収できた。


 濾過装置を通すと濁っていた水が透明になっていく。


「一回通しただけだとまだちょっと飲むのはどうかってくらいね。これはもう一回ね」


 そうして3回濾過した水はあーら不思議。すっかり透明で綺麗な水にへーーんしーーん。これは、これは、そう、飲んでみたい。元々は家に持って帰ってこの水を沸かしてお茶を飲む計画だったんだけど、このまま飲みたくなってしまった。俗にいうつまみ食い?つまみ飲みである。舞湖はその誘惑に勝てなかった。


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