第四十七話 休暇
上様は冷静だった。そして、
「舞湖殿。どうやらこの嵐はお主の発言によるものと思える。京の話をしただけでこのような天変地異は起きたことがない。何か身に覚えはあるか?」
舞湖は首を振った。そんな事を言われても、っという顔をして。秀光はやっと落ち着きを取り戻したようで、そして、
「舞湖。もしかして例の首塚とやらの祟りではあるまいな?」
首塚とは現代でいう大手町にある平将門の首塚の事です。秀光には祟りがあるからぜーーーったいに動かすな、触るな、敬えと言っていました。そして首塚の移動をしたがっていた幕府にやめさせた経緯があります。
「まさか。いつも通る時はお参りしてるし、この間はさっちゃんにもらったお饅頭をお供えもしたし。将門様がお怒りになるなんて。もしかして若様、なんかやらかしました?」
秀光は真っ青な顔をしている。あ、こいつ何かしたな!あーあ、シーラナイ。
「水道管を通すときに地下を掘ったのだがちょっと近くをな。だがそれから何日も経っているぞ。違うな、うんそうだ。きっと違う」
確かにそれくらいで何か起きたらこの大江戸はとっくに滅んでるよね。て事は私が京の話をしたからなのか。でもなんでだろう?
将門様の首は京から飛んできたって言い伝えよね。京に魑魅魍魎とかって言ってたしなんか関係あるのかも。でも他の人が京の話をしても何も起きないのに私がするとダメってどういう事?舞湖は京都へ行った事は無かった。中学三年になれば修学旅行で京都へ行くのが舞湖の中学校の習わしなのですが、その前にこの大江戸に来ちゃったし。そういえば今頃みんなは修学旅行に行ってるのかも。芽衣ちゃん元気かな?あーあ京都行きたい行ってみたい。でも妖怪怖いし無理だよね。
あっという間に嵐は去った。まるで何も無かったかのようだ。舞湖は夕立の強いやつだったのかなと思った。現代っ子はオカルトを信じないのです。学校ではそういうのが好きな男子もいたけど科学的でないので勝手に言ってればと感知しないようにしていました。そもそも私が京の話しただけで天変地異が起こるわけないしね。だが、この時代は祈祷師や占い師が優遇される時代、実際に京には近づけないし将門公の首塚もあるし何が何だかわっかりませーん。魑魅魍魎がいるくらいだからなんでもありなのかもだけど。もしかしたら京には行くな!って誰かが言ってるのかもって誰かって誰よ!舞湖は気を取り直して
「ただの夕立ちだったのではありませんか?深く考え過ぎな気がしますけど」
舞湖が言うと皆は違う違うと首を横に振った。でももう晴れ間が出てきているようだ。外が明るいし。やっぱり現代っ子と大江戸では感覚が違うよね。秀光と遠山がまだ怯えているのを見てあーあと思いつつ、舞湖は冷静だった。
「私の休暇の話でしたよね?」
と話題を戻すと皆が我に返ったように、
『そうだ!』
と全員が同時に答えた。なんか変な夕立のせいでみんなおかしくなってたみたい。オカルトは信じないけど将門様はなんかあると思ってる舞湖だった。実際に将門様の首塚の側を通ると重力が増えたような感覚で身体が重くなる感じを受けるし。現代でいうパワースポットってやつなんだろう。それは科学で証明できるのだろうか?て事はこの世界ではなんかあるのかもだけど怖いのは嫌いなので考えないようにします。
「旅行がしたいです。西はなんか反対されそうなので東へ。九十九里なんかどうですか?」
「刑部岬か。良いだろう、工事の関係者も連れて行くが良い」
上様は疲れたようで簡単に許可して下がっていった。冷静に見えたけど内心ビビってたのかな?ところで刑部岬ってどこ?九十九里の事よね?
「若様、刑部岬って言ってましたよね」
「ん?九十九里の始まりと聞くが。舞妓の言う九十九里の事とは違うのか?」
そうだっけ?多分合ってるよね?舞湖は九十九里の謂れを知らない。ただ海水浴で有名なところという認識だ。
「違いません。大丈夫です。ええと、玉井殿とさっちゃんと弥七さんも連れてっていいですか?」
「余も行くぞ」
遠山が、
「若様、それはちょっと」
と言うと思いっきり拗ねたがお役目があると言うと渋々折れた。玉井も弥七もライバルだと思っている若様は悔しくてしょうがない。舞湖が行きたいのは銚子だった。行った事がないのと利根川の流れ込むところ、今、絶賛工事中の利根川が見たかった。
「遠山様、今川久保様はどこにいますか?」
「埋め立ては俺に任せて常磐川へ向かった。荒川は大体目処がついたのでな。埋め立てには川久保の知恵はなくとも人工さえいればなんとかなる。ん?舞湖は休暇なんだから川久保に合流は許さんぞ」
「合流はしませんよ。観光でそっち方面に行くだけです」
舞湖が自信たっぷりに言うとみんながやれやれという顔をしている。こりゃ止めてもダメだって顔だ。
「なんです?その顔は。皆さん、私の事を信じてませんね?」
秀光が
「そうではない。いいか、身体を休めよ。それだけは守れ」
「はーい」
心配してくれるのはありがたい。翌日から一カ月に休暇に入る舞湖だった。




