第四十四話 開通
半年が過ぎた。舞湖の書いた絵図をもとに大名屋敷が一部取り壊されたと思えば、新しく建てられたりして大江戸中大騒ぎだった。地面を掘らないと水道管は埋められないので邪魔な屋敷は一度壊すしかなかったのです。舞湖は、
「そのまま横にずらせば?」
と秀光に言いましたが、
「できんわ、そんなもん」
と一喝されました。確か道路を広げる工事で家を横にずらすようなやり方があったと思ったのですが大江戸では無理みたいです。水の配管は一部は水道管剥き出しで屋敷内を通り次の屋敷へ通って行きます。かっこよく太い本管があって一軒一軒に分配なんて今はできません。川が水道橋を渡ったところで3つに分岐させて、それがまた要所要所で分岐して大名屋敷内を通過して、町民街へ流れていくのです。水は上から下へ流れる、その高さを維持するために坂の上まで水道橋を上げたのです。改めて考えてみると坂を登らなかったら水は流れていきませんでした。舞湖は知っていたから最初から坂の上まで水を上げられましたが、
「絶対一回失敗してるよね、江戸時代の人」
舞湖は大江戸城で秀光から渡された地図に落書き、ではなくて水道管をどう這わすかのイメージ絵図を描きました。それに秀光と小姓の源太が大名屋敷の配置変えを検討してその結果が既存の屋敷を壊す事になったのです。
水道管の一部はお城を通りそこは井戸になっています。町民街は家の中というわけにはいかないので、ブロック毎に井戸を作っています。
これは上水の話です。生活排水はこの上水に混ぜられては困ります。別に下水管も作っています。一度使った水は各屋敷内に設けられた排水口に流されて下水管を通って流れて河川に注がれるようになっています。
「若様、屋敷の配置ですが」
「舞湖、わかっておる。其方のいう通りにしたぞ」
水の管理、それが一番のポイントです。水道橋までは監視人によって管理できるようにしていきます。その教育もしています。そこから先は大名に管理させるのです。上流の方が水を自由に使えるという利点があります。それに上流の方が綺麗な水だと感じるでしょうから当然のように、力のある大名が上流に屋敷が欲しくなります。舞湖は秀光に上流の屋敷ほど管理を厳しくさせるように頼んだのです。
「上水と下水の切り分け、そして屋敷内での水の管理。水道橋に近い方がより厳しい管理がいると強く言い渡してある」
「ペナルティじゃない罰則を設けて下さい。それと水代官を置いて常時監視をお願いします」
上水だけではない。下水も状態を見ておかないといけない。ゴミの混入、詰まりなんかは予想ができるが人の行動は予想ができない。お父さんが言うには、人は勝手な行動をする生き物だそうだ。ルールがあれば守るがルールがないとなんでこんな事するのか理解できない行動をするらしい。
「罰を与えるということか。確かに必要だ。早速水代官を含め手配しよう」
最近の若様は一皮剥けたみたいに反応が良くなった。なんか玉井殿も動きが良くなったしいい事だ。その玉井は今、水の監視員教育に忙しい。
監視員、そう名付けた水の見張り役の仕事は多い。江戸川橋では神田川と神田上水に水を分けるのが仕事だ。上水には木の葉やゴミが落ちないように掃除も役目になっている。そこから小石川後楽園になるであろう水戸のお屋敷を出るまでは開渠になっている。水戸のお屋敷にも監視員はいてここでも溜池と神田上水の振り分けとゴミ取りがお役目だ。溜池はもしもの場合の貯水池の役目も持っている。水戸のお屋敷を出て壱岐坂と呼ばれる坂の下からは暗渠になる。
暗渠は弥七が工事監督になっていて気合いが入りまくっていました。舞湖を見つけたのは弥七です。それなのに最近は舞妓が若様と一緒にいる事が多いのでなんとなく気持ちが悪いのです。こういう時は仕事に没頭するしかありません。それに、舞湖から
「若様の水道管と弥七さんの暗渠、どっちが早いかしらね?」
なんて言われてしまって絶対に負けられない戦いになっています。暗渠は全て石造りです。各地から集められた石を繋いで地下水道を作っています。水戸のお屋敷から暗渠になる手前は木の葉除去の網が設けられています。網は三重になっていて一枚掃除に取り外しても次の網は活きているので、網の掃除、交換もやりやすくなっています。
暗渠の出口、水道橋にも網が設けられていてここにも監視員が常時付きます。そして舞湖の秘密兵器もここに配備されています。秘密兵器は伊達家の鈴木宗矩が担当しています。そして暗渠から水道橋までの工事が完了しました。その翌日、秀光の方の工事も完成しました。弥七は影でガッツポーズをしています。ガッツポーズは舞湖がたまにするので密かに広まっているのです。
「よっしゃー!」
舞湖は工事が終わったと聞いてガッツポーズです。それを真似して鈴木、中村、玉井もガッツポーズをしています。
「じゃあ弥七さん、水戸様のお屋敷から暗渠に水を流して下さい。鈴木殿は例のやつの準備をお願いします」
そしてついに神田上水の開通です。




