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水の道  博士ちゃんJCが迷い込んだ大江戸で水を持ってくる物語  作者: Kくぼ


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第三十三話 御茶ノ水

 徳川秀光。徳川秀長の嫡男であり、次期将軍になる事が決まっている男だ。最近15歳になった。そう、舞湖と同い年なのです。大江戸を発展させる事が徳川将軍家の責務であり、現将軍の家長から責任者として任命されています。


 つい最近まではやる事は物凄く多いですが自分で手を汚す事はなく、下にやれっと言うだけで良かったのです。それでいいと教わり実際にそうしていました。利根川の移動、海の埋め立て、塩の確保、商人の招聘、水運の活用、住民の増加、そして飲み水の確保と担当を決めて実施させています。失敗した時に秀光のせいにして失脚というわけにはいきません。なんせ決まった跡取りですので成功すればさすが次期将軍、失敗したら担当の責任にして首を取り替えるという仕組みができていました。そういうと汚い作戦に見えますが、現代の一般企業でも良くある話です。


 ところが水野舞湖という女が突然現れて、飲み水の確保に係る事になってから調子が狂いっぱなしです。水野舞湖はやる事が早いのです。以前担当していた水奉行はやる事が遅いので左遷しましたが今度のは早すぎるのです。次から次へと計画を出してきて資源を要求します。しかも遅いと怒り仕事ができない男は価値がないとまで言います。それを直接秀光に向かって言うのです。


 そんな事を言われた事はありませんでした。生まれた時から次期将軍になる事が約束されていて、そういう教育を受けてきました。周りにいる人達は秀光が何をやっても肯定し誉めるのです。秀光を怒るのは父である秀長だけでした。それが当たり前になっていた秀光にとって舞湖は新鮮でした。年も近く結構可愛くて最高のお気に入りになっています。秀光の周囲ではぼちぼちお相手を探さなければという動きが出ています。この時代、15歳での結婚は珍しいものではありません。秀光は思春期男性として女性に興味はありますし、お手つきしてもいい女中をあてがわれてもいます。秀長は愛妻家で、妾は一人しかいません。その影響か秀光も手を出してはいませんでした。それも周囲の人達からすると不安でさっさと子を作れ!と思っています。


 秀光は舞湖が好きなのか自分でもわかりませんでした。気になるし、もっと話をしたいと思っています。ただ自分の立場では簡単に会いに行く事はできません。それで城内に住まわせる事にしたのですが、舞湖は朝早く出かけて行って夜まで戻ってきません。秀光もお役目が沢山ありせっかく近くにいるのに会うことがありませんでした。


 なんとか時間を作って監視所に行くとそこに仕事で忙しそうな舞湖がいました。


「何しに来たの?邪魔なんだけど」


 などと言われた事のない罵声を浴びせてきます。なんかそれが気持ちいいのです。ですが、こちらにも立場というものがありますし、資源を用意しているには秀光なのです。もうちょっと言い方ってものがある気もしています。他の者に言われたら手討ちにしているような事も舞湖だとなんかいいかな、になってしまっています。


 ちょうど出してくれたお茶が美味しく感じました。舞湖の対応で口が乾いていたのですより美味しく感じたのです。中村という同心と共にお茶用の水を汲んだ井戸を見に行きました。


 中村は緊張して若干震えながら、


「秀光様。こちらがお茶の水を汲んだ井戸でございます」


「ここか。監視所のすぐ裏ではないか。ここは神田山でいいのか?」


「はい。神田山と湯島台の境になります」


 秀光はある案件を思い出した。ここがちょうどいい気がする。


「監視所へ戻る。まだ舞湖はいるな」




 監視所へ戻ると舞湖は打ち合わせ中でした。邪魔すると本当に邪魔と言われそうなので中村と世間話をして待ちました。そこに風車の格さんと弥七が揃ってやってきて、


「旦那、そちらのお方はどなたですかい?」


 と軽く聞いて、答えを聞いていきなり土下座するという事件がありましたが秀光は、


「ここに来ている時は畏まらなくていい。舞湖の友人くらいに思ってくれて構わん」


 と言い、この2人も交えて世間話を続けます。皆が今の大江戸をどう思っているか、工事での困り事など秀光にとって今まで気にしてこなかった話はすごく刺激になりました。民があっての将軍なのです。また機会があったら話を聞かせて欲しいと秀光の方から頼まれて、皆固まっています。だって話する事すらあり得ない、雲の上のようなお人なのです。


 舞湖の打ち合わせが終わったようで、田村、鈴木と共に会議室から出てきました。舞湖は秀光を見て、


「まだいたの?仕事はいいの?」


「それが今やろうとしている案件が進展したのだ。中村のおかげでな」


 中村は震え上がって直立不動だ。おいらなんかしたっけ?という感じです冷や汗が出ている。舞湖は


「中村の旦那は真面目で確実にいい仕事するお人ですから。仕事のできる男は格好いいのです。あげませんよ、大事な人なんですから」


「今、ここにいる者達と話をしていたのだが、舞湖、お前は人材に恵まれているな。今日ここに来て良かった」


 舞湖は格さんと弥七を見て、むっちゃ緊張してんじゃん。可哀想に、と思い


「若様はそうでもうちの人達は困ってますよ。若様みたいな偉い人とどう接していいかわかんないでしょうよ」


 もう来ないで、暗に言ったがわかってもらえなかった。


「舞湖の友達として話していいと言ったぞ」


「いつ友達になったんですか?それに次期将軍様なんでしょ!友達に思えるわけないじゃん」


「そうか。格、弥七、すまなかった。また機会があれば今日のような話を聞かせて欲しいのだが舞湖の許可を取ってからにする。仕事に励め」


 格と弥七は名前を覚えてもらったと目から涙が溢れ出ている。舞湖は邪魔しに来ただけとしか思ってないけど。


「で、中村の旦那が何をしたの」


 秀光は、そうであったと思い出し、


「この場所を御茶ノ水と名づける。以降そう呼ぶように」


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