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水の道  博士ちゃんJCが迷い込んだ大江戸で水を持ってくる物語  作者: Kくぼ


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第二十九話 舞湖の目標

 あの後、伊達家から来た10名の指揮官の担当場所を決めて、後からやって来た50人の人夫を割り当てました。舞湖は川久保、玉井、中村、そして伊達家の鈴木と毎日会議をしています。この4人は毎日早朝から工事の状況を確認してから昼に監視所に集合し報告をし合っています。50人の人夫はまず神田山の切削工事に集中させました。途中で湧水が出たりしましたが幅3m高さ18mの堀が出来つつあります。最終的には幅をもっと広げたいのですが最初はこんな物でしょう。だって聖橋から見た神田川って広いですよね。最後はああならないとですが、あんなに広くても流す水が無かったら何の意味もないのです。


 遠山のお奉行様に頼んでいた日本橋川は完成し小石川の下流は小川町から日本橋の方へ曲がり大川と呼ばれている隅田川へ流れるようになりました。神田山から出た土は日比谷入江の埋め立てに使われ、余った土は八丁堀東側の運河の作成に使われています。


「もっと土を持って来てくれ。いくらあっても足らない」


 遠山の銀さんからは土の催促がきますがこっちも人手が足りているわけではないので無い袖は振れません。丁度利根川の工事が進み江戸川の水が減り、荒川の移動も進んでいて大川こと隅田川に流れる水量も減りました。この一帯はほぼ湿地で川の氾濫も酷く、人が住める環境ではありませんでした。川の移動が進み埋め立てを始めているのです。遠山の銀さんはこの川の周辺に小さな川を張り巡らし運河というか水路にしようとしています。大江戸湾に入って来た物資をこの水路を使って運ぶ構想です。水路沿いには倉庫を作って市場を開くようにする予定です。荷物を上げる場所、船着場ですが河岸と呼ぶそうです。これらの話は大江戸城で舞湖が上様と銀さんに話をした結果、それはいいということになって決定された物です。


 とはいえ水のコントロールは難しく、雨が降れば増水し雨が少ないと川が枯れて船が通れません。その対策もアドバイスはしてありますがどうなる事か。舞湖はそっちに構っている余裕はないのです。


 神田川の工事が遅れているので大江戸の水不足が騒ぎになって来ました。人口は増え続けています。商人は幕府推進の水路開発の話を聞いて金儲けのネタだと下見に来ていますし、それにより奉公人、食べ物屋、町人と連鎖して人が集まって来ています。舞湖は水不足の一時的解消のために溜池の水を城下へ運ぶように奉行所へ進言しました。水売りが出ないように取り締まりもお願いしています。小石川の水量が増した事で溜池は貯水池の役目をしているのです。溜池を最初に作ったのは神田川が手こずると予想していたので貯水池として使うためと、逆サイホンの実験用です。舞湖は逆サイホンの実験のために溜池の底近くに水路を作っていました。工事を担当した中村の旦那と弥七は、


「こんなところに水路を作ってどうするのですか?」


 水路とは言っても工事をする人から見れば山の横穴を空けているだけにしか見えません。トンネル工事のような物です。正確に言えば地下水路でしょうか。


「実験です。ただ実験とは言ってももしかしたら上手くいくかもしれないので失敗しても次に活かせるように作ります。失敗は成功のもとって言いますよね?」


 2人はキョトンとしています。大江戸時代にそんな格言はありません。現代の丸の内線の後楽園駅近くに作った溜池から南側に掘られた横穴、それはこの時代の水道管の実験でした。横穴は滑落防止に石を積み上げ側面と上部を補強しています。その横穴はそのまま小石川に沿って進み神田川の工事現場の手前200mのところまで掘られました。そしてその終点には縦穴が掘られています。


 これは水道管を地下に埋めるという実験も兼ねていました。地下に水道管を這わして街中では井戸で汲み上げるのです。


 溜池には深さ5m程の水が溜まっています。舞湖と弥七は縦穴のところに来ています。


「弥七さん、中を覗いてみて」


「へい、舞湖様」


 弥七は舞湖様と呼ぶようになっています。水野様はなんか堅っ苦しいので名前で呼ぶように言ったら多くの人が舞湖様と呼ぶようになりました。様はいらないって言ったのですが上様とお話ができるような人だという話が工事人夫にも広まっていて偉い人だと思われているのです。


 弥七は竪穴の中を覗きました。すぐ近くまで水が見えます。


「舞湖様、水が見えます。縦穴を登ってきているように見えます」


「良し!これを使えば水道橋は実現できるわね。誰が考えたんだろう、こんなの」


 逆サイホンの実験は成功です。ただ舞湖がこの世界に来なくても同じ原理を利用して江戸時代に水道橋はできていました。川久保信春は実験をしていましたし、舞湖がいなくてもいずれ実現できたのでしょう。ただ舞湖は折角ここに来たのだからもっと早く実現したいと思っていました。本当にやりたいのは玉川上水なのですから。



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