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水の道  博士ちゃんJCが迷い込んだ大江戸で水を持ってくる物語  作者: Kくぼ


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第二十八話 逆サイホン

 湯島の監視所を出ると神田山を削って出て来た土を人夫が運んでいるのが見えました。鈴木がまた手を挙げます。舞湖は、


「はいどうぞ、鈴木さん」


「あの土はどうするのですか?」


「あれは伊達様の屋敷の近くに運びます。日比谷の入江を埋め立ててますよね。そこで使うのです」


 今、大江戸は海を埋め立て土地を増やしています。八丁堀ができましたがまだ日比谷側も東側も川が流れ込んでいて人が大勢住めるようにはなっていません。舞湖は小石川を小川町から曲げて日比谷入江ではなく大川へ繋ぐ工事を並行で行っていました。それがだいぶ進んだので日比谷の埋め立てができるようになったのです。この曲げた川を日本橋川と名付けました。そうです、現代日本の日本橋、国道の出発点で有名なあの日本橋の下を流れている川、それが日本橋川です。舞湖は日本橋には興味がなかったのですが、なんか地図を見たらそれっぽかったので半分まあいいやって感じで名付けました。


「上様にこの間お会いした時に聞いたのですが、埋め立ては遠山様が担当されるそうで土はいくらあってもいいから運んでくれと言われています。八丁堀から東は昔の京都の街の道路みたいに運河を作って水運を活かせるようにしたいんだそうです」


 そういえば潮見とか木場とかって駅があったような。海だったとか木の倉庫があったとかの名残なんだろうな、名前には意味があるって言ってたし。築地の魚市場もこの頃からあったりして。さて、質問をした鈴木は回答に納得したようです。そのまま皆で坂を降りて小石川に向かいます。溜池の場所は小石川医療所の後ろ側、舞湖の世界での丸の内線の水道橋駅あたりです。ここに小石川の水を一部流して溜めるのです。


 一行が着くとすでに水門は空いていて小石川の水が溜池に向かって流れていました。ちょうど昨日雨が降って川の水が増えていた事もあって水は溜池に流れていきます。舞湖は小石川の源泉である湧水溢れる池からの川の流路を昔地図に沿って歩いたように変更していました。要村の洪水を防止するために土手を高くし、水を他所へ漏らさずにここまで持って来るためです。この工事に人を割いていたので神田山を削る工事が遅れていて、それはさらに井の頭公園からの川の整備の遅れにも繋がっています。


「おおお」


 溜池に水が溜まっていく様子を見た伊達家の者達は声を上げました。思っていたより溜池が大きかったようです。ここに溜池を作った理由を改めて舞湖が説明を始めました。


「これで日比谷入江に流れる水が減るので埋め立て工事はやりやすくなります」


 本当は日比谷入江付近の水を枯らせて川の流れを変えたかったのです。小石川は神田山の大地で一度消えて、駿河台からの湧水として復活、小川町を通って日比谷入江に流れています。ただ小川町の辺りまでは飲み水として使えるので完全に枯らすのは付近の住民から苦情がくると思って溜池にし、ここから少しずつ供給する事を考えたのです。


「ただ、この溜池の目的は別にあります。ここの高さは12m、上手くいけば水道橋が実現できるのですが、多分ダメですね。あーあ、予想通りになっちゃった。あかん、これはアカンのです」


 舞湖の訳のわからない独り言に誰もついていけません。一人を除いて。そう川久保信春だけは意味を理解していました。


「舞湖。水の高さが足りない。小石川の水位と標高ではこの溜池に水を入れても高さが届かない。だから例の原理を使っても坂の上には届かない。そういう事だろう?」


「川久保様。その通りです。一応実験はここでやってみますけどね」


 本当はここから地下を通って中学校の理科の実験でやったサイホンだったかな?の原理で坂の上まで水の高さを上げたいのです。そうすればこの溜池に水を集めれば解決なのですが普通の流路では水は低いところか高いところへは流れません。この溜池に流れている水は池を深く掘って、低いところに堀を作ったから流れているだけでした。つまりただの溜池の役割しかしないということになります。


実際水の高さがある程度まで上がったところで水の侵入が止まりました。まあ予想通りなので仕方ないですね。


「わかってはいたけど、本当に水は流れないのね。まあ、埋め立てには貢献できるからいいとしましょう。中村様、このまま水を溜めておいてください。皆さん、それでは江戸川橋へ行きましょう」


 舞湖は頭を切り替えて次の場所へ向かいました。江戸川橋、現代でも有楽町線の駅もある神田川の橋です。ちなみに伊達家の人達は江戸川橋というのを知りません。舞湖が地図でここが江戸川橋というのでフウンと思っているだけです。だって江戸川なんて川はないし、江戸川橋という橋もないのですから。


 江戸川橋と呼ばれるところに皆が到着しました。そこには細い川がありました。下流から遡って来たのですが、途中から川に水が流れるようになっていました。下流では水量が少なく地面に吸収されているようです。舞湖の説明だとこれが神田山からの湧水の元で平川になっているとの事でした。舞湖はさらに上流に向かって歩いていきます。


「ここね」


 舞湖はある地点で立ち止まりました。


 舞湖が実現したいのは逆サイホンの原理です。U字菅の片方から水を入れると左右同じ高さになるあれです。その原理を使えば何度も訪れたあの神田川にあったとされる水道橋の位置、わざわざ坂の上まで水を上げたあの位置に水をあげる事が出来るはずです。

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