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第十二話 谷端川を歩く

 もう一度池を眺めた後、神社から出ようとした時に石版が立っているのに気がつきました。


「芽衣ちゃん、ちょっと待って。ここになんか説明みたいのが書いてある」


 石版には、こう記してあった。


『注昔、ここは清水の涌出する静謐の地であった。泉は溢れ川となってこの地を潤し、のちに谷端川の源泉ともなった。静泉をめぐって樹木が鬱蒼と茂り、神韻の地として畏敬された』


「ねえ、芽衣ちゃん。私、読めない字がある」


「えっ、奇遇だね。私も」


「でも何となくわかるね。水が溢れて川となって木が生えて神社になったってことかな?」


「うん、舞湖ちゃんあったまいい」


 少し違うが良しとして続きも書いてあったので、続けて読んだ。


『口承によれば鎌倉の末期頃から罔象女神(水の神)が祀られいつか弁天様として地元民に親しまれるようになった。江戸の頃から大正末期まで早天の折 雨乞祈願の聖地となり蒼々靈驗を得て五穀豊穣の信仰を集めるようになり ここからまた悪疫退散の信仰を生み出していった』


 舞湖は読んでいて何かが頭に入っていくような感じを受けていた。芽衣ちゃんはただただ石版を読んでいる。そして、


「なんか凄いところみたい」


 読んで感動しているようだった。それから話を続けた。


「何で私達ここにいるんだっけ?ここって都内ですよね?すぐそこに地下鉄の駅があって」


「そう。探検再開しましょう。ここからは川に沿って歩きましょう」


「うん、って川なんかないですわよ、奥様。水はそこで止まってるし。暗渠ってもうここから始まってるの?」


「この神社の正面の道、この下を川が流れています」


「うっそー!」


 芽衣ちゃんがそう言うのもわかります。だって目の前は車がすれ違うことができる程度の道幅の、ごく普通の道路です。両側には住宅が建ち並び、ここが川の上だなんて信じられません。


「本当にこの下を川が流れてるの?」


「うーん、もしかしたら過去形かも。でも川があったのは間違いないわよ。さっきの石版にも書いてあったではないですか。溢れるくらいの水が川になったって」


 2人は道を歩き始めました。少し歩くと商店街になったようでパン屋さんからいい匂いがしてきます。その向こうに踏切が見えました。駅があるようです。踏切が降りて電車が通過して行きます。


「あの電車は何?」


「ええとね、西武線の椎名町っていう駅。川はあの踏切を渡ってる」


「!!!! 川が踏切を渡るのね。もう何でもありね」


 そういう表現をすると確かに何でもありに聞こえます。実際は昔は電車なんて無かったのです。踏切を渡ると公園がありました。芽衣ちゃんは、


「この公園を川が通っているの?」


 地図を見るとここで川が左に曲がっています。線路に沿って。どういう事?舞湖は芽衣ちゃんに説明して左に曲がりました。少しして今度は来た方向へ北上します。ほぼUターンです。芽衣ちゃんは


「何で?」


 と聞きますがわかりません。多分こっち側が低いのかだと思うのですが歩いてみてもよくわかりませんでした。現在の舗装路でこれ以上突き止めるのは無理そうです。しばらく歩くと大通りに出ました。そしてまた駅があります。


「要町、さっき通った駅だ。地下鉄の駅を一つ戻ってきた」


「川の流れは気まぐれね」


 芽衣ちゃんは面白い事を言います。舞湖は


「何じゃそりゃ」


 と答えましたが芽衣ちゃんは


「だって地図覗いたけどこのまま池袋に行かないで北上してる。池袋へ行ったほうが小石川が近いのに」


 確かにそうです。こんなに蛇行しなくても、と池袋方面を見ると緩い上り坂になっていました。舞湖は閃きます。


「ここは低くてあっちが高いんだ。川は低いところを畝って進んでるみたいだよ。高低差の地図があればすぐにわかるのに」


「そんな地図売ってるの?」


「わからないけど、図書館にあるかなあ」


 2人は小さな公園があったので一時休憩をして持ってきたお菓子を食べながら水筒の麦茶を飲んでいます。


「結構歩いたね。あとどれくらい?」


「まだ四分の一くらい。なかなかの冒険だね」


「マジっすか。これは厳しい。でも最後まで行くんでしょ」


 芽衣ちゃんの問いに舞湖は大きく頷きました。中一の体力は無限大です。エネルギー充填100%、出発です。大通りの横の細い道を北上して行きます。谷端川南緑道と書いてあります。やっぱりここに川があったのか暗渠かどっちかです。歩いていくと谷端川北緑道に変わりました。


「あった、駅だ。下板橋駅だって」


 舞湖は芽衣ちゃんの喜び方が嬉しく、改めて地図を見ます。


「げっ、ここで四分の一くらいでした」


「ウッソでしょ!ゲロゲロですよそれは」


「行けるとこまで行きましょう。お互いどっちかがギブアップしたらそこで」


「ラジャー!」


 その後、板橋駅を通過したところで川は南下し始めます。つまり台地と台地の境目がここにあるというわけです。みてもイマイチわからないけど。地図を見るとここから大塚駅に向かって川は流れて小石川植物園の横を通って東京ドームを通って神田川へ流れ込んでゴールですが、結局巣鴨新田まで歩いて2人ともギブアップしました。







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