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第十話 娘

 山手線の外の地図はなかった。正確には山手線ではなく大体そこらへんという意味です。奉行所へ行けば大まかな地図はあるそうなのですが、舞湖が見たいのは水源でした。まずは小石川です。舞湖の知識では小石川は上流が谷端川と言って確か水源はお寺の池のはずです。以前お友達の芽衣ちゃんと行ってみた事があります。この世界も同じなのか?まずはそれを確かめたいと思いました。


「川久保様。小石川の上流を調べさせてください。それと人は集められますか?」


「川がどこから来ているかを調べるのなら岡っ引きの格をつけよう。私も地図より先へ行ってみた事があるのだが、途中で諦めた」


「なぜですか?」


「この川はここまで来ている。ならば他の水源を探した方がいいと考えたのだ」


 なるほど、それはそうだと思う。でも見つけてないよね?


「なるほど。それでどこか水源に当てはあるのですか?」


「荒川という川がある。年中氾濫するほど荒れるので荒川というのだがここを何とかしたいと考えている」


 この時代の荒川って隅田川の事だったかな?入間川の下流が隅田川なのはいつからだっけ?あれ?何で覚えてないかな私。隅田川なら花火とか……、あるわけなかった。それはともかく荒川の流れを変えたというのは本で読んだけどこの人だったのか?でも水源とは違う話のように感じるのは気のせい?


「それは大工事ですよね。間に合うのですか?」


「それを言われると辛い。だが、川を近くまで持ってこれれば水不足は解消できる」


 この時代の隅田川こと荒川は亀戸の辺りで海に注いでいました。何本かの支流の川があって大川とも呼ばれています。海に近いところの水は海水が混ざって飲むことはできません。記憶では大川の水は飲み水としてはいないはずです。


「水不足より氾濫対策ですよ、それは。それも大事ですがまずはスピード、じゃない早くしないと」


「それはわかっておる。さっき人を集めろと言わなかったか?何に使うつもりなのだ?」


「ダム、じゃない溜池を作ろうと思います。そのために水源を知りたいのです」


 小石川の水は細かった。村山貯水池みたいに大きいのは無理だろうけど、不忍池くらいなら。何にせよこんな平面図じゃわからない。まずは調べるしかない。


「溜池はわしも考えたが場所がない。それよりも水が少ない。どうするつもりだ?」


「少し時間をください。あと、炭と木屑、小石、布と竹筒が欲しいのですが」


「どうするのか」


 さっきからどうするしか言わないな、川久保様は。舞湖は会話に疲れてきた。


「お任せあれ、風車の格さんと絵を描ける人を付けてください。揃うまで少し出掛けてきます」


「わしも付いて行く。舞湖に何かあるとわしが奉行に怒られる」




 舞湖は不忍池に来ています。竹筒に炭、小石、木屑、布を入れ池の水を濾過します。それをジーーっと川久保が見ています。


「これは何をしているのだ?」


「水をきれいにしています。この池の水は濁っていて仮に塩が混ざってなくても汚くて飲めません。これに入れると水をきれいにできるのです」


「なんと!そんな事が!」


 舞湖が作ったのはお友達の芽衣ちゃんに教わったキャンプで使う濾過装置でした。この世界に来るきっかけにもなった神田川の水を綺麗にした例の濾過装置です。それを使って何回か濾過するうちに水が透明になりました。


「さっすが芽衣ちゃん。大江戸でもなんともないぜ!」


 川久保は舞湖の発言に反応します。


「芽衣ちゃんというのは一体?」


「すいません。父親の変な口癖をつい真似てしまいました。気にしないでください」


 一回言ってみただけだったのです。それは置いておいて、舞湖は試しにその水を舐めてみました。


「ありゃありゃ、やっぱり飲めないや。でも濾過装置は使える」


 しょっぱーいのです。元は海水で、地殻変動で池になり、後は雨水が溜まってできた池という予想は当たっていたようです。地下から海水が混ざった水が出ている可能性もありますが、飲めないのには変わりはありません。


 ここがもう海水モードだとすると湯島台から低いところの水は当てにならないと思っていいでしょう。つまり水不足解消には遠くの水を引くしかなさそうです。川久保は水を濾過するという仕組みを理解しようと舞湖から濾過装置一式を分取って


「舞湖、これは一体どういう仕組みだ?何で濁った水が綺麗になる?」


 無茶苦茶興奮しています。川久保はこの時代では幕府の中でも有識者なのですが、舞湖のもたらす物は驚くことしかなくて自分でもわけがわからなくなっています。


「汚れや毒素を吸着するのですよ。この仕組みをいずれ使う時が来ると思っています」


 川久保は自分で何度か水を濾過して遊んで、もとい、実験を始めました。舞湖は帰りますよ、と声をかけて先に屋敷に戻りました。


 川久保の屋敷に戻ると風車の格さんが5人連れてきて待っていました。一人は女の子というか同い年くらいの女性です。


「水野様、仰せにより参りました。力作業用に3人、絵師が1人、それとこいつはあっしの娘です。水野様のお世話係にいいと思いやして連れてきました」


 格さんの娘かあ。名前は幸と言うそうだ。幸せなるといいなあ、なんておっさんみたいな事を考える舞湖だった。

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