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3-24 グーンマ群魔で高収入♫  異世界グンマでアルバイト♫

関東最北端フカヤ大学にようこそ、新入生諸君!


サークルは決まったかい?

先輩の情報がないと、地雷講師の授業で成績表がキズモノになっちゃうゾ?


ほう、グンマに越境稼ぎしたい。

学生課も、条件つきでOKしてるから、とめないけどさァ。


んじゃ唐突で恐縮だけど、グンマでNGなアルバイト

ワースト・スリぃー!


ひとーつ


イオンモール太田~!

広くて出られない!

古墳をダンジョンコアに自己増殖をはじめて、

近隣商業施設を吸収して、日本最大の迷宮に進化中!


ふたーつ


かるた工場ーっ。

原材料がやばい!

これ以上は、あたしのサークルに入ってから!


みっつー


勇者ッ。勇者ヤバイ。


あたし、バイト中に大ケガして、聖剣を返してない。

勇者やるなら、魔王軍の幹部以上と闘っちゃダメ!


あと、この物語に登場する人物・団体・地域は全てフィクションだ。

実在したエチオピアの王国とは関係ないからね!

 埼玉県の最北端にある、名物私立大学「フカヤ大学」。

 ここの学バス用ターミナルで待っていると、深夜零時にあやしいマイクロバスがやってくる。

 異郷グンマへの、唯一の入国手段だ。

「学生証、持ってるよね」

 先輩の問いかけに、ぼくは緊張を隠せないまま、うなずく。

「たとえ生き別れになっても、首から下げたその学生証が、あたしたちを巡り合わせてくれるさ」

「唐突の捨て子再会譚! 不安をしかない!」

 生まれて初めてのアルバイト先が、よりによって暗黒大陸グンマ、陸の孤島グンマとは……。

「大陸なのか、孤島なのか、統一したほうがいいよ」

「しれっと男心を読まないでください」

 フカヤ大学には、こういうスペシャルな人が多い。

 ふつうの子が大学で異能に覚醒して、世界的なアスリートやクリエイターたちと肩を並べるのだ。

「こいつぁまさに変態の宝石箱!」

「大粒ネックレスが自己紹介してる……」


 いよいよバスが利根川を越えようと大橋をのぼっていくとき、ぼくは遠ざかる埼玉を振り返った。

 土地を持てあました大学にあるのは、サッカーや野球などのメジャーな部活の施設だけではない。

 サバゲーからレスキュー訓練までできるタワーつき廃墟。

 戦前戦後の世界中のマンガやラノベをそろえたバベルの図書館。

 尊者、福者、聖人をあまた輩出している地下墳墓。

 陸サーファー競技会、エアギター選手権が開催されるニセモノ市。

 ドイツ人技師が、海なし県で塩の生産指導をするミヒャエル塩田――


「でも施設だけでは人は育たない。覚醒した子の共通点はわかっているよね」

 グンマだ。

 まさにいま、バイト研の歓迎イベントと称してぼくが拉致されているバスの行先だ。

「その通り」

 グンマで働いた学生は、大確率で何かを見つけるのだ。

「そこへ行けば、どんな夢もかなうというグンダーラ」

「それ天竺(てんじく)ちがう。岩宿(いわじゅく)

「ちなみに『クンダーラ』とは、梵語で螺旋のことらしいが、やはりグンマの曹源寺というお寺の螺旋階段を歩いていると、あらゆる未来が見えてくるそうだよ」

 二年のこの女性は、実際に見てきたようにグンマ知識を披露する。

「その階段占いで、日本の政治・経済を支配してきたのがグンマさ。江戸時代に生糸の組合を結成したら、ヨーロッパのカイコの病気で大もうけ。歴代の総理大臣を多数送り出して、日本を裏から操ってもいた」

「でも『平成の大合併』で独立&鎖国してからは、国政への関与がなくなったんですよね」

 いったいどんなお告げがあったんだろう。

「知ってるかい。その寺の裏鬼門にあたる南西には、御荷鉾山って霊山がある」

「あ、『グンマのエクスカリバー』が刺さってるってウワサの」

 Googleの衛星写真で時々ネタにあがるやつだ。

「実在するんだよ。笑っちゃうほど大きな剣が」

 しみじみと語り始める。

「県外の人は実物を知らない。その剣が置かれてから、グンマは県境を結界で閉ざしたんだ」


 バスが止まると、そこは食堂と宿とホームセンターとハローワークが悪魔合体したようなカオスな施設だった。

「先輩、売店でエクスカリバー売ってます! 全部買い占めていいですか」

「そんなのあたしの家に……げふんげふん。こらこら、グンマで買ったものは持ち出し禁止だ」

 そうだった。

 石ころ一本、虫一匹でも、帰りの検疫で没収。

 持ち帰っていいのは獲得スキルと思い出だけなのだ。


「はいはい、はしゃぐのはカードを引いて仕事を決めてからですよ~」

 受付のお姉さんが、はしゃぐぼくを手招きして、分厚い紙の束を示す。

 深く考えずに一番上を手にとった。


   【と】特産の 嬬恋(つまごい)キャベツ 日本一


「嬬恋村のキャベツ警備ですね~」

「待て待て」先輩が割って入った。

「上毛かるたに嬬恋の札はないぞ」

「嬬恋かるたも混ざってるんです。上毛かるたは新しめの産業がなくって」

「なんてこった。よりによって嬬恋……」

 なんか、すみません。

「こちらは封緘作業書。もし光ったら開けてください~」

「それは追加のバイト代が出るのかな?」

「日給ですから~。でも内容によっては、スキルが余分にもらえますよ」


 食堂で焼きまんじゅうを食べたあと、ぼくらは貨物列車に揺られて嬬恋にたどりついた。

 月明かりが一面のキャベツ畑を照らして美しい。

「嬬恋のキャベツは夏の風物詩だとグンマ概論の授業で聞いたんですが、春でも見られるんですね」

「県内観光客向けの見せキャベツさ。畑の凍土が溶けるまで苗を植えられないから、貯蔵しておいた昨年のキャベツを、風穴から追い立ててるんだ」

「そんなヒツジじゃあるまいし……って、わ、動いてますよ!?」

「嬬恋のキャベツは、自走式なんだ。野菜が値上がりすると、よく盗難がニュースになるだろう。嬬恋は逆で、地主の圧政に耐えかねたキャベツが逃散するから、価格が高騰するんだ」

 グンマのキャベツの九割がこの村での生産というから、わりと大ごとらしい。

「ぼくらの仕事って、あのキャベツの逃亡を阻止するとか」

「指示書では、外敵を追い払えとあるね。現場責任者は……」


 どすーん。どすーん。


 先輩が言い終わらないうちに、地響きが聞こえてきた。

 その方向を見やると、月光に浮かびあがってきたのは……なんと、木彫りの巨大こけしだった!


「こっ、こけーっ!」

「こらこら闘鶏じゃない。闘こけしだ。創作こけしと闘こけしはグンマの伝統だろう」

「はじめて聞きましたよ闘こけしなんて!」

「化粧まわしを見るかぎり、あれは昨年のチャンピオン上泉信綱だな」

「こけしに剣聖の名前つけるな!」

「毎年、五月の三~四日に開催する闘こけし『フィギュアぶんどど』は、世界中から投票が集まる」

「今日じゃないですか!」

「祭りのパレードを装って、近くまで練り歩いてきたこけしが、その余勢で嬬恋を襲う……。これは伊香保温泉の得意戦術だな」

「草津温泉のライバルの!?」

 どちらも鎖国前のグンマを代表する温泉地で、いまでもラノベやアニメのサービスシーンでは、この土地をもじった温泉が登場する。

「この嬬恋村は、ヤマトタケル東征の折より草津温泉の属領。その永遠のライバルである伊香保温泉が、目の敵にするわけだね」


 照明車のサーチライトが、こけしを照らし出す。

 村役場の方からサイレンが聞こえはじめ、原付の集団が続々とキャベツ畑に乗り付ける。

「やあ、村長。伊香保が攻めてきたよだね」

 先輩は、年配の男性に気さくに話しかける。

「おお、元勇者どの! 嬬恋のキャベツはお蚕様の貴重なドーピング飼料じゃ。なんとしても死守せねば」

「このために大都市と安全保障条約を結んだって聞いてたけど」

「おおよ、高崎と前橋に救援を要請した」

「なんだって!?」

 先輩は村長の肩をゆする。

「なんで両方を呼ぶんだ、第三次グンマ大戦を引き起こすつもりかい!」

「平井和正と石ノ森章太郎がタッグ組んでそうな戦争が過去に二回も?」


 ごろごろ……ごろごろ。なにかが転がる音。

 カランカランカラン。地の底から響くようなゲタの音。


「あっちのダルマに手足が生えたのが『高崎決戦兵器ダルマ大使』で、修験者の格好をしたのが『前橋天狗ビール』だね」

「こけしそっちのけで二匹が戦いはじめたんすけど」

「こんな、かこさとしの絵本は見とうなかった」

「あれをまとめて倒すのが追加のお仕事らしい」

 燐光を放つ封筒を切り開き、先輩は和紙の指令文書をながめていた。

「武器とかあります?」

「呼べば出てくるかも。すごい高性能だから。……いでよ聖剣!」

 なにも起こらない。


「来たれ、勇者がバイト先より賜りし聖剣!」

 ブッブーとエラー音が聞こえた。


「いや、ごめんて。カワイイ後輩の前でかっこつけたいじゃん」

 虚空に向かって謝りはじめた。

 遠くの星が一瞬、光った気がする。


「来たりませ……」

 先輩は詠唱を続ける。

「来たりませ、あたしがお借りしたままムサ苦しい六畳一間の天袋に隠してある聖劔……」

 ぎゅおおと夜空に光の渦が現れた。


「エクスゥゥゥゥーッ」

 先輩が虚空を握り、剣の最新の名を呼ぶ。

「借りパクゥゥゥゥーッ!」

 その手に古代剣がにぎられるや先輩は、怪獣大決戦どもに半身を向けた。

 ひゅおん。

 空気が切り裂かれ、たったひとふりで、すべてが崩れ落ちた。


「なんなんです、そのぶっ壊れ性能。一度サヤから抜くと血を見るまで止まらない強制オプションついてる系?」

「昨年バイト先で借りた聖劔さ。例の霊峰のエクスカリバーの分け御霊」

「グンマで借りものは持ち帰れないのでは」

「そこがバグ技。グン魔王討伐で大ケガしたら埼玉からドクターヘリが来て、そのままフカヤ救急病院へ。でも今バレちゃったね(てへ☆)」


 こけし鎮圧に駆けつけたはずの、屈強な馬に乗っているグンマ警察がぼくらを取り囲んでいた。

「あーあ、後輩くんの選んだバイトのせいで、おたずね者だ」

 警察官たちの背後を、夜な夜な峠を攻めていそうなスーパーパトカーが固め、さらに駅への逃げ道を人型ロボットが立ちふさいでいる。

「ああ、あのなんとかレイバーの本工場もグンマでしたね。大丈夫かなあ」

「あたしが守るよ?」

「ぼくが心配してるのは、主にアニメ化したときの版権問題です」

「まさか……きみには未来が見えて……?」

 ぐいと顔を近づけてきた先輩の目に吸い込まれるように、ぼくは意識と学生証を失ったのだった。

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