3-23 マジカル妹とマッド幼馴染とノーマル俺with etc
俺は佐天黒哉。至って普通の常識を持った日本人だ。もちろん両親も同じ日本人だが海外出張で普段は家にいない。
そして俺のかわいい妹である佐天頼奈は魔法使いだ。アニメに影響されて木の棒を振っていたら使えるようになったらしい。常識的に考えてそうはならないだろとは思うんだが、なっているのだから現実らしい。
それと双璧を成しておかしいのは幼馴染の大須輝子。黙っていれば美人なのに俺の前ではニヤニヤと笑い怪しげな薬や危なそうな手術を施そうとするマッドサイエンティスト。ま、腐れ縁というやつだ。
他にも色々な奴らが過ごしているが、ここに書くには余白が小さすぎるか。
ま、これはそんな俺の日常を追体験する話。常識的な事しか起こらない日常だが、それでも良ければ楽しんでいって欲しい。
第一話、『命の狙われる俺の日常』。
ほんと、この街は幾つ命があっても足りないな。
今日は晴れのちサメなんてことにならないといいが。
ドアの開く音がする。ということは朝か。うん、眠い。
「お兄ちゃん、おはよ〜?起きてる〜?」
「起きている……」
快適な聖域から身体を這い出す。まだ眠い。今すぐにでも二度寝したい。時間を見てもまだ登校には早い。
「もうお兄ちゃん目を擦らないの!私が目を覚ましてあげるから!""不可視なる神秘の腕よ""!」
「おい頼奈!?」
妹が巻きついた蛇の意匠が施された木の棒を横に振るうとブォンと突風が起こり、同時にカーテンがカシャンと一気に開く。俺の瞳で太陽光がピッカピカ主張して目が痛い!
「もう少しで当たるところだったぞ!?」
「起きないお兄ちゃんが悪いんだもん♪おはよう!」
「──ああ、おはよう」
太陽神に屈して飛び起きた俺に対し巻き込みを恐れず(あるいは気にせず)魔法を行使した上謝りすらしないコイツは俺の妹の佐天頼奈。セーラー服に似つかわしくない大きなトンガリ帽子を見ての通り、魔法使いだ。(しかも独学らしい)
「不可視なるナントカは見えないだけで危ないから人のいる方に振るなって前も言ったよな?」
「え〜?お兄ちゃんに当たった時は軽い打撲で済んだでしょ?回復の魔法で治せるから問題ない!」
「問題しかない!」
「きゃ〜お兄ちゃんが怒った〜♪もうご飯できてるから着替えたら降りてきてね〜♪」
頼奈は怖がる演技をしながら部屋の外に。階段を降りてリビングダイニングに戻ったらしい。俺も制服に着替えて下に降りるか。スマホの通知を見ながらな。
『輝子:おはようだクロヤくん。今日も朝から元気だね。家の前で待っているよ』
「ん……輝子には返信しておくか」
内容は『朝飯を食べたら出る。急がなくていいぞ』でいいか、いや返信早いな。秒かよ、秒。返して閉じるまでに既読が付いたぞ。
「も〜!またお兄ちゃん他の女の子と話してたでしよ!私というこーんなにも最高にマジカルな妹がいるのに!」
「別に良いだろ」
頼奈が俺のスマホを取り上げて言う。幼い頃に見た魔法少女のアニメに影響されてか昔からこんな調子だ。俺は内容を覚えていないが
「ふーんだ。そんなこと言うなら〜」
「言うなら、なんだ?」
木の棒──彼女に言わせれば魔法の杖らしい──をくるくると振るって、向ける先は……トースト?
「まて俺はまだ食べてな「""過ぎた刻を思い出せ""!」おいーっ!?」
棒の先からバタートーストに光線が照射されると鐘の音がゴーンゴーンと鳴って光り輝き──バタートーストは牛乳のかかった小麦になった。朝飯が消失した。
「牛さんみたいにもしゃもしゃ食べてね!」
「断る」
無事な方のトーストを皿ごと攫って口へ。こちらは美味しいな。ご馳走様。
「あああああ!!」
「それじゃあ俺は輝子と学校に行くからまた昼休みな」
「お兄ちゃん!?ごめんごめん謝るから待っ──」
靴を履いて鞄持って外へ。門の前には長い茶髪を流して待つ同級生が。
「改めてのおはようだね黒哉クン。さぁ共に学校へ向かおうか!」
「おう。で、コレは?」
「今朝出来たてほやほやの""エナジードリンク""さ。男子はこういうのが好きなのだろう?」
ああ。俺も時折飲むことがある。深夜までソシャゲを走る時。課題を終わらせる時。妹から夜通し逃げる時には重宝する。するのだが。
「だからと言って光らせる必要はないよな」
「五感で楽しめる方がいいだろうと考えてね。もちろん善意100%さ!さぁさぁグイッと飲み干してくれたまえ!」
「そうだな、せっかく作ってくれたしな」
極彩色通り越して千六百八十色に色を変える得体の知れない液体Xを受け取る。期待に満ちた彼女の瞳は美しいとは思う。努力を無碍にするのも可哀想だろう。ここは飲んでやるのが男というものか。
「だが断る」
「えっ」
しかし尊厳よりも生命の方が大事な俺は容器を暴投。屋根を越してあれはホームラン級だな。
「えぇぇぇ〜〜〜っ!?」
「どうした最後まで残しておいたショートケーキのイチゴを目の前で掻っ攫われた時のような顔をして。早く学校に行くぞ。遅刻はしたくない」
腕時計を見る限りまだ余裕そうだが何があるかわからないからな。最悪事故る可能性まである。
「黒哉クン私の研究成果を投げ捨てるなんて酷い!酷すぎるよ!」
「これまで飲んだ結果ロクな効果が出た試しがないからだよ。せめて見た目をマトモにして自分で臨床実験してからにしてくれ」
「だって黒哉クン以上の非検体ンンッ実験協力者なんて見つかるはずもないじゃあないか」
「お褒めに預かり光栄だよ。恐れ多いから倫理委員会に通報させて頂く」
えーと、委員長直通の番号はと。ああ、コイツは大須輝子。ことあらば治験と称し俺に怪しげな薬物(合法)を盛ろうとしたり実験だと改造手術を施そうとしたりしてくるマッドなサイエンティストだ。
「ええっ!?それだけは勘弁してくれないかい……?」
「なら歩いてくれ」
その度合いといえばつい先日俺に惚れ薬を盛ろうとしてきたくらいだ。まぁ、その時の輝子は間違えて自分が飲んでしまって暫く俺に甘えるようになってしまったのだが。翌日に『バッチリ覚えている』と言ったら忘れてくれとキレられたのも理不尽だろ。どうして俺の周りの女子は……はぁ。
「ため息が出ているじゃないかほらもう一杯あるからコレを飲んで」
「そおい」
「あぁーーっ!!」
うん。よく飛んだな。今日は絶好調。この調子でガチャでも引くか。
☆────────☆
無事学校に到着。鞄を置いて着席。輝子は遠くの席で女友達に話に行った。割と頼まれごとが多いらしい……その割に俺にはいつも二つ返事なんだよな。
「おはようだな佐天〜、朝から楽しそうで羨ましいぜ」
「ああおはようだな野井。なら変わってくれよ」
「はははは。ヤーダね。俺は生徒会長一筋なんだよ。ってーか今日の妹ちゃん怖くね?」
「あー……」
校庭の方を指さす野井宗助。こいつは生徒会長が好きで文化祭でも一人アンソロを書くほどのHENTAIだ。この学校の男子の半分は世話になっているだろう。俺はどうなのか?ははは。黙秘権だ。
「頼奈の自業自得だから気にしなくていいぞ」
階下に黒いエフェクトを纏いながら箒に乗って投稿してきた頼奈が見える。箒は扱い上自転車ということになっているので駐輪場の方に向かうのだろう。
「えっ、いやぁ……えぇ……?」
「俺に牛になれとか言って小麦の牛乳浸し食わそうとしてきたのが悪いだろ」
「お前も何かしただろ!?」
「してないしてない。俺はただパンを食って出てきただけだ」
「パンツ食って?」
「殴るぞ」
俺の右ストレートが貴様の頬を抉り取るぞ、なんてな。昔皆でゲーセンに言った時、俺が使ったパンチングマシーンが壊れたときからこの調子だ。
「佐天の拳骨はシャレにならないっての。ってやべやべ、先生来るな。噂だと今日は転校生が来るらしいぜ?」
「へー」
「興味なさすぎだろお前」
「これ以上変なのが増えられてもな……かわいいのも妹で間に合っている」
「佐天も結構シスコンだよな……」
何か言ったか……って、もう席に戻っているし気のせいか。間を開けずガラリと教室の戸を開けてジャージを着た長耳長身の女性が入ってきた。彼女がこのクラスの担任、紀ノ川シエル。外人とのハーフらしい。噂では御年三桁はあるとか。ま、眉唾か。ちなみに担当科目は体育だ。
「ハーイ、おはよう皆!今日はお知らせがあるよ!」
「お知らせー?」「転校生だろ!」「はよ」
「ううん、編入生!このクラスに今日から新しい仲間が来たよ〜!入ってきて!」
開けっぱなしの戸から現れたのは白髪赤目の典型的な中二病患者な少女。あちこちに包帯を巻いていたり、眼内までしてかなり痛々しいのが見てわかる。
「自己紹介よろしく!」
「ナディア・ローデント。傭兵です。日本での長期任務を受けたのですが、依頼主のご厚意でここに編入してきました」
……傭兵か。まぁ、傭兵くらいなら驚かないか。
「趣味と特技教えて〜」「質問まだでしょ!」
「ふふふ……特技はハンドガンとナイフによる近接格闘術とライフルでの長距離狙撃、趣味は銃器の手入れです」
傭兵なのだし自分の使う武器くらいは自分で調達するだろう。模範的な傭兵と言える。
「包帯巻いてるけどどうしたのー」「中二病?」
「いえ、これは昨日手榴弾を受けた時の傷です。瞳にも金属片が入ったので治療のために眼帯をつけていますが、明日には治します」
それなら痛々しくても仕方ないな。今すぐ保健室に行ってくれ。心配になる。それとも良ければいい治療を提供してやろうか。俺の妹なんだが。
「学校生活は初めてなので、皆さん仲良くしてくださいね」
「よろしく〜」「美少女ktkr!」「護身術教えて!」
なら歓迎しないとな。日本語を普通に話せるようだしすぐに馴染めるといいな。
「ナディアちゃんの席なんだけど〜、佐天の隣の空いてる席でよろしく!」
「ここだぞ〜」
名前を呼ばれたので手を振って招く。他の男子からは羨みの声が聞こえてくるが知らないな。席替えで誰も俺の隣の席を取らなかったのが悪い。
「ありがとうございます、佐天さん」
「気にするな。俺たちはクラスメイトだろう?」
「ふふふ、そうですね。では死んで頂けますか?」
タァ────ン。
サプレッサー付きの大口径拳銃。狩猟用のモデルか。
「だがそれはモデルガンだろ?」
悪戯にしては相当手が込んでいるがな。
「……ふふふ」
流石に玩具では死なねえよ。全く、傭兵ジョークは恐ろしいな。