3-01 聖女プレイ(不本意)
パーフェクト・パートナー・プラン、通称P3。
それが小学生の誕生日に買ってもらった初めてのゲームだった。
P3はプレイヤーとパートナーのモンスターの一人と一体で旅をするMMORPGだったが、ゲーム機が型落ちになると俺が青春を捧げたP3は呆気なくサ終してしまった。
そしてP3サ終から20年経ったある日、なんと最新のVR装置のゲームとしてP3のリメイク版が出るとの情報が出た。
更に当時のアバターの姿でプレイ出来るという。
かつてのプレイヤーは狂喜乱舞した。
そして発売日の今日、俺は初めてP3を起動した時のようにワクワクしている。
……そういえば最後はどんなキャラでプレイしてたっけ。
小学生一年生の俺、月突鼓希の誕生日に親に買ってもらった初めてのテレビゲームがパーフェクト・パートナー・プラン(通称P3)というゲームだった。
P3はキャラメイク時にランダムで能力が決められるパートナーとなるモンスターが与えられて一人と一体で旅をするMMORPGだった。
P3は親との約束で一日に長時間プレイできなかったがそれでも毎日ワクワクしながらプレイしていた。
P3はプレイヤーとパートナーのジョブや装備、スキルに加えてイベントやらアプデやらとやり込み要素が尽きず、当時小学生だった俺には難しくよく行き詰まったが同時に歳を重ねても新しい楽しみかたを次々と見つけられ、文字通り俺の青春を捧げたゲームだった。
だが時代が進み、ゲーム機が型落ちになっていって最終的にサ終してしまうのは悲しいが仕方の無いことだったのだろう。
それでも高校三年生までざっと12年プレイしたゲームが終わった時の喪失感はとても大きく、
P3のサ終後にプレイした色々なゲームでは、その喪失感を埋めることができなかった。
そして俺は高校・大学と卒業し、普通に働いていた。
だが頭の片隅には何時もあの楽しかったP3の思い出が残っていた。
最初に始めたばかりの小学生の頃に補助スキルの効果がよく分かっていなかったせいで攻撃系のスキルしか使わなかったためボスに勝てずにひたすらレベル上げし続けた夏休み。
中学生になって少し補助スキルの効果を計算出来るようになり最強のコンボを見つけたとイキってSNSを見たら完全上位互換があって愕然とした黒歴史。
高校生になり戦闘を大体理解出来るようになったからと趣味に走りまくって息抜きしていた受験期。
あの輝かしい日々の記憶が時間とともに薄れていっても、それでも確かに心に刻まれていた。
そんなある日、俺の元にP3仲間からある情報が届いた。
それはなんと半年後に最新ゲーム機として完全没入タイプのVR装置の発売するということと、それと同時に幾つか出る最初のゲームの一つとしてP3のリメイク版が決まったというものだった。
更に、P3の開発会社が当時のプレイヤーのセーブデータが残っていれば初期状態になるが当時のキャラでプレイ開始出来るという。
俺はすぐに情報の真偽を調べ、ダメ押しに開発会社に問い合わせをして確認し事実という返答を受けて狂喜乱舞した。
「そしてリメイク版プレイ開始の今日、胸に抱いてるこの興奮は当時の初プレイ時と同じかそれ以上だ……!」
ゲームを始める準備を完璧に終えて万全の態勢の俺は感慨深くなり思わずそう呟く。
そしてゲームサービス開始の時間になると同時にVR機器のスイッチを入れるとスーッと意識が薄れていった……かと思うと次の瞬間にはフッと意識は浮上した。
そのまま周りを見渡すと今いる空間が自分の部屋ではなく真っ白な部屋になっていて、身体は真っ白な人型になっていたことに気付く。
が、そんなことはどうでもいい。
20年という時間で薄れていった記憶でも、残っている記憶がプレイしていた12年のうちのほんのひと握りでも、それでも目の前に浮かぶウィンドウに映るキャラメイク画面を見れば初めてキャラメイクをする時のどんなキャラを作ろうかというワクワクと早く始めたいというワクワクのせめぎ合いを鮮明に思い出せる。
同時にまた新しくキャラメイクをしたいという気持ちも湧いてくる。
「確かに新しくキャラを作り直すのもそれはそれで悪くない。だけどそんな葛藤はもう済ませてある。だから……」
そう言いながら予め読み込ませておいたセーブデータの引き継ぎをする。
するとキャラメイク画面に過去の自分のキャラが出てくると同時に殆ど反射で決定キーを押す。
そして直後に出たパートナーも能力値がリセットされた当時のパートナーを選べるということなので当然ノータイムでそれを選ぶ。
確認画面に映ったかつての相棒に涙が滲むが堪えて決定を押す。
その後の細かい設定も予め決めていたのでテキパキ進めて2分もかからず初期設定を終えると身体が光り出した。
「本当にまたあの世界に戻れるとは……」
そう口に出すと同時に俺はP3の世界に降り立った。
その景色はかつて見たのと変わらない……いやVR機器になることによって、かつてのドットより鮮明に見える。
だがそれは当時何となく頭に浮かべてた景色が本物になったと感じられて、言葉にならない感動に脳が埋め尽くされていた。
暫くして足元に何かが当たってきた。
視線を下げるとそこにはかつての相棒の猫又がいた。
最後にプレイしていた時のプレイヤーを載せられる虎サイズから成猫サイズになっているが、それでも再会できたことが嬉しかった。
だから昔のように20年経っても忘れなかった名前を呼ぶ。
「久しぶりだな、ルナ。……?」
俺がそう呼ぶと同時にルナはジャンプして胸元飛び込んできたので受け止める。
が、その間脳内で「?」が浮かんでくる。
同時に何も考えず申請した昔のキャラデータを思い出そうとする。
当時はどんなキャラでどんなプレイスタイルでプレイしていたんだったか。
そして思い出すのにそこまで時間はかからなかった。
何故なら……視界に入る今の自分の体とルナを呼んだ時の声で十分理解出来ていたから。
「そういえばそうだった……」
そう言いながら思わず天を仰ぐ俺を見て不思議そうにしている様子のルナ。
そんなルナを撫でながらどうして落ち着いて考えられなかったのかとこの半年の自分を恨む。
「そういえば最後は聖女スタイルでプレイしていたんだった……」
そう、今の俺は修道着をきた少女の姿になっていた。
声も体に合わせたものになっているようで、ボイスチェンジャーを使ったような違和感の全く無い自然な少女のものになっていた。
いや、まるで覚えてなかった訳ではないんだ。
ただ聖女の見た目をしているキャラであっても当時は別になりきっていた訳でもなく、ただ見た目が男より女の方がいいからと高校生の時に女キャラでプレイし直しただけなんだ。
……ちょっと話が逸れたし言い訳にもなってないな。
とにかく!
キャラの見た目を事前に確認した時も特に気にしてなかったんだが……VRゲームは初めてだからというのもあり、自分がそのキャラになるという自覚が足りなかった……。
そしてもうゲームを始めた以上、キャラをリセットするとせっかく会えたルナも消えてしまうため今更変更は出来ない。
「とはいえ……とはいえだ……!」
やるのか?本当に?40手前のオッサンが?聖女キャラを?本当に?別に男の口調のままでやってもいいんじゃないか?いやでも完全没入のゲームならガワに沿ったロールプレイを楽しみたくないか?だとしても聖女は流石に……
そんな感じでその場で10分は葛藤していた。
途中で他のプレイヤーに話しかけられもしたがややおざなり流して葛藤し続け、覚悟を決めた。
「やってやる……いいえ、やってやりましょう!」
そう口に出して宣言する。
やはり完全没入を謳うゲームでせっかく懐かしいキャラになれるのだ。
聖女だろうがなんだろうがなりきった方が楽しめそうじゃないか!
若干強がりはあったものの最終的にはそう判断した。
強いていえば、声が素のオッサンの声のままじゃなかったのが救いだ。
そう考えながら俺が葛藤している途中から寝ていたルナを起こさないように抱え直しながら最初のチュートリアルポイント目指して俺……改めて私、ルーナは歩き始める。
私たちの冒険はこれからです!