表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/27

3-10 国王たるもの

東の魔族、西の帝国、そんな東西の大国に挟まれながらも、王国としての自治を貫いてきた小国アルエリア。その現王が病に伏し、王位継承を行うことに。しかし、三人の王子のうち第一王子は王位につく前に突然失踪する。そしてなぜか第二王子は、第三王子を幽閉してまで、第三王子を無理やり王位につかせようと、王位継承の儀を始めるのだった。


「カール様。第三王子カール様。夜分に大変申し訳ありません。第二王子サリエル様の勅命により、只今よりあなたを拘束させていただきます」


 王城の一番東端にある第三王子の寝所に、王に直属の騎士団である近衛部隊、その精鋭な騎士数名が正規の武装をまとった状態で現れる。

 騎士達の先頭に立つリーダーと思しき眼光鋭い男は重々しく口を開く。とりあえず第三王子に対する口ぶりだけは、王族に対するのと同じく丁寧だった。

 しかし、リーダーの後ろに控える若い騎士達は、剣を抜刀してギラリと鈍く光る刃を第三王子に向け、一部の隙も見せてはこない。


 ──こいつら本気だ。


 肩口で揃えた白銀の髪が、騎士達が開け放った寝所の扉から吹き込む風に揺れる。()()()()()()()()()()()()()()気楽さからか、多くの民と深く触れ合ってきた柔らかい顔が青ざめる。


 王子も三人目となれば、醜い王位継承権の争いとは無縁に、王族としての権利だけを享受できる、本来はそんな立場のはずだった。


 それが、こんな真夜中に突然完全武装の騎士を送り付けてくるとは。私は、何か第二王子サリエルに不都合な振る舞いをしてしまったのか? ゆらゆらと揺れるローソクの炎が、薄暗い王城の石畳の上に、連行されていく私の影を映す。私は必死になって、ここ数ヶ月の第二王子に対するふるまいを思い返す。


「私は殺されるのか? それとも国外に追放されるのか? どうか第二王子と話をさせてくれ、弁明がしたい」


 ガチャガチャと武具の擦れる音をさせながら歩く武装した騎士に左右を挟まれながら、私は先頭を歩くリーダーとおぼしき騎士におずおずと声をかける。


「今から参ります王城の北の端、幽閉の塔に、第二王子サリエル様がお待ちしております。仔細はサリエル様より直接お聞きください」


 リーダーは歩みを一瞬止めて、何かを考えるように石畳の通路の先の暗闇をじっと見つめながら、そう答えるのだった。


 * * *


「第二王子サリエル、私は何か悪いことでも行いましたか? 次期国王になるのは第二王子の兄さんで、私は国王の座を狙ったりはしません。それぐらい頭のいい兄さんならご存じでしょう」


 私は、()()()の中で一番知恵の回る第二王子サリエルに、出来る限り冷静な口調で問いかける。白銀の髪をオールバックにまとめ、ずり落ちてくるメガネを人差し指でそっと戻す姿は、知恵のサリエル、知略の第二王子の名にふさわしい。


「──いや、俺は王にはならない。カール第三王子、お前が、王位を継ぐんだ。ただし、幽閉の塔に居ながらだがな」


 なぜ、兄さんは私に王位を譲るのか。

 第一王子であるアレクが、病床の現王に代わって王位を継ぐ直前に突然失踪してから、サリエルの顔色に苦渋の影が刺すようになった。


 あれだけ傲慢で何事にも強気な漢であった第一王子アレク。短く刈り上げた白銀の髪はアレクの性格に似て天に向かって立ち上がり、()()()で一番の体格と腕力は、全てをねじ伏せる。俺さまが王にならずに誰が王になるのだ、俺さま以外に王にふさわしい者はいない、そう言ってはばからなかった長兄。

 その第一王子アレクが、王位継承の儀を行う前に行方をくらました理由。そのわけを、第二王子サリエルは知っているのか?


 私は幽閉の塔の最上階にある、王族やそれに近しい上級貴族のみを幽閉するためだけに作られた『天使の間』に連れていかれた。その部屋は、とても牢獄とは思えないほど豪華な内装が施されている。

 しかし、全ての窓には人の手ではどうすることも出来ない鉄格子がはめられ、昼間であれば日の光をさんさんと部屋に取り入れる天窓は身長の何倍も高い位置にありその窓から出ることも叶わない。

 唯一の出入り口である豪華な装飾が施されたトビラの外側には、何人も通さないように交代で騎士たちが見張っている。


 * * *


「第三王子カールよ、お前は現王である父上から、王位の秘密に関して何も聞いていないのか?」

「はい、何も聞いておりません。『王は民のためにのみ働く、そのために権力を与えられているのだ』そうとしか聞かされておりません」


 第二王子サリエルは、王の証となる三種の宝具を『天使の間』に持ち込みながら口を開く。


「お前は知らないだろうが、俺たちの国の王位継承の儀式は特別なのだ。よその王国が行なっているように、祭殿のような神聖な場所で司祭が行う戴冠式のようなものではない」


 王家の象徴である真っ赤な石の入った、心を持つあらゆるモノに拒否が出来ない命令を下せる王冠。天地を思いのままに動かす事が出来る、金色に輝く王の杖。そして、あらゆる災厄から身を守る事が出来る、金色の刺繍の入った真っ赤なガウン。

 そんな魔法でも不可能な、創造主と同等な力を持つと伝えられる、王位を継いだ者だけが扱える三種の宝具。第二王子サリエルは、その宝具をテーブルの上に丁寧に置くと話を続ける。


「実は、王位を表す三種の宝具と共にもう一つ大事なモノがある。王となる者は、我が王国に代々伝わる神秘の力を受け継ぐために、どれだけ民を想う力があるかの試練を受けねばならないのだ。コレがその試練に必要な四番目の宝具だ」


 第二王子サリエルが手にしているガラスの板。王家の継承には不釣り合いな、手のひらに乗る程度の大きさのガラスに似た透明な板。普通のガラス板と違うのは、板の真ん中には小さな窪みと、その窪みを囲むように見たこともない古代文字が刻まれていることだった。


「アレク兄さんはな、実は密かに王位継承の秘技を行ったんだ。父王の衰弱で王国の力が弱ってる隙に、東西の大国がこの国を潰す気配が濃厚になったからな。でも、現王が存命中だからなのか、アレクの国民を想う力が足りなかったのか、第一王子アレクは継承の試練に打ち勝つことが出来なかった──」


 * * *


 東に魔物の住む広大な森を従える魔族の国グリム。西に大陸最大で最強の武力を持つ人族の帝国ハムライド。北に何人も近づけない極寒の険しい山脈ジャムリル。南に一年の大半が暴風で漁師泣かせの荒れる大海ゾワール。


 私たちの国アリエリアは、その二つの強大な国と二つの過酷な環境に挟まれた、何の産業もない、交易に特化した小さな王国だ。

 小高い丘の上に城が建ち、その城を囲むように住む国民、その城と国民達の住む街全体を覆う巨大で堅牢な塀からなる城塞都市、それがアリエリア王国だ。


 西の豊かな資源や食糧を東の魔族に提供する代わりに、東の魔族は魔力で生成した魔法石や魔道具、ポーションを提供する。魔法を使えない人族は、魔法石や魔道具を使って豊かな生活を実現し、ポーションを使って病気や怪我を治す。

 そんな交易を一手に引き受けることで、武力を持たない小さな国であるが、何世代にもわたって慎ましくも平和な暮らしを維持してきた。


 ただし、それは表向きの話しだ。

 実際には、魔族の不法侵入や帝国からの貿易権益に対する圧力と言った、ほんの少しでも取り扱いを間違えれば、あっという間に両国の戦に巻き込まれて潰されてしまう。そんな危うい立場にある、小さな国であるのだ。


 ──が。

 東の魔族と西の帝国、その二つの大国の魔力と武力を持ってしても、この弱小な王国を自分のモノには出来ない。

 それには、アリエリア王国を潰してしまうと、東と西の全面戦争、魔族と人間の戦いが始まってしまう、そんなもっともらしい理由以外にも──本当はもっと深いわけがあるらしい。


 * * *


「実はまだ公になっていないが、先ほど現王である父上が崩御された。いよいよもう後がない。俺はもう一度王位継承の秘技を行うことにした、第三王子カールお前を使ってな。大丈夫、お前の国民を思う気持に偽りはないはずだ。お前が試練に打ち勝って、アリエリア王国の新王になるのだ」


 第二王子サリエルは、腰に付けている鞘から護身用の短剣を抜くと、私の人差し指に傷をつける。そうして、私の人差し指からしたたる血を、そのガラス板の中央の少しくぼんだ場所にたらす。


 すると、突然そのガラス板は部屋の燭台よりも遥かに強い光を、まるで晴天の昼間のように明るい光を放ち始める。


「うわあああああ!」


 光が強くなると、私の頭の中に誰かの声が響く。


「この血を差し出したモノよ。DNA解析により、お前は太古より続く王家の血筋で間違いないことが確認された。さらに頭の中をスキャンして国民を愛する気持ちにウソがないのも知った。お前はたった今から、この丘の地下深くに眠っている『星々を渡る船』のマスターとなり、その船の持つ超文明の全能力を使って、我が星人の子孫であるこの丘の民を守る義務を負うのだ──」


 私の頭の中に、はるか彼方の星より飛来し、この丘に不時着して、この星で生きていく決断をした太古の星人達の記憶が、魔力をも凌駕する超古代文明のメッセージと共に濁流のように流れ込んで来るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第24回書き出し祭り 第3会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は5月17日まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
細かいところですが、王国帝国と比較するなら魔族領とかの方がいいかなーと思いました。 読みやすかったです。 が、ワクワク感は少なかったです。これは個人の感想や想定読者層の問題もあると思いますが… いま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ