取り敢えず僕は力があって頭が良い。こいつはバカで力がない。ひょっとしてこれが正しい世界じゃないのか。
俺が俺に突っかかって来る。
「なんだてめえなにした」
胸元を掴まれた。
「そんなの僕にも分からないよ」
ヤミニシを突き飛ばした。えっ、簡単に突き飛ばせた。ヤミニシも驚いている。
体勢を整えて再度向かってきた。僕なのにスゲエ迫力。
やばい! 逃げようかと思う。けど肩を押して防いだ。
手をぶんぶん振り回しても頭を押さえられ届かない、そんな漫画になりそう。
情けないけど、迫力十分だからちょっと押された。
周りが気付いて、驚いてそれからコグスゲやるじゃないかって雰囲気になった。
ヤミニシの僕に協力しようかな。みな応援しているみたいだし。
それで尻もちをついてみた。
ヤミニシの僕がここぞとばかり抱きついてきた。手とか脚とか膝を使って複雑な攻撃をしてきた。
「落ち着いてよヤミニシ君」
興奮しているヤミニシは夢中で攻撃してくる。
僕もやれたんだと思う、けど痛い。
下から投げて立ち上がった。ヤミニシの僕をヘッドロックして人溜まりから離れた。
「チキショウ、コグスゲ覚えとけ」
怒りは益々増すばかりのようだ。
刃物を持っていたら確実に刺された。持っていない僕に安堵だ。
興奮しているバカに話すにはどうしたらいい。
この際勉強しよう。取り合えず突き飛ばして尻もちをつかせた。
余りに情けない僕。ヤミニシの目線で僕を見るのは堪えられないな。
憎々し気な僕がしたことのない目で見上げてくる。顎でも蹴ってやろうかな。
「話さなきゃ分かんないだろ」
言ってみたけどたぶん話しても分からない。
けどヤミニシは黙った。聞く目に変わった。案外素直だったのか。
バカの方が素直だというのは本当かな。
「ヤミニシ君。状況は分かる?」
分かるわけないか。頭は???だろう。
どういう状況か分からないけど、入れ替わったのは僕の方からだ。
ヤミニシが僕に乗り移ったのではない。このバカにそんな芸当出来るわけない。
じゃ入れ替わられて驚いているのはヤミニシの方だな。
僕より衝撃だろう。なにせ僕に変わっちゃったのだから。
それは腹が立つから、手を踏んづけてやった。
「幾らでもぶっ飛ばしてやるからな」
急にヤミニシになってみようかな、と思った。
僕に変わって驚いているヤミニシに腹が立ったからだ。
この状況は何でも出来る。僕は痛いだろうけどそれはヤミニシだ。
僕の体が可哀そうだけど、ヤミニシが痛い方が先だ。
僕に乗り変わったのなら喜べ阿呆。
顎を蹴飛ばしてやった。
凄い自虐的だ。
複雑な気持ちだ。
僕はマゾか!
ええい。もう一発蹴った。
むむ。ハートが痛む。
マゾじゃないな。
マゾなら喜ぶというし。
心臓が痛苦しい。
自分をこんな風に蹴った人は居ないだろう。
涙も出ようってものだ。
涙を出したら、涙を出しだヤミニシを僕のヤミニシはどう見るだろう。
こんな男の為になにを高尚になっているんだ。
取り敢えず僕は力があって頭が良い。こいつはバカで力がない。ひょっとしてこれが正しい世界じゃないのか。