表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第5話 美咲の師匠は やっぱり変人でした ゲストがかわいそう

「へぇ、ここが尚美なおみ御殿か」


 黒髪でさえない風貌の男性である岩佐康いわさ やすしは目の前の屋敷を見て感心していた。都内の金持かもち区にある演歌の大御所、横川尚美よこかわ なおみの所有する屋敷である。

 三階建ての白い建物で、庭も公園並みの広さだ。横川尚美は50年以上活動している演歌歌手で、紅白歌合戦でも常連だった。

 ここ数年、所属事務所のキツネ御殿を追い出され、フリーとして活動していた。秋本美咲あきもと みさきの師匠でもある。


「それは近所や業界が勝手に呼んでいるだけよ。本来は尚美学園という名称なのよね」


 金髪碧眼の美女である美咲が答えた。高い塀に門には確かに横川尚美の表札とともに、尚美学園と表札に書かれていた。


「今回は横川先生と他のアイドルのコラボ動画撮影よ。気合が入るわね」


 金髪で日焼けした体格のよい30代のオネエが声をかけた。メイクリストの日髙雄二ひだか ゆうじである。事務所ではゆうさんと呼ばれていた。黒いドレスが決まっている。


「尚美学園は初めてですね」「私たちも気合を入れて撮影します」


 撮影班の富沢利奈とみざわ りな久川寿子ひさかわ ひさこはメイド服を着た二十代後半の女性だ。赤が利奈で、青が寿子である。個人事務所セイレーンの面々は今回コラボ企画の撮影のためにやってきた。白いワゴン車に乗っており、機材も積まれている。


 美咲はインターホンを押す。


「こんにちは、セイレーンの美咲です。スタッフは4名です」


『美咲様、お待ちしておりました。どうぞ』


 返事が来ると門が開いた。美咲はワゴンに乗り込むと、ワゴン車は敷地内に入っていった。


 ☆


「「「いらっしゃいませ!!!」」」


 玄関では割烹着を着た女性が頭を下げて出迎えた。全員十代後半で赤い着物を着ている。

 彼女たちは尚美の弟子見習いであった。福祉施設出身が多く、彼女たちの過去は暗いものがほとんどである。尚美はそんな彼女たちの心の闇を払しょくするため、弟子を取っていたのだ。別に演歌歌手を目指さなくてもいいので、調理師や弁護士などの資格を取らせている。

 逃げだす恩知らずもいるが、そういった人間は周囲の信頼を失っており、地獄を見ることが多かった。


 美咲たちはトレーニングルームに案内される。学校の教室並みに広い部屋で、ベンチプレスの機具や、ラットプルダウンマシン、ペックフライマシンなど様々なトレーニング機具が並んでいた。

 色んな年代の女性が自重トレーニングをしたり、ベンチプレスをしていたりした。


 その中で一人の女性が目に付く。

 それは160ほどの身長で、髪の毛はピンク色のパーマであった。赤渕眼鏡をかけており、身に着けているのは白いシャツと黒いスパッツ、それに腰にはパワーベルトを撒いており、足は運動靴を履いていた。


 彼女は横川尚美で70歳である。全身日焼けしており、ほうれい線は目立つが気にならないほどだ。腹筋は見事に割れており、肩は山のように盛り上がっている。両腕は丸太のように太く、両脚は馬の脚に見えた。


 彼女はバーベルを肩に掲げてスクワットをしている。バーベルスクワットだ。

 汗をだらだらとたらし、延々とスクワットを続けている。

 美咲たちは声をかけられなかった。本当に70歳の老婆かと疑うほどである。


 やがてバーベルを降ろすと、一息ついたようだ。


「おっ、おひさしぶりです師匠!! 相変わらず鍛えてますね」


「ふん、お前もなまけていないようだね」


 尚美は椅子に座り、タオルで汗を拭いている。そこにメイドが現れてお盆にコップを持ってきた。中身は白い液体である。牛乳で溶かしたプロテインだ。尚美はそれを一気に飲み干す。


「ふぅ、トレーニングの後に飲むプロテインは最高だね。昔はまずかったけど、今は美味しくなっているのがうれしいね」


「そうなんですよね。やっぱり毎日飲むなら美味しいほうがいいですよね」


「まったくだな!! あっはっは!!」


 美咲の言葉に尚美は豪快に笑った。康は目の前にいる女性が演歌の大御所とは思えなかった。テレビで見る彼女は格好こそ奇抜に見えるが実力者であった。事務所をやめる前は後輩やスタッフに気配りできる女性である。しかし目の前の彼女は筋肉の化身であった。トレーニングを欠かせないからこそ、若々しさを保っているのだろう。


「美咲。お前は奇抜なことばかりしているようだな。あんたは歌手なんだ、芸能人じゃないんだぞ」


「そういう師匠も色々活躍しているじゃないですか。パチンコになったり、アニメの主題歌を歌ってゲスト声優として出演したりしてるし」


「私は仕事を選ばないだけさ。もらった仕事は全力で全うするよ。どこかのバカ女とは一緒にされたくないね。もちろんお前と比べるのも失礼だと思っているよ」


 尚美が悪態をついた。バカ女とは前の事務所に所属している烏丸からすまりあのことである。

 あの女はベテランである尚美に対して暴言を吐くわ、散々であった。

 注意しても社長の木常崑崑きつね こんこんがかばうし、逆に尚美に対して切れる始末である。そして彼女はりあの甘言によって事務所を追い出されたのだ。それが5年程前であった。


「枕営業しか能がないボンクラが生意気にも私に意見しやがった……。さらに美咲の仕事も横取りしたそうだね。というか事務所の信頼を失うのに、社長のヤツは何を考えているのやら」


「もう社長は正気ではないと思います。完全に烏丸さんの色気に溺れており、入社した当初の覇気が消えていました」


「まじめな性格だったんだけどね。仕事一筋で息子の副社長にも厳しかった。色恋によって破滅するなんざ、前世で何か悪行を行った報いでも来ているのかねぇ」


 康の言葉に尚美は頭を抱えた。社長とは50年ほどの付き合いがあったのだが、呆気ない幕切れに彼女は失望し、呆れていた。

 幸い優秀なマネージャーのおかげで、彼女の歌の権利はすべて彼女の物となった。

 最近はディナーショーへの出演が多い。さらに巣立った弟子たちが顔を見せては、食べ物やなんかを置いていくのだ。

 尚美自身は独身であるが、娘や孫ほどの弟子に囲まれており、孤独ではなかった。マスコミは彼女を社長のせいで結婚できず子供もいない不幸な女性と決めつけていたが、見当違いである。


「美咲、お前は何を撮りたいんだ?」


「その前にもう一人のゲストが来たようですね。紹介しますわ」


 尚美の問いに雄二が答えた。部屋に入ってきたのは一人の女性だ。小柄で金髪を肩まで伸ばしている。


「どっ、どうも……。綺羅きらめくるです……」


 それはアイドルの綺羅めくるであった。一時期は人気絶頂だったが、突如引退し、不死鳥のごとく甦ったアイドルであった。なぜ彼女がここに来たのか? それはコラボ企画のメインとして呼ばれたからだ。


「なっ、なんで私が横川先生の家に……」


「ようこそめくるさん!! 今回はあなたが主役よ!! 私と師匠でトレーニングする動画を撮るんだから!!」


「ええええ!! なんで横川先生と美咲さんが私とトレーニングするんですか!!」


 美咲は興奮してめくるの両手をつかむ。しかしめくるは困惑していた。コラボ企画といえば一緒に歌を歌うのが定番なのだが、美咲のチャンネルは常軌を逸脱していた。

 それに利奈はカメラを、寿子は録音の準備を整えている。もうすでに撮影は始まっているのだろう。

 すでに美咲は黒いランニングシャツと短パンに着替えていた。雄二はめくるを捕まえて着替えさせる。

 康はそれを見て呆然としていた。


「なあ美咲……。今回は横川先生と綺羅めくるのコラボ企画じゃなかったのか? なんでトレーニングすることになったんだよ」


「ただ歌うだけじゃつまらないでしょう? 安心しなさい、師匠は大学を出てトレーナーの資格を得たのよ。無茶な教え方はしないわ」


「あれ? 先生は高校を卒業したと聞いたけど?」


「事務所を追い出された後、大学受験したのよ。それで合格したわけね。色々資格を取ったのよ」


 つまり65歳で受験勉強をして合格。その後大学を卒業したことになる。60代でも大学は入学できるのだ。その精力的な活動に康は感心した。


「さぁて美人三人に囲まれて、康君は鼻をだらだらしてますねぇ。どう師匠のおっぱいは? ほとんど筋肉になっているから揺れないけどね!!」


「くだらないこと言ってるんじゃないぞ美咲。さて綺羅めくるさんでしたね。私は横川尚美です。今日はあなたにふさわしいトレーニング方法を教えましょう」


 尚美は赤ちゃんを見るような優しい笑顔を浮かべた。

 しかしめくるは胃が痛くなる思いであった。なぜ演歌の大御所であり、紅白の常連である横川尚美が、自分と一緒にトレーニングすることになったのか理解できない。

 アイドルとして場数を踏んできた彼女だが、さすがに大ベテランの前では委縮する。

 クソみたいなバラエティ番組には数多く出演してきたが、ここほど緊張して汗が滝のように噴き出る現場もなかった。


「でもよくめくるさんと契約できましたね?」


 康が雄二にそっと耳打ちした。今回の仕事は康が採ってきたわけではない。美咲が言い出したことである。


「実は私たちレイダンスという純喫茶で彼女と出会いました」「それで美咲さんのコラボ企画を打診したところオッケーが出たのです」


 答えたのは利奈と寿子だ。本来は赤の他人で、利奈は寿子と同じ顔に整形したのだが、双子のように同調している。


「なんかあっさりしすぎだな。何かあるのか?」


「ええ、実はあなたにはまだ伝えていなかったけれど、数か月後に大きなフェスが開催されるのよ。今回の動画撮影はその宣伝の一環で所かしらね」


 雄二が答えた。康は頭をひねる。大きなフェスに心当たりがあるからだ。


「もしかしてメテオシャワーフェスのことですか?」


 康が答えると雄二はにっこりと笑った。


 背後ではめくるが尚美の指導でスクワットをやらされている。一見簡単に見えるがスクワットは一番きついトレーニングだ。そしてすべての基礎でもある重要なものである。

 めくるはヒーヒー言いながら、美咲とともにスクワットをするのであった。

 今回はいでっち51号主催の歌手になろうフェス作品、山崎山様の作品、小さなジャンヌダルクの凱旋の登場キャラ、綺羅めくるさんに出演していただきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ