第3話 康はエロゲのハーレム主人公で リアルBL主人公でもあった
「利奈、寿子、入っていいかな?」
岩佐康は一階にある脱衣所の扉をノックした。彼女たちとは撮影関係で話をしたかったからだ。
「「どうぞ」」
許可を得たので扉を開けると、中には20代後半の女性二人が裸で立っていた。
正確にはメイド帽をかぶり、黒い高級そうな下着をつけている。ふっくらした胸に引き締まった腹筋、スラリと長い脚に白いタイツをガーターベルトで止めていた。
「ちょ!! 着替え中なのに、なんで許可したんだよ!!」
康は真っ赤になって怒った。その間目を手で覆ってすぐに扉を閉める。
覗かれた二人はまったく焦っていない。それどころかくすくすと子供を見るような笑みを浮かべていた。
「康さんなら覗いてもいいですよ」「なんなら下着も外しましょうか?」
「いらないよ!!」
康は怒りながら居間に入ってきた。ソファーには秋本美咲がTシャツとホットパンツだけの姿で座っていた。今は3時なのでケーキと紅茶でおやつにしていた。
その向かいには関羽ひげを生やした大男が座っている。田亀明宏だ。アロハシャツに短パンを履いている。まるで山賊のようであった。こちらはショートケーキとコーヒーだ。
「なによ康。女の子の裸を見て慌てるなんて、本当にお子様なんだから」
美咲は紅茶を飲みながら、ケーキをパクパク食べていた。地元の菓子店で購入したものだ。
「慌てるだろうが!! あの二人は慎みがなさすぎる!!」
「そうでもないぞ。たぶんお前をからかっているだけだ」
康は怒っていたが、明宏は冷静に諭している。利奈と寿子は他人なのだが双子のようにコンビネーションが抜群であった。二人はレズビアンカップルである。戸籍上では利奈が石原克己と、寿子は明宏と結婚している。子供は人工授精で産んでいた。
偽装結婚ではあるが二人の仲は良好だ。克己と明宏はゲイカップルだが、利奈たちとは異性の友人として接している。
「というか美咲は康が女の裸を見ても、怒らないんだな」
「怒らないよ。だってこいつは女に興味がないんだもの」
美咲はケーキを食べきると、紅茶を一気飲みした。
「お前なぁ、人のことを何だと思っているんだよ」
「エロゲのハーレム主人公」
康が文句を言うと、美咲はきっぱりといった。
「あんた、学生時代は友達いなかったけど、周りの女子はあんたを狙っていたのよ。そのせいで私は女子たちから孤立していたけどね」
「なっ!? 俺のせいだったのか!! すまない!!」
康はすぐに土下座した。美咲はそれを見て不快に顔をしかめた。明宏もやれやれと目をつむる。
「康。お前のケーキもあるぞ。チーズケーキにフルーツタルト、どちらが食べたい?」
「チーズケーキで。フルーツタルトは利奈たちの好物ですから」
「わかった。お前はコーヒーが好きだったな。すぐ淹れてこよう」
そういって明宏は立ち上がった。
「あっ、それくらい自分でやりま―――」
土下座から頭をあげようとしたら、思わずよろけてしまった。
そして明宏の尻に顔を突っ込んでしまったのである。
明宏の肉体は相撲取りのように脂肪が多い。だが中身は筋肉の塊である。康にぶつかったくらいでは動じない。
「おい、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。失礼しまし―――」
「やすしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
康が明宏に謝罪をしていると、美咲は怒りの声をあげた。
「あんたねぇぇぇぇ!! 明宏さんのお尻に顔を埋めるなんて、どうゆう了見よ!! まさか克己さんから寝取るつもりじゃないでしょうねぇぇぇぇぇ!!」
彼女は般若のごとく、すさまじい形相を向けていた。
「お前なぁ!! なんで男と関わると怒りだすんだよ!!」
「それはあんたがゲイだからでしょうがぁぁぁぁぁ!! 私知ってんのよ!! 学生時代でも男子たちがあんたのこと噂しているのを!! リアルBL主人公ってあだ名つけられてんの知らなかったの!!」
「知らないよ!! 大体なんだよそのあだ名!! そもそも誰がつけたんだ!!」
「私よ!!」
「お前かよ!!」
美咲と康は本気で喧嘩している。それを見て明宏はほほえましく見守っていた。そして着替えが終わった利奈と寿子も入ってきた。利奈は青いメイド服を、寿子は赤いメイド服を着ている。
「二人とも仲がよろしくていいですわね」「ひさしぶりでございますわ」
「喧嘩するほど仲がいいってな。美咲が抜ける2年前は荒れていたからな。今はいい状況だよ」
明宏たちは美咲が所属していた芸能事務所、キツネ御殿のスタッフだった。個性的ゆえに事務所では孤立気味であった。
仲が良かったのは美咲と友人たちだけという有様だ。
「そういえばキツネ御殿は泥船状態らしいな」
明宏がつぶやいた。
「契約違反を繰り返し、殿様商売を繰り返したために、所属タレントが抜け出ていると聞きますわ」「そもそもあの妲己を抱え込んだのが原因でございますわね」
利奈と寿子も呆れていた。
現在キツネ御殿は崩壊寸前であった。芸能事務所では最大であったが、それにあぐらをかいたためか、景気や世界情勢を理解できず、事務所は火の車になっている。
社長の木常崑々《きつね こんこん》は時代の寵児であったが、それも昔の話。昔はドサ回りやテレビに映画が主流だった。しかし今はインターネットが猛威を振るっている。
さらに海外の動画サイトワールドチューブは個人での動画投稿で、世界的ヒットを生み出していた。
昔のように芸能事務所に所属するメリットがなくなってきたのである。もちろん税理士を雇わないと悲惨な目に遭うが。
しかし社長は頑迷であった。新しいものを忌み嫌い、昔のやり方に固執しまくっていたのだ。
さらに烏丸りあの所属が悪化に拍車をかけた。寿子が妲己呼ばわりしたのは彼女である。
美咲が事務所をやめるきっかけになったのは、社長が美咲を愛人にしてやると命令したのを、彼女が突っぱねたからだ。その際にやめたら芸能活動は一切できなくしてやるぞと脅したのだが、美咲はあっかんべーと舌を出して去ったのである。
自尊心を傷つけられたショックで社長は脳卒中を起こしてしまった。現在は息子が社長代理を務めている。
「今は息子の狸吉氏がなんとかしているようだが、もうどうにもならないだろうな。今までの悪行の報いが一気に噴出している」
「急な改革は体に毒ですが、徐々に慣らすのが大事ですよね」「それすらできない老害は朽ちてほしいですわね」
二人とも辛辣であった。社長は明宏たちを汚らわしい、目に触れさせるなと命じていたのだ。差別意識が強いので美咲の事務所セイレーンに努める面々は社長を嫌っている。
「とはいえ何をしでかすかわからないからな。情報は収集し、根回しもしないといけない。俺たちで美咲を支えないとな」
「「もちろんですわ」」
「頼りにしているぞ。さてと……」
明宏は口喧嘩を続けている美咲と康に近づいた。そして二人の後頭部をつかんで、ごちんとぶつける。
目の前に星が飛んで床にへたりこんだ。
「お前ら!! いつまでも遊んでるんじゃないぞ!! 美咲はこれから動画の撮影だ!! 康は一息入れたら真世と一緒に営業に行ってくれ!!」
そう二人に命じるのであった。利奈と寿子は撮影と録音のための機材を取りに行く。
「うぅぅ、明宏さんひどすぎるよ……」
「いや、おまえが……。俺も悪いか……。ほら、さっさと立ち上がるぞ」
康は立ち上がると、美咲に手を指し伸ばした。それを手にして美咲は立ち上がる。
二人の関係は恋人同士というより、恋愛を恋愛と理解できない小学生の恋であった。
美咲の性格が変わったわけではないです。なんというか康に対してやきもち焼きにしたほうが面白いと思いました。
でも女ではなく男に近づくことに嫉妬するのはどうかと思ったが、美咲に対して30まで手を出さなかったから、ゲイと思われても仕方ないよね。
周りは理解のある人で囲まれていますが、敵はキチガイがほとんどです。次回は烏丸りあが出てきます。名前のモデルはマリア・カラスです。ギリシャ系アメリカ人のソプラノ歌手です。
モデルはSNSでよく見るキチガイですね。