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外伝その2 すべてにおいてファックユー

「えー、今回は私たちすべてにおいてファックユーと、歌ウ蟲ケラの皆さんの対談を行います。いえー」


 動画は8人の女性が映っていた。正確には男性が一人混じっているがオナベである。どこかの事務所の一角なのか会議用の机とパイプ椅子、ホワイトボードしか見えなかった。

 挨拶したのは達磨のように丸っこく、肌が黒いが流ちょうな日本語をしゃべる女性だ。彼女の名前は中野なかのマーガレット・愛生あいといい、今年高校を卒業したばかりでジャマイカ人のハーフである。

 ガールズバンドであり、デスメタルでもあるすべてにおいて・ファックユーのボーカルだ。

 メンバーは全員黒いTシャツを着ている。どくろのプリントが印象的だ。


「はーい、歌ウ蟲ケラのゆいまーること平澤唯ひらさわ ゆいだよーん!! よろしくね~」


「はい、私は中野マーガレット愛生です。よろしくお願いいたします」


 平澤唯はどっしりした体格であった。髪は短く柔道の選手と言われても不思議ではなかった。


「同じく皆さんの顔なじみ、ミオタニアンこと山田美桜やまだ みおで~す。今回はあの演歌歌手、秋元美咲あきもと みさきさんの個人事務所に所属することとなったすべてにおいて・ファックユーの面々とお話しできて嬉しいですね」


 美桜は唯よりさらに丸っこい山のような女性であった。おかっぱ頭に眼鏡をかけている。どこか愛嬌のある笑顔が特徴的であった。


「私たちも、歌ウ蟲ケラの皆さんと出会えて嬉しいです。ああ、ギター担当の河合美菜子かわい みなこです。韓国の在日三世です」


 そう言ってわかめの様にやたらと長い髪の毛の女性が、ぺこりと頭を下げた。どこか陰気な感じがするが、ギターを握らせると夜叉の様に髪の毛を振り回すシーンは圧巻だと言われている」


「私はあずにゃんこと伊藤梓いとう あずさです。元女です。河合さんとキャラ被ってますね」


 梓は髪の毛がやたらと長いが、前髪はきれいに切りそろえていた。元女性だが完璧な男というわけではないらしい。ヘビースモーカーなのか常に煙草をくわえている。

 梓の言葉に美菜子はもごもごとつぶやいている。それを見て、ロシア女性が切れた。白熊の様に髪の毛が白くて短く、男性プロレスラーと言われても仕方がないほどの巨漢だが女性である。


『だー!! 美菜子は口下手なんだ!! あずにゃんとは全然被ってねーよ!!』


 彼女はロシア語で叫んだ。彼女は日本に帰化しており、日本語は片言だが日常には仔細はない。ただ興奮するとロシア語になるのだ。そのため手話で会話をすることが多い。


「えーっと、彼女は美菜子は口下手で、梓さんとはキャラは被ってないとおっしゃってます。ちなみに彼女の名前は末吉聡美すえよし さとみでドラムスを担当しています。私は佐和田さわだ・フリーダ・陽子ようこでございます」


 こちらは黒髪の女性だった。髪の毛は銀髪で肥満体形であった。眼鏡をかけており、鼻が鷲のように長い。ドイツ人のハーフだが、美女とは言えない風貌であった。

 陽子はスケッチブックを手にすると、佐鰭多さびれた商店街の楽器店の名前を書いた。

 地図とアクセス方法も書いてある。宣伝のつもりなのだろう。


「私はリッチャンこと田中律たなか りつです。いやー、皆さん見事に国際色豊かですね~。びっくりです」


 律は小柄で髪の毛を後ろにまとめていた。だがどことなく病弱に見えるのは、若い頃の悪行がたたったためと言われている。


「では愛生さん、すべてにおいて・ファックユーの由来は何でしょうか?」


 唯が尋ねた。


「はい、漫画ポ〇テ・ピ〇ックのキャッチコピーから取りました」


「あれ、あの漫画は好きだけど、そんなキャッチコピーだったっけ?」


「いいえ、ありません。なんとなくあの漫画ならやりそうだと思って付けました」


 唯が疑問を抱くと愛生が答えた。


「確かに言われてみるとそうですね。単行本の表紙では中指立ててますし」


「でもうちらはすんなり受け入れましたね。正直学校では孤立してましたし」


 愛生がため息をつきながら答えた。唯は普通の日本人だが、父親がプロレスラー故に幼い頃からテレビに出ていた。そのため悪い意味で有名人になり、不遇の学校生活を送っていたのだ。


「……高校時代はこのメンバー以外友達いませんでした。みんな外国人嫌ってた。私はもう日本人として生きているのに」


 美菜子がぼそぼそとした声で答えた。メンバーはうんうんとうなずく。よほどつらい過去があったのだろう。唯たちは突っ込まなかった。


「何と言いますか、日本は全体主義が主流だからね。学校の規則というか、人と異なる人間を忌み嫌うのはどこでも一緒ですよ。でも社会に出たらその重要性がわかりますね。もっとも私は若い頃社会に適応できませんでしたが」


 美桜が豪快に笑った。彼女は若い頃動画配信していたが、自分の体形をさらしたことで非難が殺到。そのため一時期ノイローゼになったことがあった。今は克服し、恋人もできたらしい。いつか結婚して子供を作る予定だそうな。


「ところでおたくらの歌う歌はなんなん? ひたすら下ネタを連発するだけの曲だけど、意味があるのん?」


 梓が質問した。すると聡美が返答する。


『下ネタは子供受けするからです。はっきり言ってくだらないことはわかっています。しかし大人たちも下ネタで笑い転げた時代を思い出してもらいたかったのです』


 ロシア語で答えたが、ちんぷんかんぷんだ。背後では陽子がスケッチブックを手にして聡美の言葉を出した。一応聡美は手話で会話しているが、知らない人にはわからないだろう。といっても障碍者に配慮している形をとっていた。


「あれは笑えるよね。ひたすらうんことしっこを繰り返しているもの。大爆笑だよ!!」


 律が笑いながら腹に手を当てて答えた。


「でも女性のあれはさすがにNGですね。精々うんことしっこ、べんじょが限界です。もともとはイギリスのヘビーメタルバンド、ナパームデスのSilence is Deafeningを意識しましたね」


「だーだだっだだだっ!! はそのまねです。でも実際はそんなこと言ってませんけどね」


 陽子と美菜子が答えた。さらにスケッチブックを取り出すと今度は商店街の電気屋の宣伝を書いた。秋本美咲が購入した電気ポットや電子レンジをセールすると書いてある。


「あとはなんで秋本美咲さんなのかな? 彼女は演歌歌手だし、あなたたちはヘビーメタルでしょう? はっきり言ってコンテストに出たのは受け狙いと思われても仕方ないよ?」


 唯が質問した。そもそもすべてにおいて・ファックユーは未来の美咲ちゃんコンテストに参加して、そのまま事務所に入ったのだ。当時はりかというワイチューバー一人だけ採用と思われたが、美咲の独断で全員合格になったのである。なぜ彼女たちは参加したのか。唯はそれが知りたかった。


「美咲さんは私たちに似ているからです」


「あの人も外見で苦労したと言ってました。美人すぎて女子には嫌われ、男子には性的な目で見られたとありました」


『私たちはあの人のロックな生き方に惚れたのです。みんなに理想を押し付けられてもはねつける強さに励まされました』


「美咲さんは私たちの希望です。なので私たち全員が美咲さんなのです。4人で秋本美咲なのです」


 メンバーは力強く答えた。もちろん陽子はスケッチブックで宣伝している。唯たちは感動した。自分たちは日本人だが、性格や家庭に難があり、大変な人生を送ってきた。正直目標がなかった。歌ウ蟲ケラの結成もなんとなく作っただけで、解散をしても惜しくなかった。それが長く続いたのは奇跡と思われる。


「では最後になりました。お互いに自分たちの持ち歌を歌いましょう」


 唯が言った。歌ウ蟲ケラはすべてにおいて・ファックユーを歌い、逆にすべてにおいて・ファックユーは歌ウ蟲ケラを歌った。


 唯の歌う歌はどこか恥じらいがあり、ぎこちなかった。愛生の歌も普段とは違うジャンルで音程もずれていた。


 この動画は100万回ほど再生された。商店街には観光客がやってきて、店は繁盛したという。

 すべてにおいて・ファックユーはポプテピピックのキャッチコピーを意識しました。実際はどうあがいてもクソなのですが、単行本の表紙を見て、すべてにおいてファックユーでもいいと思った。


 陽子がスケッチブックで宣伝するのは、動画で見たてなもんや三度笠がモデルです。

 CMを入れず、テロップでスポンサーの名を出してました。


 メンバーの名前は爆風スランプとけいおん! の声優の名前から取りました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後は凄いメンバーでした。
[良い点] これは良いコラボですね。 すべてにおいてファックユー。 ある意味、歌ウ蟲ケラ以上に濃い面子ですね。 でも唯一無二の何かがあるような気もしました。
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