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外伝その1 美咲と ジストペリドが 対談したよ

『はーい、おはこんばんちはなら~!! 美咲ちゃんねるの秋本美咲あきもと みさきでーす!! よろぴくね~」


 金髪碧眼の美女が答えた。彼女は秋本美咲、中身は立派な日本人である。動画ではブラウン色のスーツを着ていた。髪の毛は後ろにまとめてある。

 背景は青色のテントの様だ。会議で使用されている机とパイプ椅子が並んでいた。


『今回は秋田県の股木またぎ町から生中継です!! そして今日のゲストはジストペリドのお二人に来てもらっています!! どうぞ!!」


 美咲に紹介されたのは金髪に染めた王子のような少年如月湊と、黒髪の少年の葉月陽翔はづき ひなとである。二人合わせてジストペリドと呼ばれており、今売れに売れているユニットだ。

 特に葉月の歌唱力は最高で、地味でぱっとしない如月と組んだことでその破壊力は倍になったのである。


『どうもー、如月でーす』『HINATOです』


 如月は人懐っこく答え、HINATOは無愛想に答えた。


『では今回股木町を選んだのは理由があります!! それは熊が町に降りてきたからです!!』


『確かおじいさんが犠牲になったんですよね。痛ましい……』


 HINATOは目をつむり黙とうする。遠い土地で死んだ人間などニュースでしか聞かず、他人ごとに思うものだが、HINATOは真剣である。


『役場は猟友会に要請して、熊を3頭射殺したそうです。なんでも人里に慣れすぎたため、親子まとめて処理しないと危険だそうですね』


『ちょっとかわいそうですね。でも人間を殺したんだからしょうがないですよ。それで他の人が襲われたら目も当てられませんね』


『そうなのです!! ですが役場では抗議の電話がじゃんじゃん鳴ったそうですよ!! なんで熊を殺すねん、かわいそうやろが!! とか言ってね!!』


 美咲はわざとらしく両手を握り、机をたたくような仕草をした。怒りをあらわにしているようである。


『殺すねんて、相手は関西人でしょうか。熊が被害を出しているのに可哀そうもなにもないと思いますが』


『そう思うでしょう? でも相手は延々と罵倒を繰り返し、何度も何度もかけてくるんですよ。役場ではもうそのせいで業務に支障が出ているそうなんです』


『それって訴えることは出来ないのでしょうか? 役場などのいたずら電話は訴えてはいけないのでしょうか?』



 HINATOが疑問を投げかけた。いくらなんでもひどすぎる話である。


『もちろん訴えてますよ。これは業務妨害罪になります。これは証拠が必要になりますね。相手の通話の記録や、通話詳細に着信履歴。かかってきた日時や、回数、内容といった記録が必要です。あとはそれによって健康被害を受けた場合、診断書があれば尚いいようです』


 美咲が説明した。さてテントの中に一人の巨漢が入ってきた。ゴスロリ衣装を着たプロレスラーのように見える。彼は大きな寸胴鍋を持ってきて、美咲たちの前に置いた。


『今、持ってきたのは熊の肉で作られたカレーです。猟友会では熊肉を使ったレトルトカレーを販売しているんですよ』


『それって採算取れるんですか?』


 如月が尋ねると、美咲は首を横に振る。


『雀の涙程度らしいですよ。熊を運ぶのにもお金はかかるし、猟友会の皆さんは常にかつかつなんです。そのくせ何も知らない連中から嫌がらせの電話を受けるなどして、辞めていく人もいるからひどい話ですね』


 そして美咲はパンパンと手を叩く。双子のメイドが段ボールを抱えて持ってきた。中には毛皮と骨で作られたアクセサリーとハンコが入っている。


『これは私の事務所が買い取り、加工したものです。毛皮はコートに、骨はアクセサリーとハンコなどにしました。熊をただ殺すのではなく、その身をきちんと使い切ることが大事だと思います』


『そうですね。で、カレーの味はどうなのでしょうか?』


 HINATOが興味津々である。メイド二人がプラスチック製の皿に白米を乗せ、カレールーをたっぷりかける。それをジストペリドの二人に差し出した。


『とてもおいしい肉ですよ。私は事前に食べました。ジストペリドの二人に是非食べてほしいですね』


 美咲に言われて、二人はカレーを食べる。


『おいしいですね。甘みとうま味が強いです。カレールーもいい味です。とても柔らかいですね』


 如月は感心していた。HINATOももくもくと食べている。


『肉は臭みを取るためにトマトなどに漬けてました。臭みがあるのでカレーにしてみたのです。気に入ったようで何よりです』


 美咲はほっこりした顔になった。


『ではこのカレーを今から販売します。ここは股木町役場の駐車場で配信しているのですよ。熊の加工品も一緒に売ります。売り上げは業者の手間賃を除いて猟友会に寄付させてもらいます。皆さん、ジストペリドがカレーを盛ってくれますよ!! ぜひ遊びに来てくださいね!!』


『俺たちが盛るのかよ!! こりゃあ面白いな!!』


『初めての経験だな。楽しみですね』


 ジストペリドの二人はノリノリであった。すでに駐車場にはジストペリドのファンが詰めかけてきた。

 カレーは飛ぶように売れたし、毛皮も値が張っていたが、現金一括払いで支払うファンがいた。

 この日のイベントは盛大に盛り上がるのであった。


 ☆


「で、私たちが事務所でいたずら電話の対処をしていたわけですね。わかります」


 髪がぼさぼさで根暗そうな20代の女性が嫌味を含めてつぶやいた。烏丸からすまりかといい、顔出しNGのワイチューバ歌手である。

 ここは美咲の個人事務所セイレーンだ。佐鰭田さびれた町にある。

 そこで美咲とマネージャーの岩佐康いわさ やすしがいた。りかはソファーの上で体育館座りをしている。


「ごめんね烏丸さん。大変だっただろう、特別ボーナスを出すからね」


「名字でなく、名前で呼んでください。まあ、事務所総出でいたずら電話の証拠保存に勤しんでましたからね。世の中、頭がおかしい人でいっぱいですね」


 りかは不快感をあらわにしていた。実は動画には事務所の電話番号を表示していたのだ。

 おかげで生配信中に事務所に電話がかかってきた。


「なんで熊殺しを正当化するんや、アタマおかしいんとちゃうか!!」「ジストペリドの二人に熊肉食わせるなんて、あんたは鬼や!! 殺しに行ったる!!」「人間が何人死んでもええんや!! 熊の命がこの世でもっとも大事なんや!! おんどれらの住処に火ぃつけたるわ!!」


 電話の内容は罵詈雑言ばかりで、何度も何度も同じ内容を繰り返すなど頭がおかしいとしか思えなかった。もちろんこれらの音声は記録しており、証拠もそろえている。

 現在副社長の立場である石原克己いしはら かつみが証拠を持って警察に訴えている最中だ。いたずら電話はあまり警察は相手にしてくれない。精々着信拒否しろというだけだ。

 逆に証拠がそろっていれば業務妨害罪と脅迫罪で訴えることが出来る。


 基本的に非通知の着信は拒否している。しかし相手はどうあってもセイレーンというか、秋本美咲を攻撃したいのだ。彼女を徹底的にこき下ろすことで日頃のストレスを解消したいのである。

 非通知拒否されたら大抵はそこで諦めるものだが、バカは諦めず何としてでも美咲を攻撃するために番号を察知されてでもいたずら電話を掛けたいのだ。


「この手を利用してうちにいたずら電話を掛けさせるのさ。それで証拠を集めて警察に訴える。この手で100人近くを刑務所にぶち込んでやったよ、あっはっは!!」


 美咲は愉快そうに笑うが、康は顔をしかめていた。犯罪者を釣るためとはいえ、普通の人ならストレスで健康障害を起こしそうなものである。だが彼女は胆力がすさまじく、この程度では物おじしないのだ。それに事務所にもおびえる人間はいない。康は美咲の身を案じているが、いざとなれば身体を盾にする覚悟を持っている。


「そういえばジストペリド側はどうなんでしょう? というかよくあんな動画に参加しましたね?」


「本人たちも事務所もノリノリだったわよ。熊の被害が増加しているのに、熊の駆除を邪魔する連中に対してうっ憤が溜まっていたみたいね。確かに熊を駆除するのは可哀そうだけど、人が黙って傷つくのを見過ごせないじゃない」


「……美咲さんも、ジストペリドもすごいですね」


 ちなみにジストペリド側にも抗議の電話が来ていた。アイドルに熊肉を食わせるなと。しかしSNSでは現地で如月とHINATOに熊肉カレーをもらったファンは、熊肉美味しい、熊をただ駆除するのではなく活用することは大事だと反論した。

 それにジストペリド側もこの件に関しては、自分たちと事務所側も納得して依頼を受けたと動画を配信する。


「世の中には馬鹿が多すぎるわ。もっとも法律にはかなわないけどね。抗議した連中も懲役5年か罰金50万の現実を突きつけられて正気に戻ったらしいわ。脅迫罪は懲役2年と罰金30万だけどね。家族や親せきには見捨てられるし、前科持ちはまともな職もつけない。前科を聞きつけてからかわれたりバカにされて再び傷害を起こして刑務所に戻るのが落ちね。中には現実を受け入れられず私を逮捕しろと訴えたけど無視され、頭がプッツンキレて死んだ人もいるらしいわ」


 美咲は寂しそうにつぶやいた。SNSの発達で人々は宇宙より広い世界を手に入れた。だが狂人を増幅させる副作用も出た。

 美咲は動画で相手が抗議してくるよう仕向けていたが、結果は予想外な方向に飛ぶことが多い。

 

 以前福島県の処理水問題も抗議者が美咲に暴力をふるうことを期待していた。ところが処理水放出に反対する国会議員が絡んできたのは驚いた。

 結果的に配信は大盛り上がり。再生数も史上最高になったが、美咲にとって微妙な感じであった。


「世の中はバカが多すぎる。私が動画でちょっと煽っただけで後先考えずに攻撃してくる。でも私は負けないわ、そいつらをみんな駆除してやる」


 美咲は闘志を燃やしていた。それを見たりかはぼそりと独白する。


「この人、歌手というより、活動家ですよね……。何かあったのでしょうか?」

 今回は熊の駆除でいたずら電話が来る問題を美咲に語っていただきました。

 ゲストは悠月星花さんの僕アイシリーズのジストペリドの二人に出演していただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的に熊は好きだけど、 射殺は仕方ないと思います。 というかキャンパーとかの残飯で 熊が人間の飯の旨さ覚えて人里に 降りてくるんですよね。 この辺の問題もちゃんと取り上げて欲しいですね。
[一言] 熊肉がかわいそうという人は牛も豚も鶏も魚も貝も食べていないということですね。 熊だけかわいそうでは通りませんよね。
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