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二話

サブタイトルの意味を完全に誤解していました。第二話です。

その日、俺達はいつも通り魔物討伐をこなし、素材袋を米俵のように担いで帰路についていた。


「今日は結構取れたね」

「ああ。これで依頼報酬も入れば結構な収入になるぞ」

「新しい装備買いたいなぁ。このメイス、ちょっと欠けちゃったんだよね」

「あの時か?」


「あの時」というのは、言わずもがな俺が獣型魔物を一匹仕留め損ねた「あの時」のことである。

マリアは現在使っているメイスはなかなかに高価なものだったのだが、流石に数年単位で使っていれば経年劣化もするだろう。

詠唱・祈祷・鈍器としての機能全てを兼ね備えたメイスは、そもそもの平均単価が高い。

以前メイスを買った時はちょっとした収入源があったため躊躇がなかった。今は話が違う。

正直懐は痛むものの、マリアのためだ。俺は頭の中で早速計算を始めていた。

森を抜けて街へ入ると、なんだか周囲の雰囲気が色めきたっていた。祭りが始まる前のあの空気に似ている。


「…ああ、野外ステージか」


野外ステージというのは、その名の通り野外に設営された臨時ステージのことを指す。

なんでも、楽器を弾ける貴族やら一芸を持っている奇術師なんかが出し物をするのだとか。

普段娯楽とはほど遠い生活を送っているため、こういった無償で見られる楽しみは結構ありがたかったりする。


「そういえば今日はウラル国が属国になった日だっけ」

「そうだったか」


俺達が故郷を出て移住してきたこのウェイリル帝国は、まごうことなき帝国である。

つまり、一人の支配者が二つの国を統合して牛耳っているのだ。

そして、俺達の故郷は件のウラル国。母国がどこに支配されようが何の感慨も湧かない。

なんせ…


「ウラル国かぁ。懐かしいね。…二度と行きたくないけど」

「俺もだよ。でも、ここも大して変わらないよな」

「私が無固有である限り、きっとどこに行っても同じだよ」


俺はバレないように唇を噛んだ。

マリアは、故郷であるウラル国で…正確には、故郷であるウラル国のとある村で「無固有」故に壮絶な迫害を受けていた。俺は彼女が両親も含めた村の連中にどんな扱いをされてきたかよく知っている。

一番近くで見てきたからだ。


「あーあ、私も何かすっごい固有スキル持って生まれたかったなぁ」

「…たとえばどんなのがいいんだ?」

「うーんと、そうだなぁ…はは、いざ聞かれると全然思い浮かばないや」


マリアはいつも眉を下げて困ったように笑う。

俺はマリアの笑顔が好きだが、この虚勢を張っている時の笑顔は大嫌いだ。

彼女にこんな顔をさせている自分のことが情けなくなってかなわない。


「ね、納品と報告終わったら野外ステージ見ていこうよ」

「いいね。見に行こう」




ギルドでの用事を済ませ、疲労感のにじむ表情をした受付嬢にねぎらいの言葉をかけた俺達は、幾分か軽い足取りで街の広場へと向かった。

広場に近づくにつれて人通りも多くなり、俺とマリアははぐれないよう手をつなぐ。


「うわぁ…すっごい人多いね」

「建国記念日の次にめでたい日だからな。帝国としての建国記念日だと考えれば、下手すりゃ元の建国記念日よりもめでたい」

「確かにね」


がやがやとした雰囲気。子供の笑う声がする方を目で追いそうになって、ふっと視線を逸らした。

今はマリアとお祭り気分を楽しむ時だ。


「あ、露店が出てるね」

「今ならなんでも売れそうだな」

「私たちも何か露店やればよかったかな?」

「はは、商人ギルドに入ってなきゃ許可が下りないよ」


空気に色がついているような気さえする。

香辛料の香りやら普段は滅多に嗅げない甘い砂糖の香り、広場のあちこちに飾られた花々のむせかえるような香り…。

俺は正直このごたごたした雰囲気が嫌いじゃない。それはマリアも同じようで、目をキラキラと輝かせている。可愛い。


「なんか去年よりも盛り上がってるね」

「この地方を取り仕切ってる伯爵家が銀脈を掘り当てたらしい。それで去年より予算が費やされてるんだろ」

「ああ、あの子のお家だよね」

「もしかしたら今日の舞台にあいつも出るのかもな」


俺達が話しているのは、伯爵家の娘として恵まれた生活をしているのにも関わらず俺達と好き好んで関わろうとしてくるとある少女についてである。

あいつは楽器が上手い事で有名だ。それ以外でも何かと話題を掻っ攫っていく奴だが。




人混みを掻きわけて、なんとか舞台の近くまでやって来た。この街は結構規模が大きく、人口もそれなりに多い。たった一つしかない広場周辺にそれだけの人数が殺到するんだから、この混み具合にも納得である。


「ちょうど始まりそうだね」


先ほどまであんなにもうるさかったのに、突然前列の方から静けさが伝播してきた。

舞台が始まる予兆である。雰囲気に呑まれ、マリアもらしくない小声で話しかけてきた。


「ふふ、楽しみだね」


耳元でこそこそと話すものだから不覚にもドキッとしてしまう。

赤らんだ頬をごまかすように咳払いをして、俺は不愛想に頷いた。


パッと臨時ステージのライトがついて、一人の少女が姿を現した。

正確には、元から暗いステージで待っていた彼女をライトが照らした。

燃えるような深紅のボブカット、完璧なアーモンド型の輪郭で縁どられたエメラルドグリーンの瞳、全体にしゅっと整ったいわゆる「美女」。

虹彩に合わせたのか、深緑の上等なマーメイドドレスに身を包んだ彼女は、緊張気味に舞台下へ微笑みを投げかけてからヴァイオリンの弦を構えた。


「ヴァネッサちゃんだ!」

「おい、静かに」


思わず、といった風に声を上げたマリアにこそっと注意する。

でも、その気持ちはよくわかった。まさか、初っ端から出てくるとは。

美しいヴァイオリニスト…ヴァネッサ=レイモンドは、マリアに向かってウィンクをし、そのまま流れるような演奏を始めた。

この世のものとは思えないほどの美しい旋律が広場の空気を柔らかく撫でていく。

遠くで未だ騒がしかった露店商人達の売り文句も、それに呼応するようにぴたりと止んでいた。


あの俺達とは隔絶された世界で生きていそうな――実際隔絶されているのは俺達だが――美少女こそが、先ほど言っていたあの物好きな伯爵家の娘その人であった。

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