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一話

あまりにもネーミングセンスが足りていない作者です、すみません。

この小説は鬱要素を一切含まない健全なラブコメディーです。安心して読み進めていただくことができます。また、前半がグダグダでも読み飛ばさないでください。

尚この作品は個人の気分によるタイムリープ、思いがけないガールズラブ要素を含みます。

これらが苦手な方は耐えて読んでくださると幸いです。

結末までの展開は考えてありますが、投稿頻度はまちまちです。


「マリアごめん、そっち行った!」

「任せて!」


ぐしゃりという重たい音が響き、獣型魔物の断末魔が弱弱しく途切れた。

死ぬ瞬間だけは普通のか弱い動物みたいになるんだから、無駄に罪悪感をくすぐられてキツい。

今のところ魔物討伐が一番稼げるので続けているが、そのうちもう少し穏やかな仕事をできるようになればいいな。無理だろうけど。

そんな事を考えながら、俺は今しがた魔物の頭を潰したマリアの元へと駆け寄った。


「私が魔物を殺したあと、いっつもその顔してるよね」

「…その顔ってどの顔だよ」

「すごく悪い事しちゃった、みたいな顔」

「ああ。まあ、うん」


極力手を汚させたくないため、マリアには補助の役割しか任せていなかった。

しかし、今日は一匹仕留め損ねてマリアに汚れ仕事をさせてしまったのだ。そりゃあ悪い事をした気分にもなる。


「ごめんな」

「すーぐ謝るんだから。私は全然大丈夫だよ。…まあ、ちょっとだけ心にクるものはあるけどね。やっぱり自分でやるのはしばらく無理そうかも」


そう言って、マリアは眉を下げたいつもの笑い方をした。

幼馴染の欲目を抜きにしても、マリアはとても可愛いと思う。

真っ黒でツヤツヤのロングヘア、大きな金色の猫目。顔の造形も人形のように整っている。

返り血で汚れたメイスを拭いてきれいにするマリアを横目で盗み見ながら、俺は魔物の素材をはぎと

る作業をした。


「アイン、今日は結構お金になりそうだね」

「そうだな。久し振りに外食でもするか?」

「いいね。いつもの酒場?」

「ああ。ちょっと奮発してステーキでも食おう」

「げえ。こんなのやった後によくお肉食べれるよね」

「慣れだよ、慣れ」


俺はアイン。平民なので苗字はない。同じく平民出身のマリアも苗字がない。

だが、もし俺達に苗字があるとすれば間違いなく同じ苗字だっただろう。事実上結婚しているようなものだからだ。

ずっしりと重くなった素材袋を肩に担ぎ、俺達は帰路についた。

こうして日銭を稼ぎ、俺とマリアは生計を立てている。それはきっとこれから先も当分変わらないルーティンで、二人ともそれを受け入れている。

息苦しい故郷から逃げ出してから、そろそろ10年が経とうとしていた。



「昨日ちょっと食べすぎちゃったかも…心なしか太った気がするもん」

「気のせいだよ。マリアは細いんだからもっと食べないと」

「あ!それセクハラってやつだぁ!」

「今更ちょっとセクハラされただけで騒ぐなよ」

「…ノリ悪ーい」


同じベッドの上で、半裸のマリアがお腹の肉をつまんでいる。

マリアより少し先に起きた俺は、もう仕事着に着替えて朝食を済ませていた。

コーヒーとジビエサンドウィッチを盆に載せてベッド脇に置いてやると、マリアは嬉しそうに顔を綻ばせる。一日で最も安らぐ瞬間である。


「おいしいね、これ。」

「昨日の魔物が結構肉付き良かったからな。赤身が多くていい肉だった」

「なんかアインが調理したらいくらグロくても食べられる気がするね」

「単純に腹減ってるだけだろ」



そうして簡単な朝食を済ませ、俺はマリアと連れ立って我が家…街はずれの森小屋をあとにした。

ここ10年ずっとこの小屋で暮らしているが、ちょくちょく手入れをしてやればかなり住みやすいいい家だ。きっと建てた人は腕の良い大工だったのだろう。感謝しなければ。

…感謝しようにも、先住者はとっくの昔に死んでいるだろうから感謝のしようがないのだが。


俺達は他愛のない事を話しながら、いつも通り冒険者ギルドに足を運んだ。

道なき道がしっかりと草の刈られた道になり、やがて石畳になる。街はずれという事もあり、俺達の靴裏を叩く感触は街でぬくぬくと過ごす人々より数種類多い。

街の中心部に、その建物はどんと構えている。

冒険者の業務はどれも泥臭いものなかりなので、冒険者ギルドもなんとなく粗暴な印象を持たれることが多い。

しかし、実際は結構こぎれいなものだ。

赤茶色のレンガが積まれた壁面に、銀色の取っ手が付いた重厚な両開きの鉄扉。

中に足を踏み入れると、硬い石の床が広がっている。様々な用途で使われる木製のテーブルが無数に置かれ、奥の方には横一列に受付譲が並ぶカウンターがある。今となってはすっかり見慣れた光景だが、冒険者ギルドが荒っぽい怒号の飛び交う酒場のような所だという偏見を持っている人間がこれを見れば、きっと心底驚くだろう。その辺にある観光客向けの宿屋なんかよりよほど端正な造りだ。


「いつもご利用ありがとうございます。本日受注致しました依頼はこちらになります」

「うーん、今日は全体的に報酬がしょっぱいね」

「難易度低いのしかないからしょうがないだろ。この一番もらえるやつにするか?」

「うん、それにし」


依頼掲示板から依頼書を持ってくるだけでも依頼は受けられるが、俺達はいつもカウンターで今日の依頼が詰まったファイルを見せてもらう。依頼掲示板の方はあまりにも雑然としているため、お目当ての魔物討伐依頼を見つけるだけでも骨が折れるのだ。

マリアが笑顔で頷こうとした瞬間、派手な音を立ててギルドの扉が開け放たれた。


「おおい!依頼をよこせ!」


無駄によく通るドラ声が、朝早くでまだ人もまばらなギルド内に大きく響く。

先ほどあたかも「冒険者ギルドでは怒号が飛び交うようなことがない」かのような言い方をしたが、実は結構いたりする。怒鳴る奴が。

そいつは最近悪い意味でもいい意味でも噂になっている男だった。

ギルドが設けている規定に準拠すれば、最上位より一つ下のAランク冒険者だ。

もっとも、最上位のSランク冒険者はほぼ都市伝説のようなものであるため実質の最上位である。

俺は結構腕が立つ方だという自負があるのだが、こいつに勝てる気は全くしない。


「…掲示板から選んでいただくか、カウンターで直接」

「カウンターからに決まってるだろうが!これだから給料泥棒はよぉ」


…そして、見ての通り性格にかなりの問題を抱えている。世間の冒険者に対する偏見が未だに根強いのは、それが別側面から見れば別に偏見ではないからである。

ちなみに、俺が見た限りではこいつの受注方法はまちまちで、気分次第で掲示板から依頼書をはぎ取ったりもするしカウンターで直接受注したりもしていた。受付嬢の案内は全く間違っていない。

そして毎日外部から依頼を受注して仲介役を担ってくれているギルドの職員をなぜ給料泥棒だと思うのか。彼女達の忙しい様子が目に入らないのだろうか。俺は眉間に皺が寄るのを抑えたが、隣に立つマリアは肩を強張らせて嫌悪感をあらわにした表情である。


「おっ、『無固有』じゃん」


男は取り巻き(ギルドメンバー)を引き連れてのっしのっしとカウンターまで歩いてきたかと思うと、マリアを見て下衆な笑い方をしながらそう言った。

マリアはびくっと震えてすぐに俯く。


「おい、お前」

「なんだよ彼氏くん。固有スキルねぇのは事実だろうが」

「やめろ。なんでいつもそうやってマリアに突っかかるんだ」

「だ、大丈夫だよアイン!な、慣れてるし…」


そう強がりを言いながら、俺の服の端をつかむその手は弱弱しく震えているし、視線はあちらこちらをさまよっている。特に動揺している時に出る吃音症も出ていた。


固有スキル、というのは、この世界に生きる人間が生まれつき持つたった一つのスキルのことだ。

人口の実に99.9%が持っていると言われており、そのスキル内容は被りが全くない。つまり各々が唯一無二のスキルなのである。

しかし、この男が言う通りマリアは固有スキルを持たずに生まれてきた。

早くて3歳、遅くて10歳までにはなんらかのスキルが明らかになるはずなのだが、マリアだけはなぜかスキルが発現しなかったのだ。


「おらそこどけよ。今から俺が依頼受注すんだから」

「はあ!?カウンターは他にいくらでもあるだろ!」

「今日の気分的にそのカウンターを使いたいんだよ。それともなんだ?俺とそのカウンターをかけて1on1でもするかよ」

「…くそ」


これ以上の争いは不毛極まりなかったし、何より俺はこいつに勝てない。正直に言って恐怖の方が勝った。プライドよりも身の安全の方が大事だ。


「…ありがとう、アイン」

「なんでそこでありがとうなんだよ。俺がもっと強ければこんな目にも合わないのに」

「アインは強いよ。依頼は別のカウンターでも受けられるんだから、そんなに落ち込まないで」

「お前は優しすぎるよ」


あの男の持つ固有スキルは「自分個人に敵意を持つ相手からの攻撃を完全に無効化する」。はっきり言って、今までお目にかかった固有スキルの中でもトップレベルの強さである。

俺はあいつに大して敵意を持たず接する自信がない。目の前に立たれただけでも殺意が溢れそうになるのだ。

一方、俺の固有スキルは「周囲の人間を回復させる」というもの。一見有用そうに聞こえる上極めて稀有なこのスキルだが、実際はかなり微妙なスキルだと言える。

なぜなら、固有スキルでなくとも回復魔法なんていくらでもあるからだ。

回復魔法を得手とする祈祷師を雇わずとも、中級ポーションを一瓶飲み干してしまえば俺のそばで1時間過ごす程度の回復効果がある。圧倒的に俺の方がコスパが悪い。

それに俺自身は回復しないため、「自分でヒーラー役もこなせる前衛剣士」的な立ち位置になれるわけでもない。とんでもないクソ固有スキルである。



結局、一番報酬が旨かった討伐依頼はあの男が搔っ攫っていった。

俺達はそれより半桁ほど安価な討伐依頼を受注し、同時に薬草をつんで納品するだけの依頼も一緒に受注した。ちょうど今日の依頼で訪れる森に生息する薬草だったのだ。もらえる金はもらっておくのが俺のモットーである。


「薬草採集、退屈だね」

「…ああ」


報酬が安かった分討伐依頼は驚くほど簡単で、俺達は早々に草むしりへと移っていた。

この薬草、茎が結構頑丈なので手でちぎれない。小型の専用マチェットで刈り取るしかないので、少しだけ面倒臭いのだ。


「…明日はいい依頼、見つかるといいね」

「……ああ。」


俺はマリアの笑顔から目を逸らすことしかできなかった。

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