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田川宗介




 「班長、調べてみたっすけど、今回の自殺者と自殺未遂者4人で10年前の一ノ瀬家に関係している人物は2人だけですね」


 イカれキャリア様に今回の自殺者と10年前の一ノ瀬家との関連を調べてもらったが、4人中2人とは微妙なところではある。

 たまたまな可能性も捨てきれない。


 「班長のほうはどうだったんすか」

 「あー、田川宗介と一ノ瀬宗介は同一人物だったよ。田川は母方の祖母の旧姓だった」


 俺は俺で田川宗介について調べていた。

 

 「10年前は東京理科大の生徒で当たり前たが一ノ瀬を名乗ってる。父親と違い研究者になる夢を持っていたようなんだが、大学こそ卒業までしてるが、その後は研究に関わることもなく、3年前にあの店をopenするまでは東京にもいなかったようだ」


 祖母の実家を頼って、神奈川県に移り住んだあと、在宅の仕事をしていたようだ。田川姓を名乗り出したのもその頃からのようだったが。


 「妹の自殺のあとから、大学である桜から検出された、新種のアルカロイドの研究をしていたそうだ」

 「ある桜って、まさかですよね」

 「あー、泣き桜だな。元々優秀な男だったそうなんだが、周りは父親と妹の相次ぐ自殺で精神を病んだと思っていたらしい。母親も心労で倒れて宗介の大学卒業を待たずに死んでるしな」

 「悲惨っすね」

 「だが、どうも研究論文としては発表してるらしいんだ」

 「その新種のアルカロイドですか」

 「誰からも相手にされなかったらしいがな。卒業資格を得るための論文は別のものを提出させられたって話だ」

 「うーん、ホントにあったんすかね。その新種のアルカロイド」

 「だから、調べるぞ」

 「へっ」



 警視庁中央警察署管理課


 「一応、まだ捜査中の案件ですから、捜査対象である楠薫(くすのきかおる)さんの部屋の私物は押収して保管してますけど」

 


 二番目に自殺した楠薫は独身で都内マンションに一人暮らししていた。自殺であることが濃厚であり、事件性も低かったことから、警察が一時的に部屋の私物を保管したのだが、都合四件にのぼる自殺の連続で本格的に捜査が始まってしまったために、証拠品として押収されたままになっていた。


 「賃貸マンションの方はもう普通に貸し出されてるんすよね」

 「あー、とはいえ瑕疵物件だ。ネットで調べりゃ情報も出てくる時代じゃ、次の店子を見つけるのは苦しそうだな」 


 イカれキャリア様と話つつ、押収物を見ていく。


 「あったな」

 「ありましたね」

 


 そこにはあの特徴的な桜のレリーフが施された小瓶があった。



 警視庁中央警察署鑑識課


 「真鍋警部、変なもの持ってくるの、勘弁してくださいよー」

 「ゆみちゃんだっけ、久しぶりに会いたく無い。随分と入れ込んで金欠らしいけど」

 「へっ、奢ってくれるんですか。……って、いやいや、駄目ですよ。正式な仕事じゃないのは」

 

 鑑識課に所属する俺より二つ下の鑑識官、武藤(たける)には毎度、色々とお世話になってるが、こいつを釣るのには古典的な手段が一番だ。

 入れあげてるキャバ嬢の名前を出しただけでこれだ。イカれキャリア様と顔を見合わせて下手な芝居と行くか。イカれキャリア様も悪い顔してるが、多分俺も大概だろうな。


 「あー、ゆみちゃんが最近来てくれないって寂しがってたなー、なぁ、小玉くん」

 「あー、そっすねー。全然来てくれないし、飽きられたかもーって言ってたっすね」

 「えっ、二人で行ったんですか、MELLlip(メルリップ)に、えっ、なんで誘ってくれないんです」

 「だって金欠なんだろ。さすがにあそこの飲み代、意味もなく奢れるかよ」


 職場近くの銀座の高級店じゃなく、北区赤羽にある安めの店だ。それでもセット料金だけで一人5000円は取られる。指名料やら女の子に飲ませるドリンクまで考えれば、三人でいけば軽く10万くらいは一晩で跳ぶ。まぁ、流石に指名料やボトルキープ代までは払う気は無いが最初のセット代くらいは奢ってやろうって話だ。

 延長して破産したとこで知らんし、それで金を貸してくれと言って来たら、それを貸しに脅してやろう。警察官のすることじゃ無いが、まぁ、こちとら出世の目もない非接触(アンタッチャブル)慮外もの(アウトサイダー)だ。端から無いもの扱いなんだし、気にすることも無いだろ。


 「まさか小玉警部、ゆみちゃん狙ってるんじゃ無いですよね」

 「なんでそうなるっすか。俺には愛する彼女がいるっすよーだ」

 「いい加減、そのエア彼女設定やめたらどうだ。現物はおろか、一度も画像すら見たことないんだが」

 「シャイな子なんですって、班長。写真とかNGなんすよ」

 「今時、そんな子いるか」

 「ぐふふ、小玉警部、わかるよー、すごいわかる。イケオジな真鍋警部にはわからないでしょうけどねー」

 「なんのこっちゃ、だいたい小玉だってチャラいじゃねーか。俺は落ち着いた普通の中年だよ」

 「……」

 「……」

 「なんで、無言なんだよ。……はぁー、たくっ。せっかく人が連れてってやるかって思ったのによ」

 


 武藤が無言で手を出してくる。小柄なわりにがっしりとして、厳つい顔の武藤が、満面の笑顔だ。


 無言のまま用意した紙袋を渡す。


 「中には楠薫の部屋にあった香水と、こいつがこの前、同じ店から買った香水。それから、東京理科大に問い合わせて取り寄せた、一ノ瀬宗介在学時の論文の写しをコピーしたUSBが入ってる」

 「俺は何もきいてませんが、なんとなく趣味の成分解析をしたくなりましたから、仕事の練習がてら、ちょっと機材を借用して解析しますかね」

 「趣味の解析結果なんてきょーみねーっすけど、ゴミの処理するときは言ってくれれば、シュレッダーにかける雑用くらいするっすよー。先輩」


 白々しい会話をしてから、三人で黒い笑いをする。なんだかんだ、イカれキャリア様だけじゃなく、俺も武藤もイカれてる訳で、そらお守りも任されるって話だ。



 楠薫の部屋にあった香水から、論文に記されていたのと同じ化学式の物質が検出されたと知るのは、それから3日後だった。





 

 



 

 

 

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