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赤池真理 2



 勘が鈍らなきゃ良かった。



 田川宗介が俺たちの捜査線上にあがったのはたまたまだったが、泣き桜周辺の飲食店として聴き込みをしていれば、いずれは彼に会っていた可能性はある。

 ようは早いか遅いか。


 そう言う意味では早い段階で邂逅出来ていたのだ。


 だからだろう、黒川と繋がりがあり、10年前の遺族。泣き桜に関係する過去の研究と。

 お誂え向きに自殺事案との関連を匂わせる事柄の連なりに違和感を覚えながらも、彼を主犯格として捜査を進めてしまった。


 梓組の兵藤が自ら出張って来たこと。

 あれは田川の持つ証拠や、田川の背後を洗う目的じゃ無かったんじゃないか。

 あの一連の自殺にはまだ裏があって、生き残った赤池真理はたまたま生き残ったんでなく、計画的なものだったんじゃないか。


 そう思って、赤池真理と義理の弟、黒川家を調べ直しているうちに田川が自殺してしまった。


 勘が鈍らなきゃ良かった。

 先輩の言う通り、俺がもっとはやく対応してれば、みすみす田川を死なせることは無かったんではないか。


 「まっ、しょーがねーっすよ。人が一人死んでんのに不謹慎かもしんねーっすけど、起きたことはどうしようもねーっすし、いくら結果的にさほど重傷じゃなかったっても、完治するのに数日かかるくらいはぶん殴られてたんすから、班長のせいじゃねーっす」  


 先輩に返す言葉なく黙り込んだ俺の横で、頬張ったバーガーを無理矢理に咀嚼し飲み込んだイカレキャリア様が呆気らかんと言い放った。


 「あぁ、確かにそうだ。真鍋のせいじゃねーな。しゃきっとしろよ。色々と柵のある事件で気負ってんのも、抱え込んでんのもわかるけどよ。実際のとこ、真相なんて大したオチのない事件だろ。お前の読み通りならな」

 「それでも、それでもう、田川を含めれば4人も死んでいます」

 「だから、その落とし前をつけさせるために、逮捕して司法に引き渡すのがお前の仕事だろ。今度こそはきっちり捕まえろよ。前と違って、仲間はいっぱいいるんだからよ」


 先輩はニカッという笑顔で言い切ると蓋を外したカップのコーヒーを豪快に飲んでポテトをつまんでいる。

 

 「お子ちゃま、俺もそれ食いたい。買ってきて」


 そう言って財布から万札を出した先輩にイカレキャリア様が「お釣全部貰っていいっすか」と言って、なわけあるかと突っ込まれてる。


 「お前も食うだろ。お子ちゃま、俺の分2つに真鍋のもな」

 

 「了解ーっす」


 本当に苦手だ。あっという間に自分のペースに引き込んでしまうんだから。


 「なぁ、真鍋。俺が警察辞めたとき、お前を誘ったのは、まだ活きてんだからな。気が向いたら、何時でも警察辞めて俺んとこ来い。今なら家族養うのに心配ないくらいには給金も出してやれっから」


 イカレキャリア様がカウンターに向かうと、しんみりと語り出す先輩に、俺は小さく首を横に振ってから、すいませんとだけ返した。



 バーガーを食べ終えて、俺とイカれキャリア様は先輩に別れを告げて店を出た。

 イカれキャリア様に運転を任せて俺は先輩から貰ったUSBからデータを引き出し確認した。


 そこには予想通り、赤池真理が病院を抜け出したあと、母違いの弟と合流したことが書かれていた。



 黒川純也は黒川の二人目の愛人との間の子であり、正式に養子縁組され、本妻の子供となっている。

 愛人の子供のままであった赤池真理との接点は薄いようにも感じるが、流石は先輩だ、短時間で二人の幼少期について調べ上げてくれたようだ。

 そして、それは概ね、俺が想像した通りだった。


 黒川純也は現在24歳、大学を卒業後、黒川の事務所で秘書見習いとして働いている。

 そう、24歳なのだ。


 10年前、一ノ瀬舞は14歳で自殺をしている。


 一ノ瀬舞と黒川純也は同い年だった。さらに言えば赤池真理と一ノ瀬宗介、のちの田川宗介も二つ違いではあったが歳は近かった。

 本妻との間に中々と子供が出来なかった黒川は愛人を囲った。別に愛人にたいして愛情があった訳では無いらしいとは当時ですら噂になったそうだ。

 元よりお互いに相手の家柄や立場で見合い結婚した二人は愛情が薄く、不妊治療に労力や時間、金をかけることを厭んだようで、詰まる所は愛人は後継者をつくるための夫婦公認の代理母でしかなかった。


 当然に愛人相手にも愛情の薄い黒川は子供が出来てもろくに面倒など見なかったようで、養子縁組された黒川純也の世話は勿論、純也が産まれてからは認知しているからと養育費だけは渡していた赤池真理の母親と赤池真理自身への対応も、自殺した公設秘書、一ノ瀬に任せきりだったようだ。


 公金不正疑惑での自殺の10年ほど前から一ノ瀬圭介は黒川の公設秘書だった。

 彼が赤池真理や黒川純也の世話役に選ばれたのは歳の近い子供がいたことも考慮されていたのかもしれない。

 実の父親は子供に興味はなく、純也と真理にとっては一ノ瀬圭介こそが父親のような存在だったのだろう。

 彼の二人の子供とも兄妹姉弟のような関係だったらしい。


 「ようするに父親がわりでなついてたおじさんと、兄弟同然だったおじさんの子供、それを実の父親にぐちゃぐちゃにされたわけっすね」


 「その上、子供が産まれれば用済みと言わんばかりに実の母親には金だけ渡したら、あとは知らんぷりだったようだな」


 「ヒデー屑っすね」


 「とにかく、黒川純也と赤池真理には実の父親に復讐すると考えるだけの動機があるってことだ」




 一ノ瀬宗介の大学卒業後、間違いなく赤池真理たちは彼と繋がっていたはずだ。

 こんな基本的なことに捜査開始当初気付かなかったんだから呆れ果てる。

 一連の自傷致死事件の主犯は「赤池真理」だ。


 「赤池真理に会うぞ。黒川純也については先輩が引き続いて事務所の人間を使って張ってくれている」

 

 「結局は恋人を死に追いやられた怨みだったんすかねー」



 イカれキャリア様がポツリと呟く。


 黒川純也と一ノ瀬舞の関係がどうだったのか、真相はわからない。ただ、当時二人はとても仲が良かったというのは間違いないようだ。

 もし、自身の采配を越えて仲を深めた一ノ瀬の家族を黒川が疎んだことが、公金不正疑惑のスケープゴートとする引き金だったなら、もし、一ノ瀬の子供たちを盾にとって、彼に自殺を迫ったのだとしたら。


 「俺はやっぱり、是が非でも黒川をブタ箱にぶち込むべきだったんだよな」


 イカれキャリア様はただ無言で俺を見ていた。





 

 

 

 

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